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事例紹介
2026.09.10
「容器入り飲料」事件 [弁理士 德永 弥生]
令和6年(行ケ)第10034号 審決取消請求事件
https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-93680.pdf
原告:アサヒビール株式会社
被告:特許庁長官
■事案の概要
物品を「容器入り飲料」とする動的意匠の出願について、意匠法2条1項に規定する意匠に該当しないとの審決がされたため、審決の取り消しを求めて本件訴訟が提起されました。裁判所は、本願意匠は動的意匠として意匠法2条1項に規定する意匠に該当しないと判断し、原告の請求を棄却しました。
■本願意匠について
本願意匠は、物品を「容器入り飲料」とし、ビール缶上面の蓋を開けたときの、ビールの泡が缶の内周面から上方を覆うように盛り上がって変化する形状等について意匠登録を受けようとするものであり、動的意匠かつ部分意匠として出願されました。(実際の製品は「生ジョッキ缶」の名称で販売されていて、缶ビールなのに生ビールのように泡が楽しめると話題になったものです。)
本願意匠の願書では、「発泡状態の変化を示す開蓋後の平面図1~10」によって泡の変化する状態が示されました。図面は缶部分に色を付した写真で提出されています。
■審決の要旨
「意匠法が保護の対象とする意匠のうち、物品の形状等に係る意匠は、市場で流通する有体物である動産の定形性を有する形状等であって、人が視覚を通じてその形状等を認識することができ、その結果、人に美感を起こさせる、という全ての要件を満たすものでなければならないところ、本願意匠(別紙審決書(写し)の別紙「本願意匠(意願2022-000060)」のとおり。)に係る物品「容器入り飲料」の、開蓋時に容器内方に現れる濃褐色の液体及びその上方を順次覆うように出現する乳白色の気泡の形状等を主要な構成要素とする開蓋時における本願部分の形状等は、意匠法上の意匠を構成するものとはいえないから、本願において意匠登録を受けようとするもの(本願意匠)は、意匠法2条1項に規定する意匠を構成するものとは認められない」
■裁判所の判断
裁判所は、意匠法上の意匠に該当するための要件の一つとされる「定形性」について、動的意匠に関してどのように解釈すべきかを、複数の文献も参酌しながら以下のように示しました。
「上記⑵の文献の記載も参酌すると、意匠のうち物品の形状であるものについて、そこにいう物品の形状とは、その物品の属性として一定の期間、一定の形状があり、その形状認識の資料である境界を捉えることのできる定形性が必要であるところ、その形状が変化する場合においては、その変化の態様に一定の規則性があるか変化する形状が定常的なものであることが必要であると解される。」
「上記⑶、⑷を踏まえると、意匠法6条4項に定める動的意匠のうち物品の形状が変化するものについて、その物品の形状は、変化の前後にわたるいずれの状態においても、意匠法上の物品としての要件、すなわち物品の属性として一定の期間、一定の形状があり、その形状認識の資料である境界を捉えることのできる定形性があり、その変化の態様に一定の規則性があるか変化する形状が定常的なものであることが必要であると解される」
すなわち、意匠法上の意匠に必要とされる定形性の要件について、動的意匠については変化の前後の形状だけでなく、変化の途中の中間状態の形状についても「その変化の態様に一定の規則性があるか変化する形状が定常的なものであることが必要」とされました。
そして、本願意匠をこの解釈にあてはめて、本願意匠は意匠登録を受けることができる意匠には該当しないと判断しました。
「これを本願についてみると、前記3⑴エのとおり、発泡状態の変化を示す開蓋後の平面図1ないし3において、缶周縁に帯状となった気泡の幅は一定ではなく、その輪郭形状もいびつな円形であり、その過程において、気泡による帯の幅が増した箇所がある一方で、消滅ないし減少した箇所がある。また、中央部の白い部分が消えて、白い気泡の小さな集合が不規則に散在する状態になった後、円環形状の径が漸次的に狭まっていくものの、輪郭形状の径が狭まる進行の度合いも場所により一定ではなく、形状も円ではなくいびつな形状を示した後に、2段の円錐台形状に至る。このような気泡の発生及び消滅の状況は、上記意匠ないし動的意匠の要件である一定の期間、一定の形状を有し、境界を捉えることのできる定形性があるものとみられないほか、変化の態様に一定の規則性があるか、あるいは変化の形状が定常的であるとも認め難いものである。
・・・そうすると、本願意匠は、意匠登録を受けることのできる意匠には該当しないものというべきである。」
原告は、缶から泡が盛り上がる技術についてすでに特許登録をしていますが、技術の面からの保護だけではなく、見た目からの保護にもチャレンジをしたのだと思います。缶ビールなのに生ビールのように泡が盛り上がってくる様子はそれまでにない新しいものですし、見た目でも楽しめるものだと思いますので、意匠法でも保護すべきというのは分かる気がします。画像の意匠では変化の態様も含めて保護されることからも、物品の形状等の変化の態様についても、本件の判断のように変化の途中の形状等に厳格な要件を求めるのではなく、保護される道があってもよいのではないかと感じました。
以上
※本件記事の情報は、執筆時点で入手可能な法令・判例等に基づいて作成した一般的な解説です。最新の法令・判例と異なる場合や、個別の事案には必ずしも適合しない場合があります。具体的な対応が必要な場合は、弁理士にご相談いただくようお願いいたします。