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事例紹介

2023.08.17

部分意匠の特定範囲の例 [弁理士 德永 弥生]

部分意匠の特定範囲の例 [弁理士 德永 弥生]

 意匠登録を受けようとする部分を小さく特定して、できるだけ広い権利範囲を取る試みがされている出願について、その審決をご紹介します。

【審判番号】拒絶2022-017496
【結論】本願の意匠は、登録すべきものとする。
【原査定における拒絶の理由】意匠法第3条第1項第3号
【本願意匠】
 【意匠に係る物品】「衛生用マスク」
 【意匠に係る物品の説明】本物品は、マスク本体部が、透明体を備える衛生用マスクである。本物品を使用することにより、口の動きや表情の視認性が向上するため、例えば、コミュニケーション時において、円滑な意思疎通ができる。また、透明体と口元との間に空間が確保されるため、例えば、呼吸時において透明体が口元に貼り付かず、呼吸がしやすい。

 

【引用意匠】

 

【当審の判断】
4 両部分の形状等の共通点及び相違点の評価
 両意匠の意匠に係る物品の需要者は、主に、その使用者である購買者及び販売業者等の取引者がその需要者であって、口元などの表情が視認でき、かつ会話や呼吸などに伴う飛沫の拡散及び吸い込みを防ぐ、衛生用のマスクとして、顔被覆部の態様は、特に注視して観察するといえる。

(1)両部分の形状等の共通点
 (共通点A)及び(共通点B)は、両部分全体の態様に係るものではあるが、この種表情などが視認できる透明な衛生用のマスクの物品分野においては、いずれも通常取り得る態様であるから、これらの共通点が両部分の類否判断に与える影響は小さい。

(2)両部分の形状等の相違点
 まず、(相違点b)は、2つの略傾斜面の湾曲態様に係り、本願部分が内向きに緩やかに湾曲しているのに対し、引用部分は平面視において外向きにごく僅かに湾曲している点は、マスクの顔被覆部の態様を注視する需要者にとって、全く別異の印象を与えるものであるから、両部分の類否判断に与える影響は大きい。

 次に、(相違点a)は、稜部近辺の2つの略傾斜面の形成する角度についてであって、多少の角度の相違であるが、マスクの顔被覆部の前面の印象に関わり、(相違点b)の印象を補強し、両部分の類否判断に与える影響は大きい。(相違点c)及び(相違点d)は、マスクの顔被覆部の稜部に係る相違及び注視しなければ視認出来ない程度の微細な孔部の有無の相違ではあるものの、マスクの顔被覆部前面に関わるものであるから、両部分の類否判断に一定程度の影響を及ぼすものである。

 そうすると、形状等における相違点の(相違点c)及び(相違点d)は両部分の類否判断に及ぼす影響は一定程度あるものであり、(相違点a)及び(相違点b)は、類否判断に及ぼす影響は大きいものであるから、(相違点a)ないし(相違点d)の両部分の類否判断に及ぼす影響は、総じて大きいものであって、両部分の類否判断を決定付けるものであるのに対して、形状等における共通点の(共通点A)及び(共通点B)の両部分の類否判断に与える影響は、いずれも小さく、それらが相まっても、共通点の両部分の類否判断に与える影響は総じて小さく、相違点が共通点を凌駕し、両部分の類否判断を決定付けるものであるから、両部分は類似しない。

【コメント】
 透明で口元が見えるマスクは、聴覚障がいのある方が口元の動きで相手が言っていることを理解するためといったニーズから、いろいろなメーカーによって製造販売がされています。そのため、マスクの前面部を透明にした意匠自体は、既にありふれていると言えます。そんな中、本願意匠は透明な前面部の、さらに中心部の一部だけを特定して出願がされています。意匠の特定の範囲がすごく小さいため、新規性欠如などで拒絶査定にならないか出願時に悩んでしまいそうです。すごく攻めた出願の仕方だと感じました。

 審判では、特に本願意匠の前面部の中心線から内向きに緩やかに湾曲している点等が引用意匠とは異なる印象を与えるとして、両意匠は非類似と判断されました。本願意匠と引用意匠とは前面部が透明という共通点しかないように思いますので(形状はけっこう違うように思います)、審決は妥当と思われます。

 本願意匠の意匠に係る物品の説明には、「透明体と口元との間に空間が確保されるため、例えば、呼吸時において透明体が口元に貼り付かず、呼吸がしやすい」と記載されています。その機能的な特徴が、前面部が中心線から内向きに緩やかに湾曲している形状に表れているのだと思います。本願の意匠の特定の範囲は小さいですが、この出願方法によって、意匠の特徴(意匠権で守りたいところ)と思われる、口元が見えやすいように前面部が透明なことと、口元との間に空間が確保されるように中心線から内向きに緩やかに湾曲している形状の、両方共が保護できているように思いました。マスク全体の形は特定していないため、どんな形のマスクでもこの前面部の形状を取り入れると侵害になるかもしれないと思わせる、抑止力のある権利になっていると感じました(マスクの意匠の数は非常に多いため、そもそも類似範囲は狭めとは思いますが)。

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