TRADE MARK TOPICS 商標お役立ち情報
豆知識
2026.08.17
【商標Q&A 第34回:人の名前って商標登録できるのでしょうか】
Q:私は某有名ヘアサロンで修行をしている美容師です。ありがたいことに芸能人や有名人から個人指名をいただくことが増えてきましたので、独立してフリーのヘアスタイリストとして活躍したく思っています。私の名前が知られてきていることから、私のフルネームを事業の商標にしようと考えているのですが、その場合、商標登録はできるものでしょうか。
A:芸術家や料理人、芸能人、ヘアスタイリストなど、組織ではなく個人特有の属人的な技術や魅力を前面に押し出すブランドにあっては、自然とブランドネームもその人を表す名前になることが多くなりますよね。では、ご質問いただいたようにヘアスタイリストさんの名前そのものを商標として登録し、独占排他的に使用することは可能なのでしょうか。答えは…原則として YES です。今回は「名前」の商標登録性についてみてみましょう。
商標は自分と他人の商品やサービスを識別するためのマークになりますから、当たり前すぎる文字などはそもそも商標として機能しない(識別標識になり得ない)、という理由で登録が拒絶されてしまいます。名前でいえば、ありふれた「名字」がこれに当たります。例えば私の名前である「サイトウ」の文字を商標として独占させてください!と申請しても、「サイトウさんなんて日本中に山ほどいるのだから、多すぎて特徴がない&特定の人だけに名字を独占させる訳にはいきません」という理由で登録を拒絶されてしまいます(商標法3条1項4号)。という訳で、ありふれた「氏(名字)」そのものは商標として登録できないのですが、では、下の名前はどうでしょうか?こちらは名字と違っていろいろな種類があり、そこまでありふれてはいませんので、原則として早い者勝ちで商標登録を受けることができます。有名なところでは、ジャストシステムの「一太郎」や「花子」というアプリケーションソフトウェアの商標も、しっかりと登録されていますね。
ではフルネームはどうでしょうか。実は商標法には最近まで「他人の氏名を含む商標」は登録できないという規定がありましたので(改正前の4条1項8号)、出願人本人の氏名であっても、日本国内に同姓同名の他人が一人でもいれば、その人の承諾なくしては登録ができない、という審査運用がなされていました(厳密にいうと、同規定下においてもフルネーム商標の登録が認められていた時代があったのですが、ここについて踏み込むとかなり長くなってしまいますのでまたいずれ…)。とはいえ、先に述べたように、芸術家や料理人、芸能人、ヘアスタイリスト、デザイナーなど、個人の技能によって成り立っているブランドについては、その個人のフルネームを商標として掲げたいという要望がビジネスの現場から根強くありますし、他人の氏名と重複することを理由に一切登録を認めないとすると、模倣品を排除することが困難となることに加えて、日本で基礎となる商標登録を保有できない=国際登録による海外展開もできないということになり、諸々妥当ではありません。そこで2023年の商標法改正(2024年4月1日施行)によりフルネーム商標の登録について要件が大幅に緩和され、たとえ同姓同名の他人がいたとしても、当該他人の氏名がその分野において広く知られていなければ(周知でなければ)、当該他人からの承諾は不要となりました。当該法改正により、ご質問者さんのようにご自身のフルネームをブランドの商標として採用したい、という方々も商標を登録しやすくなりました。こういう法改正は事業者にとってとても有り難いですね!
ただ、この法改正は「個人」の氏名にとどまり、会社の「名称」については従前どおりの運用がなされている(出願した会社名が他社の会社名と重複した場合は、当該他社の社名が周知か否かにかかわらず拒絶対象となる)など難しい点も残されています。個人にせよ会社にせよ「名前」にまつわる商標について登録をお考えの場合は、ぜひ弊所へご相談ください。しっかりと登録までサポートさせていただきます!
※本件記事の情報は、執筆時点で入手可能な法令・判例等に基づいて作成した一般的な解説です。最新の法令・判例と異なる場合や、個別の事案には必ずしも適合しない場合があります。具体的な対応が必要な場合は、弁理士にご相談いただくようお願いいたします。