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事例紹介

2023.12.15

識別力に関する審決 [弁理士 服部 京子]

識別力に関する審決 [弁理士 服部 京子]

識別力の判断は厳しくなってきていますが、その中でも登録審決をご紹介したいと思います。

【種別】   拒絶査定不服の審決
【審判番号】 不服2022-8718
【本願商標】 SSレンタカー(標準文字)

第35類「自動車の共同使用に関する事業の運営及び管理,レンタカー事業の運営及び管理」他
39類「自動車の貸与,自動車の貸与に関する情報の提供」他

【適用条項】 3条1項6
【結論】   本願商標は、登録すべきものとする。

原査定の拒絶の理由
レンタカー事業の業界においては、「SS」の語が、車種のクラスを表す記号・符号として使用されている実情があるから、本願商標を、その指定役務に使用しても、これに接する需要者は、「レンタカーの車種のクラスを表す記号・符号である」と認識するにとどまり、自他識別標識としての機能を果たし得ず、需要者が何人かの業務に係る役務であることを認識することができない商標と判断するのが相当である。

当審の判断(下線は筆者、以下同様)
欧文字2字は、商品の品番等又は役務の種別、等級等を表した記号又は符号として類型的に使用される場合があり、そして、レンタカー事業において、「SSクラス」などのように、「SS」の文字は、レンタカーの車種の種別、等級等の名称の一部に使用されている場合があるものである。

 しかしながら、当審において職権をもって調査したところによれば、本願の指定役務との関係において、「賃貸し自動車」(株式会社岩波書店「広辞苑 第七版」)の意味を有する「レンタカー」の語の前に「SS」の欧文字2字が配された構成からなるものについて、語頭の「SS」の欧文字2字の部分が、「レンタカーの車種のクラスを表す記号・符号である」と一般に認識される、その他、役務の種別、等級等を表示する記号等であると一般に認識されるといった取引の実情は見いだせず、さらに、本願の指定役務の取引者、需要者に、「SSレンタカー」の文字全体を、自他役務の識別標識として機能しないと認め得るに足る事実を発見することはできなかった。

 そうすると、本願商標は、かかる構成及び取引の実情から、その指定役務との関係において、これに接する取引者、需要者に、その構成全体が一体となって、特定の意味合いを想起することのない一体不可分の一種の造語として認識、把握されるとみるのが相当である。

【種別】   拒絶査定不服の審決
【審判番号】 不服2022-12380
【本願商標】 オートマーケ(標準文字)

第35類「マーケティング」他
9,42類 省略

【適用条項】 3条1項3号、4条1項16号
【結論】   本願商標は、登録すべきものとする。

原査定の拒絶の理由
本願商標は全体として「自動のマーケティング」程の意味合いを表すものである。また、本願指定商品及び指定役務を取り扱う業界においては、販売促進等のために顧客にメールの送信等を自動で行うことができるシステムやツール等に「オートマーケティング」の語が使用されている事実がある。そうすると、本願商標をその指定商品及び指定役務に使用しても、これに接する取引者、需要者は、「自動で行うマーケティング」に関する商品及び役務であることを認識するにすぎず、本願商標は、単に商品の品質及び役務の質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標と判断するのが相当である。

当審の判断
その構成中の「オート」の文字は、「他の語の上に付いて、自動の、自動式の、自動車の、の意を表す。」等の意味を、「マーケ」の文字は、「「マーケティング」の略。」の意味(いずれも「大辞泉第二版」株式会社小学館)を有する語である。

 しかしながら、当審において職権をもって調査するも、他の語と結合した「〇〇マーケティング」の語の略称を、「〇〇マーケ」と表記することが広く一般的に行われているとまではいうことができず、また、「オートマーケ」の文字は、一般の辞書等に載録がない語であるから、これよりは、直ちに特定の意味合いを有する語と判断しなければならない特段の事情はない。

 他に、原審説示のように、本願商標に接する取引者、需要者が、これを「自動で行うマーケティング」ほどの意味合いを直ちに認識するというべき事情も見いだせない。

 そうすると、本願商標は、その構成文字から、原審説示のとおりの意味合いを認識するとはいい難く、また、特定の意味を有する成語ではないから、その指定商品の品質及び指定役務の質を表示したものとして認識されるとはいえず、むしろ、本願商標は、特定の意味合いを認識させることのない一種の造語として把握されると判断するのが相当である。

【種別】   拒絶査定不服の審決
【審判番号】 不服2022-14430
【本願商標】 レースボクサー(標準文字)

25類「被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,仮装用衣服,運動用特殊衣服,運動用特殊靴」

【適用条項】 3条1項3号、4条1項16号
【結論】   本願商標は、登録すべきものとする。

原査定の拒絶の理由
レースで装飾されたボクサーパンツやボクサーショーツを「レースボクサー」と称している実情があるから、本願商標をその指定商品「被服」中の「下着」、「運動用特殊衣服」中の「運動競技用下着」に使用しても、これに接する取引者、需要者は、「レースで装飾されたボクサーパンツ・ボクサーショーツ」であることを認識するにとどまる。

当審の判断
本願商標の構成中「レース」の文字は、「競争」の意味を有する英語「race」又は「糸を編む、組み合わせる、より合わせる、結ぶ、布地を切り抜くなどして、種々の透かし模様を作った編地や布地。」の意味を有する英語「lace」に通じ、「ボクサー」の文字は「ボクシングの選手。イヌの一品種。」などの意味を有する外来語(参照:「広辞苑 第7版」岩波書店)であるところ、両語を結合して成語となるものではなく、各語の語義も複数あることから、構成文字全体をして直ちに具体的な意味合いを想起させるものではない。

 また、当審において職権をもって調査するも、本願商標の指定商品を取り扱う業界において、「レースボクサー」又はそれに類する文字が、原審認定のような意味合いにおいて、商品の品質等を具体的に表示するものとして取引上一般的に使用されている事実は発見できず、さらに、本願商標に接する取引者、需要者が、当該文字を商品の品質等を表示したものと認識するというべき事情も発見できなかった。

 識別力の判断が厳しくなってきたといわれるまでは、取引上一般に使用されている事実を発見できなければ、審判においては登録となる例が多かったように思います。一方、最近では、使用の事実がなかったとしても、既存の語の組み合わせの場合には、各語の語義を結合した意味合いを容易に看取できるとして、識別力がないと判断されている例を多く見るようになりました。

 今回ご紹介した案件については、既存の(容易な)語の組み合わせではあるものの、単に使用例がないというだけでなく、そのような組み合わせがされることが通常では想定できないという部分もポイントになっているのではないでしょうか。

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