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事例紹介

2026.08.17

識別力に関する審決 [弁理士 服部 京子]

今回は識別力に関する判断がされた審決をご紹介します。

【種別】拒絶査定不服の審決
【審判番号】不服 2025-3215
【本願商標】TIGガウジング(標準)
第 9 類「ティグ溶接機(手持ち式のものに限る。)並びにその部品及び附属品」
【適用条項】3 条 1 項 3 号 , 4 条 1 項 16 号
【結論】本件審判の請求は、成り立たない。

当審の判断
本願商標を構成する「TIG」の文字は、「TIG(Tungsten Inert Gas:タングステン不活性ガス)溶接」の意味を表す語として、「ガウジング」の文字は、「熱切断の原理を応用して金属に溝を掘ること」の意味を表す語として知られ、使用されている事実が認められる。
また、原審の拒絶理由通知書の参考情報5及び別掲(4)によれば、本願商標に係る指定商品の分野において、各種の機能を有する「TIG溶接機」や「TIG溶接棒」等の製造や販売が行われている実情が確認できる。
これに接する取引者・需要者は、当該商品が、例えば「TIG溶接のみならず、ガウジングもできる商品」、あるいは、「TIG溶接の工法を利用してガウジングを行う商品」のように、たとえ、それが一般的に知られた技法ではないとしても、溶接技法の一種であること、すなわち、商品の品質、特徴を表示したものと看取、理解するにとどまるというのが相当であり、これを商品の出所を表示する標識又は自他商品の識別標識として認識することはないというべきである。

コメント
「たとえ、それが一般的に知られた技法ではないとしても、溶接技法の一種であること、すなわち、商品の品質、特徴を表示したものと看取、理解するにとどまる」という部分がまさにポイントになると思います。実際に知られていないとしても、そのような意味合いを想起しうる、そのようにとってもおかしくないというものについては、識別力がないと判断されることを示した審決であるといえます。

 

【種別】拒絶査定不服の審決
【審判番号】不服 2024-12556
【本願商標】科学大(標準)
第 16 類「…,文房具類,印刷物(新聞・雑誌・ニューズレター・定期刊行物を除く。),…,事務用品(家具を除く。),…,事務用紙,教材(器具に当たるものを除く。),…」
第 41 類「大学における教授,学校による教育の提供,…,セミナーの企画・運営又は開催,学術的資料の展示会の企画・運営又は開催,…」
第 42 類「…,科学技術の基礎的研究開発及び研究開発成果の活用研究,科学技術の基礎的研究開発及び研究開発成果の活用研究に関する情報の提供,…」
第 44 類「…,医療用研究室における診断及び治療目的の医療分析,遠隔医療,温泉療法用施設の提供,学習障害の検査,緩和ケア,…」
【請求人】国立大学法人東京科学大学
【適用条項】3条1項3号
【結論】本願商標は、登録すべきものとする。

原査定の拒絶の理由の要点(下線は筆者、以下同様)
本願商標をその指定商品・指定役務に使用した場合、これに接する需要者は、それらの商品が「科学分野の研究及び教育の最高機関である大学」を産地又は販売地とするものであること、又はそれらの役務がそのような大学で提供されるものであることを理解するにとどまる、すなわち、単に商品の産地・販売地若しくは品質、又は役務の提供の場所若しくは質を普通に用いられる方法で表示したものとして本願商標を認識するというのが相当である。

当審の判断
「音大」「美大」等のように、「科学大」の文字が科学分野に関する大学を示す総称(略称)として一般的な書籍等で使用されている事実は見受けられない。
また、「科学」の文字をその名称に含む大学は、それぞれ「科学大」以外の略称を用いている事実が見受けられる一方、「科学大」を使用している事実を確認できるのは、請求人によるものが大多数であって、当該文字が一般的な総称(略称)として使用されているという事実は認められない。
そうすると、「科学大」は、請求人に係る特定の大学である「東京科学大学」を示す略称と認識させるとはいえるとしても、科学分野に関する大学を示す総称(略称)として認識させるということはできず、出所識別標識として機能しないというべき事情は見いだせない。

コメント
先の例に倣うのであれば、本件も登録できないと判断されてもおかしくないですが、こちらは、そもそも大学(請求人)の略称とみることができるところ、他の大学は「科学大」以外の略称を用いていることが判断に影響したものと考えることができます。もちろん、同じような例が全て登録できるわけではないものの、同一・類似商品等における使用状況はやはり重要になることが分かります。

 

【種別】拒絶査定不服の審決
【審判番号】不服 2023-650060
【本願商標】

本願商標(CASA BLANCA)

