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事例紹介

2023.08.17

「PORSCHE」商標権侵害差止請求事件 [弁理士 清水 三沙]

「PORSCHE」商標権侵害差止請求事件 [弁理士 清水 三沙]

令和4()13963号等(東京地方裁判所)
判決文:https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail7?id=92069
原告 ドクター エンジニール ハー ツェー エフ ポルシェ アクチエンゲゼルシャフト
被告    BRICK YARD株式会社
   株式会社SKM
   株式会社アートレーシング
   有限会社リスキービジネス

〔事件の概要〕
 原告は、登録番号第200179号及び2000180号の商標権者である(区分及び商品:第12類「自動車」他)。

 被告らが、ポルシェ356をオマージュした自動車「660 speedster」(以下、「本件車両」。本件車両の自連では、被告各標章は付されていない。)を製造し、被告各標章を付した本件車両を販売する計画を立て、被告各標章を付した本件車両の販売の申し出をした。

 当該行為が、原告商標の商標権侵害に該当するかどうかが争われたのが本件である。

 被告らの関係としては、被告らは輸入車や改造車の販売を行う業者であるが、株式会社アートレーシングが本件車両を製造し、BRICK YARD株式会社に本件車両を納入し、本件車両の総販売元であるBRICK YARD株式会社は、株式会社SKM及び有限会社リスキービジネスを販売代理店として、本件車両を販売していた。

【本件での争点】
① 争点1:商標権侵害の有無
 本件では、被告各標章がいずれも原告各商標のレプリカであり、被告らも、原告商標1と被告標章1、原告商標2と被告標章2が類似することは争っていない。

 しかしながら、被告は本件車両がデモカーで行動を走ることができないことから原告商標の指定商品「自動車」に該当しないと主張したため、商標権侵害に該当するかどうかが争点となった。

② 争点2:差止め等の必要性
 被告らが、被告各標章を付した自動車を保有しておらず、また、これまでに、被告各標章を付した自動車及びその部品を譲渡した事実は存在しない上、本件訴訟の係属後に被告各標章を付した自動車を譲渡のために展示した事実も存在しないから、差止及び廃棄の必要性がないと主張したことから、差止等の必要性について争点となった。

〔裁判所の判断〕
1.争点1(商標権侵害の有無)について
(2)商標権侵害の成否
 上記認定事実によれば、被告らは、共謀して、被告各標章を付した本件車両を販売する計画を立てた上、上記認定に係る各役割分担を実際に行って、本件車両に被告各標章を付し、ウェブページ、ブログ等において、その写真や公道を走る動画を紹介したほか、被告各標章が付された本件車両を販売するために本件カーイベントに展示するなどして、本件車両を販売のために展示したことが認められる。

 そうすると、被告らは、共謀して、少なくとも、本件車両に被告各標章を付し又は譲渡のために本件車両を展示したものと認められる。

 したがって、原告各商標と被告各標章の類似性に争いがないことを踏まえると、被告らは、原告各商標と類似する被告各商標を、指定商品である自動車に使用したことが認められる。

 以上によれば、被告らは、原告各商標権を侵害したものと認められる。

(3)被告らの主張に対する判断
ア 被告らは、被告各商標を付した本件車両は、エンジンが調整されておらず、公道を走行することができないデモカーであり、道路運送車両法所定の登録 受けていない以上、原告各商標権の指定商品である「自動車」には当たらない旨主張する。

 しかしながら、前記認定事実によれば、被告BRICK YARDの運営するホームページにおいて、被告各標章が付された本件車両が実際に公道を走行する映像が公開されていることが認められる。そうすると、被告らは、公道を走行することができないデモカーに被告各商標を付したにとどまらず、公道を走行できる本件車両に被告各商標を付し又はこれの譲渡のために 展示したものと認めるのが相当である。したがって、被告らの主張は、上記認定とは異なる前提に立つものであり、その前提を欠く。

 以上によれば、被告らの主張は、採用することができない。

イ 仮に、被告らが、道路運送車両法所定の登録を受けていないため、公道を走行することができない自動車が、原告各商標の指定商品に該当しない趣旨を主張するものとしても、同法及び商標法の趣旨目的に鑑みると、理由がないことは、明らかである。

 すなわち、道路運送車両法は、道路運送車両に関し、所有権についての公証等を行い、並びに安全性の確保及び公害の防止その他の環境の保全並びに整備についての技術の向上を図り、併せて自動車の整備事業の健全な発達に資することにより、公共の福祉を増進することを目的とするものである(同法1条参照)。

 他方、商標法は、商標を保護することにより、商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り、もつて産業の発達に寄与し、あわせて需要者の利益を保護することを目的とするものである(同法1条参照)。

 上記のとおり、道路運送車両法と商標法は、その規律の対象となる保護法益を異にするものであり、上記認定事実によれば、被告各標章を付した本件車両は公道を走行できる機能を有することを踏まえると、本件車両が道路運送車両法所定の登録を受けていないという一事をもって、指定商品に該当しないということはできない。

 したがって、被告らの主張は、採用することができない。

2.争点2(差止め等の必要性)について
 被告らは、これまで被告各標章を付した本件車両の販売実績がなく、現在被告各標章を付した本件車両を保有していないなどとして、本件においては差止めの必要性がない旨主張する。

 しかしながら、前記認定事実によれば、仮に被告各標章を付した本件車両の販売実績を証拠上認めることができないとしても、被告らは、ウェブページ等において、不特定多数の者に対し、本件車両がポルシェ356のレプリカであることを大々的に宣伝広告した上で、本件車両に被告各標章を付しその販売の申出を行っていたにもかかわらず、本件において、デモカーが「自動車」に該当せず商標権侵害に当たらないなど不合理な弁解に終始している。 そうすると、被告アートレーシングの代表者らが、今更ながら商標権侵害という事の重大性に気づき、反省の意を示している事情などを十分に斟酌しても、上記の事情を総合考慮すると、直ちに差止め等の必要性がなくなったものと認めることはできない。

 したがって、被告らの主張は、採用することができない。

〔コメント〕
 本件被告らは、本件車両を販売する際にカーイベント等で本件車両を展示する際は被告標章を付しておりませんでしたが、イベントで設置された立て看板には被告各標章が付された本件車両の写真や、「フロントエンブレム」及び「リアエンブレム」がいずれもオプション品であることが明記された価格表が掲載されていました。さらに、顧客を装った調査会社の担当者に対し、「エンブレム装着後ご納車」と明記された見積書を提示しており、同見積書には「諸費用内訳」として検査登録代行費用や整備費用等も計上されていました。

 そのことから考えますと、被告が「本件車両はデモカーで『車』に該当しない」というのは明らかに矛盾があったものと考えます。

 また、口頭弁論終結時までに被告が被告各標章を付した自動車を本当に保有していなかったのか、譲渡していなかったのかは明らかではありませんが、本件のように被告の悪意が明らかに認められるケースにおいて、「直ちに差止等の必要性がなくなったものと認めることはできない」として差止及び廃棄請求を認めたことは意義があるものと考えます。

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