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事例紹介
2024.02.15
「Pioneer」商標権に基づく差止請求権不存在確認請求控訴事件 [弁理士 清水 三沙]
令和5年(ネ)第10044号 商標権に基づく差止請求権不存在確認請求控訴事件
(知的財産高等裁判所第1部)
(原審・東京地方裁判所令和4年(ワ)第18610号)
判決文:https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/476/092476_hanrei.pdf
原審判決文:https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/167/092167_hanrei.pdf
控訴人(原告):オンキヨーホームエンターテイメント株式会社(破産会社)破産管財人
被控訴人(被告):パイオニア株式会社
〔事件の概要〕
破産会社と被控訴人は、平成26年11月7日、被控訴人が、破産会社に対し、ホームシアターシステム等(以下、「許諾商品」)につき、商標「Pioneer」(ロゴ、以下「本件商標」)の商標権の通常使用権を許諾する旨の契約を締結しました。
控訴人と被控訴人は令和3年6月21日に本件使用許諾契約を解約し、控訴人は本件各解約日以降許諾商品等に本件商標を使用しないが(注:許諾商品ごとに解約日を設定)、本件解約日から6か月間、本件解約日以降時点において現存する在庫(以下「本件在庫商品」)を販売するために合理的な範囲内において、本件使用許契約に基づき本件商標の使用を継続することができる旨の合意をしました。
しかしながら、被控訴人が解約日から6か月経過後も販売を行っていた為、被控訴人が控訴人に対し、侵害警告を行いました。
本件は、控訴人が本件在庫商品に本件商標を付したものを販売することは、本件商標に係る被控訴人の商標権(本件商標権)を侵害するものではないと主張して、控訴人が被控訴人に対し、被控訴人は本件商標権に基づき本件在庫商品の販売を差し止める権利を有しないことの確認を求めた事案です。
原判決は、被控訴人は控訴人に対し本件商標権に基づき控訴人が本件在庫商品を販売することを差し止める権利を有するとして、控訴人の請求を棄却しました。
これに対し、控訴人が控訴を行ったのが本件です。控訴審においても、控訴人の請求は棄却されております。
【本件での争点】
① 控訴人が本件在庫商品を販売することは、本件商標権の侵害となるか
② 被控訴人が控訴人の本件在庫商品の販売行為に対して本件商標権を行使することが信義則違反又は
権利濫用となるか
〔裁判所の判断〕
1. 争点(1)について
争点(1)について控訴審は、原判決を引用し、破産会社は、商標権者である被控訴人との間で本件使用許諾契約を解約し、本件各解約日から6か月間本件各解約日時点に現存する在庫を販売する限りにおいて引き続き本件商標を使用することができる旨の本件解約合意を締結し、上記6か月間は既に経過していることから、控訴人が、今後、本件指定商品と同一又は類似する本件在庫商品に本件商標を付して販売すれば、商標法第2条第3項第2号の「商品に標章を付したものを譲渡し」たとして「使用」に当たり、本件商標を使用することにつき被控訴人の許諾がないから、被告の本件商標権を侵害すると認められる(商標法25条、2条3項2号、37条1号)と判断しました。
2 .争点(2)について
争点(2)については、控訴審は以下の通り判断しました。
(1) 本件使用許諾契約は既に効力を失っており、在庫商品について例外的に本件商標の使用が許諾された期間も経過しているから、本件使用許諾契約が有効である間に製造され本件商標が付された商品であっても、これを販売することは、前記1のとおり、商標法2条3項2号の「商品に標章を付したものを譲渡し」たとして「使用」に当たり、本件使用許諾契約及び本件解約合意に違反するものである。
上記事実によると、破産会社は本件在庫商品を販売できる期間を自ら合意していながら、その期間内に本件在庫商品を販売せずに、販売可能な期間を徒過したものであり、控訴人はその地位を承継したものであるから、控訴人が主張する各事実をもって、信義則違反又は権利濫用に当たるものとはいえない。
(2) したがって、控訴人の信義則違反の主張及び権利濫用の主張はいずれも理由がない。
〔コメント〕
本件においては、被控訴人と破産会社は、平成26年に資本業務提携契約を締結するとともに、それに関連して本件使用許諾契約を締結しました。その後令和3年に破産会社が本件使用許諾契約に関連する事業を譲渡したことに伴って、本件使用許諾契約は合意解約されております。本件において、控訴人は在庫商品を販売することについて実質的違法性が欠如することを主張しており控訴人と被控訴人間に何等かの事情があったのかもしれませんが、裁判所は控訴人の主張を退けております。本判決は、使用許諾契約解消後や、契約解消後販売が認められる期間終了後は、使用許諾を受けていた者は直ちに商標権の使用を中止する必要があることを、改めて注意喚起している事案と考えます。