TRADE MARK TOPICS 商標お役立ち情報
事例紹介
2026.08.17
子供用フォーク立体商標事件 [弁理士 島田 尚子]
令和7年(行ケ)第 10120 号 審決取消請求事件
判決言渡日:令和 8 年 6 月 10 日(2026 年 6 月 10 日)
判決文:https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-96084.pdf
原告:株式会社ケイジェイシー
被告:特許庁長官
【事件の概要】
原告は第 8 類の「乳児用及び子供用の食卓用フォーク,フォーク」を指定商品として、立体的形状からなる商標について、商標登録出願をしましたが、令和5年3月に拒絶査定を受け、本願商標の指定商品を「乳児用及び子供用の食卓用フォーク」のみに限定する補正書を提出すると共に、拒絶査定不服審判を請求しました。
特許庁は、当該立体的形状が商品の機能又は美感に資することを目的として選択されたものと認識される形状であり、商標法 3 条 1 項 3 号に該当するとした上で、使用による識別力(同条 2 項)も認められないとして、令和 7 年 10 月に審判請求を不成立としました。これに対し、原告が審決の取消しを求めたのが本件訴訟です。

【主な争点】
① 商標法 3 条 1 項 3 号該当性
本件では、本願商標である立体的形状が、商品の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標(商標法 3 条 1 項 3 号)に該当するかが争われました。
裁判所は、立体的形状からなる商標について、3 条 1 項 3 号に該当するというためには、商品が当然に備える立体的形状等の特徴のみからなる商標であることまで要するものではないとしました。その上で、指定商品の形状として採用されている立体的形状が、需要者から見て、商品の機能又は美感に資することを目的として選択されたものと把握し得る範囲のものであれば、商品の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標として、3 号に該当すると判断しました。
本願商標の立体的形状については、① 全体的に厚みのある太い柄で、② フォークヘッドと柄との接続箇所から少し離れた箇所で、正面及び側面から見て狭くなったくびれ部分を有し、③ くびれ部分から後端までの柄は、その腹側が緩やかに膨らみ、その背側がやや大きく膨らんだ形状であり、④ フォークヘッドの歯は4本であり、各歯の内側にU字状の凹みが形成されている立体的形状からなるものであるとし、① 厚みのある太い柄、② 柄のくびれ部分、及び④ 4 本のフォークヘッドと各歯の内側の凹凸という本願商標の各形状について、同様の形状を有する乳幼児・子供用フォークが多数販売されていたことを認定しました。
また、他社商品のウェブサイトや包装には、「握りやすい」「持ちやすい」「麺類が滑り落ちにくい」など、太い柄やくびれ、フォークヘッドの凹凸が「握りやすさ」や「食べやすさ」という機能に資することを示す記載が多数存在していました。
これらの取引の実情を総合すると、本願商標の立体的形状は、需要者において、商品に必要とされる機能に資することを目的として選択されたものと把握し得る範囲の形状であると認定し、3 条 1 項 3 号に該当すると判断しました。
なお、原告は、本件形状が商品の機能上必然的な形状でも、市場における一般的な形状でもないことを主張しました。しかし裁判所は、3 条 1 項 3 号該当性が否定されるためには、商品の機能上必然的な形状又は市場における一般的な形状であることを要するものではなく、需要者から見て、商品の機能や美観に資することを目的として選択されたものと把握し得る範囲の形状であれば足りるとして、原告の主張を退けました。
② 使用による識別力(商標法 3 条 2 項)の有無
原告は、本件商品について、平成 23 年から長期間にわたり販売を継続しており、令和 4 年までの販売数量は約 491 万本に達し、平成 28 年から令和 4 年までの市場占有率も 54%から 76%で推移していたこと、さらにテレビ CM、雑誌広告、プレスリリース、展示会への出展等の広告宣伝を行ってきたことから、本願商標の立体的形状は使用により自他商品識別力を獲得したと主張しました。
これに対し裁判所は、本件商品が平成 23 年から長期間販売され、需要者から高く評価されていることや、一定の広告宣伝が行われていることは認めました。
しかし、本件商品の具体的な販売数量や市場占有率については客観的な裏付けがなく、広告宣伝についても、その期間・規模は限定的であるとしました。
さらに、令和 8 年 1 月に実施されたアンケート調査では、本件商品の写真のみから原告のブランド名「エジソンママ」又はメーカー名を回答した者は 20.1%にとどまり、選択肢を示した場合でも原告ブランドを回答した者は 4.6%である一方、「わからない」と回答した者が 44.1%に上りました。
加えて、本件商品の形状は、当該商品に必要とされる機能に資することを目的として選択されたもので、それ自体、強い自他商品の識別力を有するものではないことをも総合的に考慮し、裁判所は、本願商標が使用された結果、需要者において自他商品の識別力を獲得するに至ったとは認められず、商標法 3 条 2 項の要件を具備しないと判断しました。
【コメント】
本判決において注目されるのは、3 条 1 項 3 号の判断において、当該形状が「機能上必然的な形状」であることや「市場における一般的な形状」であることまでは要求されず、需要者から見て、商品の機能や美観に資することを目的として選択されたものと把握し得る範囲の形状であれば、3 号に該当するとした点です。
本件では、「太い柄」「くびれ」「フォークヘッドの凹凸」といった個々の形状について、他社商品にも同様の形状が存在することに加え、実際の商品紹介等において「握りやすい」「麺が滑り落ちにくい」といった機能上の効果が明示されていたことが重視されました。単に一定の機能上の効果を有する「特徴的な形状」であるというだけでは、立体商標としての識別力を認めることは難しいことが示されています。
また、3 条 2 項についても、長期間の販売実績や相当な広告宣伝実績が存在するだけでは足りず、「その商品の形状自体」が特定の事業者の出所を示すものとして認識されているかが重要であることが改めて確認されました。
立体商標の登録を目指す場合には、商品の販売実績やブランド全体の知名度だけでなく、文字商標等を除いた「形状そのもの」が出所識別標識として認識されていることを示す証拠をどのように蓄積・提出するかが重要であることを示す判決といえます。
※本件記事の情報は、執筆時点で入手可能な法令・判例等に基づいて作成した一般的な解説です。最新の法令・判例と異なる場合や、個別の事案には必ずしも適合しない場合があります。具体的な対応が必要な場合は、弁理士にご相談いただくようお願いいたします。