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豆知識

2024.01.15

商標Q&A 第4回 二段書き商標とは何ですか? その②

商標Q&A 第4回  二段書き商標とは何ですか? その②

Q:「ABC \エービーシー」というようにローマ字とカタカナを上下二段に書いた態様からなる商標を目にします。「ABC」と「エービーシー」を別々に登録してはいけないのでしょうか。

A: いいえ。(その1)にて説明させていただきました通り、欧文字とカタカナの商標を別々に登録しなければいけない訳ではなく、上下二段に書いた態様にて1つの商標として登録することも可能です。いわゆる二段書き商標というものについて、今回はデメリットや留意点を中心にみていきましょう。

 まず、昔と違って二段書き商標の出願が減っている原因の一つとして、「標準文字制度」の導入が挙げられます。ご存知のとおり、平成8年の改正商標法により、「登録を求める対象としての商標が文字のみにより構成される場合において、出願人が特別の態様について権利要求をしないときは、出願人の意思表示に基づき、商標登録を受けようとする商標を願書に記載するだけで、特許庁長官があらかじめ定めた一定の文字書体(標準文字)によるものをその商標の表示態様として公表し及び登録する制度(いわゆる標準文字制度)」が導入されました。デザイン化していない文字商標を登録する場合には、標準文字の宣言を行って出願することが増えましたが、注意すべき点として、標準文字は「改行」ができません。つまり、横一連に文字を書した構成でなければいけない訳ですね。そのため、ローマ字に「フリガナ」を付すことができません。無理やり「VIOLETTE(ヴィオレット)」や「VIOLETTE\ヴィオレット」(上下二段ではなく\という記号を入れた横一連の構成)で出願する方法もありますが、記号も構成要素に含まれてしまいますので、あまりオススメできません。また、なかには「VIOLETTE ヴィオレット」というようにスペースで欧文字とカタカナを左右に並べている商標も散見されますが、こちらも「ヴィオレットヴィオレット」と読む商標であるかのように認識されてしまうおそれがあり、あまりオススメできません。このような事情があり、標準文字制度の導入によって「二段書き商標」の出願件数が減ったという経緯があります。なお、標準文字制度が導入された以降も、標準文字宣言をしなければ、二段書き商標を出願することは可能です。
 
 もう一つの留意点としては国際登録(マドリッド協定議定書[いわゆるマドプロ]に基づく国際的な商標登録制度)が挙げられます。国際登録は日本の商標出願/登録を基礎にする必要があり、その際、商標の同一性が求められます。つまり、日本の基礎出願/登録をローマ字とカタカナの二段書きにしてしまうと、国際登録を行う際にも全く同じ商標で出願しなければならず(つまり、カタカナを外すことができず)、カタカナ付きの商標で国際登録がなされてしまいます。諸外国でカタカナを使う予定がなければ、仮に国際登録を行ったとしても、各国において登録商標そのものを使用していないことになりますから、不使用を理由として登録が取り消されてしまうリスクが生じます。将来的に国際登録を検討されている方は、最初から「欧文字」の商標と「カタカナ(又は、ひらがな)」の商標とを分けて権利化することを検討されても良いかもしれませんね。

 さらに、二段書きで権利化しておきながら、どちらか一方の要素しか使用していない場合(例えば欧文字とカタカナの二段書きで登録しておきながら、カタカナしか使用していない場合)、日本国内でも不使用を理由として登録が取り消されてしまう場合があります。どういう場合か説明しますね。商標の不使用を理由とする取消審判が請求された場合においては、商標権者側が登録商標を指定商品等に使用している旨の立証をする必要があります。この際、全く同じ商標を使用していなくても、社会通念上同一と認められる商標を使用していれば登録は取消になりません。ここでいう社会通念上同一の商標とは、商標法上、「書体のみに変更を加えた同一の文字からなる商標、平仮名、片仮名及びローマ字の文字の表示を相互に変更するものであって同一の称呼及び観念を生ずる商標、外観において同視される図形からなる商標」と規定されています(商標法38 条5 項)。例えば、「VIOLETTE\ヴィオレット」という二段書きの商標を登録していながら、「VIOLETTE」のみを使用していた場合を想定してみましょう。常にこの文字をみた需要者が「ヴィオレット」と読んでくれれば良いのですが、これをみた需要者によっては、「ヴァイオレット」と読む人も少なくないかもしれません。そうしますと、「同一の称呼」が生ずるとは限らないことになってしまい、登録が取り消されてしまう可能性がでてきます。一方、例えば、「KING\キング」という二段書き商標について、「KING」という欧文字しか使用していなくとも、この場合は「キング」という称呼しか生じないと考えられますし、また、「王」という観念もそのまま生じますから、登録は取り消されない可能性が高いことになります。

 今回は少し難しい話になってしまいましたね!結論としましては、いわゆる「二段書き商標」なるものは事案によっては登録コストを下げられたり称呼を特定できたりするなど有益な手法である一方で、使い方を誤ると、将来的にリスクとなる可能性を有していることもご理解いただけたかと思います。二段書きとすべき事案かどうか悩まれましたら、ぜひ、お気軽に「とともも」までご相談をいただけましたら幸いです!

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