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事例紹介

2024.01.15

商標「KODAMA」商標法第4条第1項第11号登録審決 [弁理士 清水 三沙]

商標「KODAMA」商標法第4条第1項第11号登録審決 [弁理士 清水 三沙]

今月紹介する審決は、本願商標「KODAMA」(標準文字)が、審査段階においては「Kodama」の文字を有する引用商標と類似すると判断されて商標法第4条第1項第11号該当を理由に拒絶されたものの、審判では引用商標中の「Kodama」の文字は引用商標権者である「小玉精肉店」の「小玉」の文字部分を欧文字で表したとみるのが自然であるから当該部分は自他商品の識別標識としての機能を発揮する部分ではないと判断され、引用商標中自他商品識別力を有する部分と本願商標は類似しないため商標法第4条第1項第11号に該当しないと判断されて本願商標が登録になった事件です。

【審判番号】不服2022-16523
【審判請求日】令和4年10月17日
【確定日】令和5年8月7日
【請求人】サントリーホールディングス株式会社
本願商標:「KODAMA」(標準文字)(第32 類「ビール」他)
引用商標:
(第35 類「洋酒・果実酒・酎ハイの小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」他)

【当審の判断】
(1)本願商標について
 本願商標は、「KODAMA」の欧文字を標準文字で表してなるところ、「KODAMA」の欧文字は、それ自体が辞書等に載録されている既成の語ではなく、その表音である「コダマ」については、「木霊・谺」(樹木の精霊。木魂。やまびこ。反響。)、姓氏の一つである「児玉」、「蚕霊・蚕玉」(かいこの神様。養蚕の守護神。)等、別個の意味を有する複数の語が該当するものであるから(株式会社岩波書店「広辞苑第七版」)、当該欧文字表記からは直ちに特定の意味合いを認識させるとまではいえないものである。

 そうすると、本願商標は、その構成文字に相応して「コダマ」の称呼が生じ、特定の観念は生じないものである。

(2)引用商標について
 引用商標は、別掲2のとおり、「NICE TO」「MEAT」「YOU.」の欧文字を大きく目立つように右寄せ三段に横書きし、「MEAT」の文字の左側に、「●創業」「昭和三十年」「小玉精肉店」の漢字等を小さく三行で縦書きし、また「YOU.」の文字の左側には豚足と思しき図形を配し、その図形中に「Kodama」の欧文字を書した構成よりなるものである。

 また、上記「小玉精肉店」の文字部分は、姓氏の一つを表す「小玉」と業種名の「精肉店」を結合したものであると捉えられることから、「創業」「昭和三十年」「小玉精肉店」の文字部分は、創業年と小玉姓の者による精肉店であることを表すにすぎず、自他商品の識別標識としての機能は弱いものである。

 そして、上記「Kodama」の文字部分については、引用商標のかかる構成においては、「小玉精肉店」の「小玉」の文字部分を欧文字で表したものとみるのが自然である。

 そうすると、引用商標の構成中「Kodama」の欧文字は、姓氏の一つである「小玉」を表したものであり、当該文字からは、「小玉精肉店の略称としての小玉」の観念を生ずるものといえるが、結局、引用商標の構成文字のうち、自他商品の識別標識として十分に機能するのは、「NICE TO MEAT YOU.」の文字部分(以下「引用要部」という。)であるといえる。

 加えて、引用商標からは、引用要部に相応して、「ナイストゥーミートユー」の称呼が生じる一方、一連の造語として捉えられるものであるから、特定の観念を生じないものである。

(3)本願商標と引用商標との類否について
 本願商標と引用商標は、それぞれ上記(1)及び(2)のとおりであるところ、全体構成において顕著な差異を有するものであり、外観において相紛れるおそれはない。

 そして、本願商標と引用要部では、称呼において相紛れるおそれはなく、さらに、観念においては、両者は要部においていずれも特定の観念を有しないものであるから、比較することができない。

 そうすると、本願商標と引用商標とは、観念は比較できず、外観及び称呼において相紛れるおそれのないものであるから、これらが需要者に与える印象、記憶、連想等を総合してみれば、商品及び役務の出所について混同を生じるおそれのない非類似の商標である。

(4)まとめ
 以上のとおり、本願商標と引用商標とは非類似の商標であるから、両商標の指定商品及び指定役務の類否について判断するまでもなく、本願商標は、商標法第4条第1項第11号に該当しない。

【コメント】
 本件では、引用商標中に「『小玉』精肉店」の文字が含まれていたことから、引用商標中の「Kodama」の文字は姓氏の一つである「小玉」の文字部分を欧文字で表したものとみるのが自然であり識別力が弱いと判断されました。

 ところで、引用商標の商標権者は「株式会社『コダマ』」です。もし引用商標において「●創業」「昭和三十年」「小玉精肉店」の文字が含まれていなかった場合、引用商標中「Kodama」部分が姓氏の一つである「小玉」と判断されて、本件審判と同様に識別力が弱いと判断されたでしょうか。

 商標権者が片仮名の「コダマ」なので、引用商標中に「小玉精肉店」がなければ欧文字「Kodama」も姓氏の「小玉」と直ちに特定されずに識別力があると判断されたかもしれません。

 実際に使用している商標と同じ態様で出願する場合、要部はどこか、識別力が弱い部分までも含めるのかは出願前に検討すべき重要事項の一つですが、本件はそのことを改めて考えさせられる事件でした。

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