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事例紹介

2023.07.15

信用毀損行為(営業上の信用を害する虚偽の事実の告知又は流布)[弁理士 服部 京子]

信用毀損行為(営業上の信用を害する虚偽の事実の告知又は流布)[弁理士 服部 京子]

令和3(ワ)11472 損害賠償請求事件(大阪地裁)
判決文:https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/082/092082_hanrei.pdf

事件の概要
 アマゾンジャパン合同会社の運営するインターネットショッピングサイト(Amazon)上に開設している仮想店舗において商品を販売している被告が、同じくAmazonの仮想店舗において商品を販売している原告に対し、原告サイト上に掲載した画像等が被告の著作権を侵害する等の申告をしていましたが、当該行為は不正競争防止法2条1項21号の不正競争行為又は不法行為に該当するとして、原告が被告に対し損害賠償を求めて訴えを提起した事案です。

被告の行為について
 原告はAmazonサイトにおいて、「韓流BANK」の屋号を用いて韓国の芸能人に係る商品等を販売し、被告もAmazonサイトにおいて、韓国の芸能人に係る商品等を販売していました。

 被告は、10回(10商品)に渡り、アマゾンに対し原告の商品や画像等を特定して、アマゾンサイトのオンラインフォームから著作権について権利侵害の申告を行い、当該申告に基づき原告のアマゾンサイト上での出品が停止されました。

 本件において問題となっている著作物は、商品の画像、商品名及び商品の説明文です。被告は、原告が被告各画像等を盗用したとしてアマゾンに著作権侵害の申告しています。

 原告は、商品写真は(被告に著作権のない韓国出版社/メーカーの)商品をありのままに撮影しただけのものであり、説明文についても商品の形状、サイズ又は特徴等を表したに過ぎない創作性のないものであり、独自に撮影した商品写真には被告の屋号が含まれておらず商標権の侵害も生じ得ないなど、被告に対して申告の取り下げ等を求める通知書を送りましたが、被告側からの回答や申告の取り下げはされず、被告による権利侵害の申告はその後も続きました。

 原告はアマゾンに対する再開の申し立てを行い、最終的に原告サイト上の出品は再開されています(出品の停止期間は当日~3月程度)。

争点1:本件申告が虚偽事実の告知又は不法行為に該当するか
 まず問題となるのが被告各画像の著作物性ですが、いずれもその著作物性は否定されています(下線は筆者)。

写真集又は卓上カレンダーに係る画像である被告画像1、2及び4ないし10は、販売する商品がどのようなものかを紹介するために、平面的な商品を、できるだけ忠実に再現することを目的として正面から撮影された商品全体の画像である。被告は、商品の状態が視覚的に伝わるようほぼ真上から撮影し、商品の状態を的確に伝え、需要者の購買意欲を促進するという観点から被告が独自に工夫を凝らしているなどと主張するが、具体的なその工夫の痕跡は看取できない上、撮影の結果として当該各画像に表現されているものは、写真集等という本件各商品の性質や、正確に商品の態様を購入希望者に伝達するという役割に照らして、商品の写真自体(ないしそれ自体は別途著作物である写真集のコンテンツとしての写真)をより忠実に反映・再現したものにすぎない

単語帳に係る画像である被告画像3は、前記同様に商品をできるだけ忠実に再現することを目的として正面から撮影された商品全体を撮影した平面的な画像2点と、扇型に広げた商品の画像1点を配置したものであり、当該配置・構図・カメラアングル等は同種の商品を紹介する画像としてありふれたものであるといえ、被告独自のものとはいえない。

商品名については、前記(1)イのとおり、いずれも商品自体に付された商品名をそのまま使用するか、欧文字をカタカナ表記に変更したり、大文字表記を小文字表記にしたり、単に商品の内容を一般的に説明したにとどまるありふれたものであって、著作物とは認められない。

そのほか、被告は、本件各申告には被告サイト上の商品の説明文に関する著作権侵害も含まれるかのように主張するが、具体性を欠く上、その説明が創作性を有するとは想定できず、失当である。

 被告画像等について著作物として認められないため、仮に被告画像等を使用しても著作権侵害とはなりませんが、原告による盗用があったかについても検討され、盗用はなかったと認められました。

 また、被告の故意過失・違法性については、以下のとおり判断されました。

被告は、アマゾンから、権利侵害の申告に係る手続について、知的財産権の侵害を理由とする場合の通知方法、ASINの重複を理由とする場合の通知方法及びそれぞれ個別に申告することが必要であるとのメールを受信し、自らASINの重複を申告する方法ではなく知的財産権の侵害を理由とする場合の方法を選択し、申告に係る原告各画像等を特定し、「著作権侵害」の項目を選択の上で本件各申告を行っている。このような被告の行動に照らせば、被告は、アマゾンに対して自ら積極的に著作権侵害の虚偽事実を申告したといえ、被告が本件各申告をするにつき、少なくとも過失が認められ、本件各申告は違法である。

 以上のとおり、被告によるアマゾンへの権利侵害の申告は、被告と競争関係にある虚偽の事実を申告する行為であり、不競法2条1項21号の不正競争行為に該当し、被告には少なくとも過失があるとして、原告の販売機会喪失による損害(逸失利益)及び弁護士費用として、5万2492円の支払いが命じられました。

 なお、被告はアマゾンに対し原告からの通知書に対する対応を尋ねる旨の問い合わせを行ったところ、アマゾンからは、アマゾンによる調査後に商品の削除が行われており被告の対応が適切となっているため安心してほしい旨、相手方(原告)に対してアマゾンによる対応方針に沿った対応をするよう案内して欲しい旨、本件に対してアマゾンにて対応でき兼ねる旨等を記載したメールの返信があったとのことです。

 原告からの問い合わせに対して被告は一切回答せず、また自己の権利の侵害であると過信したことによる結果ではありますが、一方でアマゾンからの返信を見ればそのように誤解してしまう余地もあったのではないかと思います。

 この点に関連して、裁判所は
「被告は、アマゾンが本件各申告を受けて出品を停止したこと及び被告からの問合せに対してアマゾンが被告の申告が適切であったと回答していること(前記第2「1」前提事実(4)、前記(3)ウ、ク)等から、原告が被告各画像を盗用していた事実が強く推認されると主張するが、アマゾンにおいて権利侵害申告がどのように処理されているかは不明であって、前記認定を左右しない。」
とも示しています。アマゾンの権利侵害の申告については便利である一方、それを利用する際には十分な注意が必要です。

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