第 3 類「Cotton buds for cosmetic purposes(化粧用綿棒).」
第 18 類「…; trunks, briefcases and suitcases(トランク、ブリーフケース及びスーツケース); shopping bags, handbags, school satchels, school bags, sports bags, rucksacks(買物袋、ハンドバッグ、通学用かばん、スポーツバッグ、リュックサック)….」
第 25 類「Clothing excluding headgear(被服(帽子を除く。)); upper clothing excluding headgear for gentlemen and ladies(上衣(紳士及び婦人用の帽子を除く。)); upper clothing excluding headgear for children(上衣(子供用の帽子を除く。));….」
*括弧内は J-PlatPat 掲載の参考訳
【適用条項】3条1項3号
【結論】本願商標は、登録すべきものとする。

3 条 1 項 3 号及び 4 条 1 項 16 号について
本願商標は、「カサブランカ(モロッコ北西部の都市)」(出典:「ジーニアス英和辞典第6版」株式会社大修館)、「(スペイン語で「白い家」の意)1 アフリカ北西部、モロッコ中部大西洋岸の重要な港湾都市。」「2 アメリカの映画。カーティス(M.Curtiz1888~1962)監督。1942年作。第二次大戦中の親独政権下にあった仏領モロッコを舞台にしたメロドラマで、ナチズム反対を標榜。」の意味を有する「カサブランカ(Casablanca)」(出典:「広辞苑第7版」株式会社岩波書店)を認識させる「CASA BLANCA」の欧文字を一般的な書体であるセリフ体で横書きしてなるものであり、普通に用いられる方法で表示してなるものである。
そして、「CASABLANCA(カサブランカ)」が、モロッコ王国北西部に位置する同国最大の都市であり、我が国においても人気の観光地として知られていることは、例えば、別掲2よりうかがえる。
そうすると、本願商標からは、モロッコ北西部に位置する人気の観光地であることを認識するにとどまるというのが相当であるから、本願商標をその指定商品に使用する場合、これに接する取引者、需要者に「カサブランカで製造若しくは販売された商品」という商品の産地、販売地を表示したものと認識、理解させるにすぎないものである。

3 条 2 項について
販売数量(受注数量)や販売額等を証する証拠は提出されているものの、その多寡について、比較すべき客観的な証拠の提出がなく、本願の指定商品を取り扱う業界における市場シェアなども不明である。
また、ウェブサイトにおける広告については、その掲載期間や閲覧数等が不明であり、ウェブサイトへの掲載以外の宣伝広告の方法、期間、地域及び規模等について確認できる証拠も提出されていない。
さらに、本願商標の使用期間も7年あまりと決して長いとはいい難く、本願商標を本願の指定商品中の第25類「clothing(被服)」及び第18類「shoppingbags(買物袋),handbags(ハンドバッグ)」等の指定商品以外の指定商品に使用している事実を確認することもできない。そして、需要者の認識度を客観的に示す証拠(アンケート結果など)は提出されていない。
そうすると、請求人の提出する証拠からは、本願商標の周知性の程度を推し量ることはできないから、本願商標は、請求人により使用をされた結果、需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができるものとはいえず、商標法第3条第2項の要件を具備しない。

請求人の主張について
請求人は、本願商標が、西語で「casa」(家)、「blanca」(白い)の異なる意味を有する単語からなり、間におかれたスペースによって「casa」と「blanca」に分離して表示されているから、仮に「カサブランカ」の名称が地名として一般に知られるものであったとしても、このように分離された態様で地名が認識されるといった実情はないから、本願商標に接した取引者や需要者がこれを地名等と認識することはない旨主張している。
しかしながら、本願商標は、「CASA」と「BLANCA」の文字間にスペースを有しているものの、そのスペースは半角文字分もないほど狭いものであり、一見して「CASA」と「BLANCA」よりなるものと視認し得るとはいいがたいものである。そして、「CASA」及び「BLANCA」の文字が西語で、それぞれ「家」「白い」を意味する語であったとしても、我が国において、当該意味を有する語として一般に広く親しまれているものとも認められない。

コメント
最近、インターネット等により簡単に情報を入手できるようになった影響もあってか、海外の地名・人名を理由として拒絶される例が増えているように感じます。日本で「カサブランカ」という都市名がどの程度知られているかという点は反論材料の一つになると思いますが、この点については審決に現れていません。なお、個人的には「カサブランカ」からはまず花を想起しましたが、この辺りはどうなのでしょうか。

※本件記事の情報は、執筆時点で入手可能な法令・判例等に基づいて作成した一般的な解説です。最新の法令・判例と異なる場合や、個別の事案には必ずしも適合しない場合があります。具体的な対応が必要な場合は、弁理士にご相談いただくようお願いいたします。

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