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2024.02.15

商標Q&A 第5回 指定商品や役務はどこまで広げるべき?

商標Q&A 第5回  指定商品や役務はどこまで広げるべき?

Q新しいボールペンについて使用する商標「いろは」を登録したく考えています。指定商品には「ボールペン」と書いておくだけで良いでしょうか。

A: いいえ、それでは不十分な場合が多いといえます。出願後に指定商品や指定役務の範囲を広げる補正はできませんので、現在だけでなく、将来の事業展開も見越した指定商品等の記載にしておくほうが良いでしょう。以下、理由を説明しますね。

 本事案では、例えばそのボールペンがヒットすると、「いろは」のブランド価値が向上します。そうなると、「いろは」という商標自体が顧客吸引力を持つことになりますので、例えば事業部などから「次に発売する新しいシャープペンシルについても『いろは』ブランドで展開したい(つまり、『いろは』という商標を使いたい)」という要望が出てくることは十分に想定され得ます。また、更に有名になってくると、筆記具以外の商品についても展開していくことや、それこそ大ヒットしたような場合は、全く異なるジャンルの会社(例えば製菓メーカー等)からも「『いろは』とコラボしたいのですが」という話が来るかもしれません。

 日本の商標制度上、出願済の商標について新しい商品や役務を追加するための願書の補正は認められませんし(範囲を拡大しない場合を除く)、登録済商標となると、そもそも補正自体ができなくなります。そうなると、使用する商品等が増えるに従って順次新しい出願を行っていく必要がでてきますが、同じ区分の再出願となりますと、結果的に費用がとてももったいないことになってしまいます。例えば、最初に第16類「ボールペン」について出願を行い、1年後に第16類「シャープペンシル」について追加出願を行い、更に、3年後にまた第16類「ノート」について追加出願を行ったとしましょう。この場合、最終的に同じ16類の商品について3つの商標登録ができてしまいますが、最初から第16類「ボールペン,シャープペンシル,ノート」を含める形で商標出願を行っておけば、再出願を行う必要はなかった訳ですから、商標登録に要する費用も1件分で済ませることができました。

 そのため、第16類「ボールペン」に使用する商標なら、最初から類似性の高い商品群(=将来的に展開する可能性の高い商品群)も含めて権利化しておきたいところです。その際、例えば「ボールペン,シャープペンシル,消しゴム,ノート,クリアファイル…」と思いつくものをずらずらと書き連ねていっても良いのですが、100%すべての商品を書き切るのは難しいですよね。そういう場合に便利なのが「上位(包括)概念」による商品・役務の記載です。例えば、ボールペンやシャープペンシルであれば「筆記用具」という概念で括れますし(これなら鉛筆や万年筆などもカバーできます)、他の文具類への展開可能性も考慮すると、更に上位の概念である「文房具類」といった表現も可能です。上位概念や包括概念については「商品役務類似審査基準」で確認することができます。当該審査基準に関してはまた回を改めて解説しますね。

 一方、同一の区分を超えて、最初から事業予定のない第25類「被服」や第30類「洋菓子」といった他類の商品まで含めていくと、そこまで事業展開しなかったときにこれらの範囲での登録が無駄になりますし、明らかに使わない指定商品や役務まで含めて出願することは、拒絶理由を受ける可能性が高まることに加えて、登録後も不使用を理由とする取消審判を他人から受けるリスクが高まってしまいます。

 ということで、登録主義を採用する日本においては、ピンポイントで使用する商品だけに絞って出願するよりも、将来的な事業展開の可能性なども見据えて、ある程度幅をもたせた指定商品(基本的には同一区分内の話であって、明らかに使わない商品等や必要性が不明な他区分の商品等は除く)にしておく方がメリットは大きくなる場合が多いといえます。ただし、米国のような使用主義の国においては180度考え方を変えないといけませんのでご注意を。ボールペンにしか使用していないのに、同じ区分であるからといって、シャープペンシルやノート、印刷物といったものまで広く含めて「本件商標を指定商品について使用しています」と宣誓してしまうと、「使っていない商品があるのに『使っている』と嘘の宣誓をしましたね?」となってしまいます。

 以上、今回は何かと悩みがちな「出願時における指定商品・役務の範囲」についての解説でした!

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