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事例紹介

2025.04.15

ドラゴンクエスト・キャラクター名事件 [弁理士 服部 京子]

ドラゴンクエスト・キャラクター名事件 [弁理士 服部 京子]

原審:令和3年(ワ)27154号 名誉回復措置等請求事件(東京地裁)
判決文:https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/614/092614_hanrei.pdf
控訴審:令和5年()10104号 名誉回復措置等請求控訴事件(知財高裁)
判決文:https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/966/092966_hanrei.pdf

事件の概要
 原告は、被告スクウェア・エニックス社が発売したゲームソフト「ドラゴンクエストV 天空の花嫁」を題材として「小説ドラゴンクエストV天空の花嫁」を執筆したものです(被告スクウェア・エニックス社と協議しながら執筆)。

 被告らは、令和元年8月2日に公開された本件ゲーム「ドラゴンクエストV 天空の花嫁」を原作とする映画「ドラゴンクエスト ユア・ストーリー」の製作委員会の構成員企業や映画の総監督等の関係者です。

 本件ゲームは、主人公の名称はゲーム起動時に定まっておらず、プレイヤーが主人公の名称を任意に入力することでゲームが始まります。原告は、本件小説を執筆するにあたり、主人公の名称を「リュケイロム・エル・ケル・グランバニア」、その通称を「リュカ」(以下「本件通称」として設定していたところ、本件映画において、主人公の名称として「リュカ」が用いられ、作中で「リュカ・エル・ケル・グランバニア」が主人公の名称として用いられるシーンがあることから、これが原告の著作権を侵害し、原告との出版契約に基づく協議義務に違反したとして、名誉回復措置としての謝罪文の掲載、著作権侵害又は債権侵害の共同不法行為に基づく損害賠償等を求めた事案です。

 上記のとおり本事案においては協議義務についても争われていますが、今回は著作権に関する判断についてのみのご紹介とさせていただきます。

本件名称に著作物性が認められるか
 著作物については、著作権法2条1項1号に
思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は
音楽の範囲に
属するもの」
と規定されています。キャラクターの名称は、キャラクターを形作る上で重要な要素ではありますが、一方で「思想又は感情を創作的に表現したもの」であるかと言われると疑問が残ります。この点について、裁判所は以下のとおり判断しています(下線は筆者、以下同様)。

人物の名称は、当該人物の特定のための符号であり、そうである以上、それは、思想又は感情を創作的に表現したものとは必ずしもいえず、また、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものとはいえないとして、著作物ではないと解するのが相当である。当該名称を作成した者が当該名称に対して何らかの意味を付与する意図があったとしても、それが、当該人物の特定のための符号として用いられているといえるものである限りは、その性質から、上記のとおり、それは著作物でないと解される。

本件正式名称は、人物の名称としてはやや長いものの、王族であるという当該人物の出身国名が付されるなどして長くなっているのであって、当該人物の特定のための符号として用いられているといえるものであり、また、本件通称は当該人物の特定のための符号として用いられていることが明らかである。本件名称は、いずれも著作物ではない。

 これに対して原告は、
小説中の一場面を際立たせる等の演出にとって重要な意味を持つような用法で登場人物名が
呼称される場合には、
名称等が具体的表現になる」
と主張していますが、この点についても裁判所は以下のとおりポパイ事件にも触れてこれを否定しています。
 小説中の特定の場面において登場人物名が重要な役割を果たし、登場人物名の描写を含む当該場面に関する具体的描写が創作的な表現であったとしても、そのことによって、当該描写における特定の語句自体が著作物となるものではなく、当該特定の語句が他の箇所で使われた場合に著作物が使われたことになるものではない。なお、ある特定の場面において登場人物名が効果的に使用され、それにより同場面での当該登場人物の活動等が印象付けられたとしても、そのことを理由として当該特定の場面の具体的描写を離れて登場人物名が著作物となるとすると、特定の場面において活動等を行ったことがある者などという抽象的な概念を著作物として保護することとなるが、それは認められない(最高裁平成4年(オ)第1443号同9年7月17日最高裁第一小法廷判決・民集51巻6号2714頁)。

 上記のとおり東京地裁においてキャラクター名の著作物性は否定されました。これに対し原告は控訴し、控訴審において補充主張を行っております。控訴審判決においても上記判断は変わるものではありませんが、補充主張に対する裁判所の判断は以下のとおりです。

 控訴人は、前記第2の3⑴のとおり、原判決は創作性の有無に触れることなく著作物性を否定しており、法令の解釈適用を誤っている旨を主張する。しかし、補正の上で引用した原判決第3の1のとおり、本件名称には著作物性が認められない。控訴人の挙げる裁判例(東京高裁平成8年1月25日判決等)は、デザイン書体に著作物性が認められるか否かに関する裁判例であり、本件の判断に関係するものではない。

 また、控訴人は、本件名称が愛好者の間では知られているとして、それに沿う証拠(甲11)を提出するほか、主人公の名称は呼びかけの場面等と併せて用いられているものであるから著作物性が認められる旨も主張するが、それらは人物の特定のための符号として用いられていることに変わりはなく、補正の上で引用した原判決第3の1⑵のとおり、特定の場面において効果的に登場人物名が使用されていることがあっても、これを理由として人物名に著作物性が認められることにはならない。
[筆者註:原判決の補正は、本件名称の著作物性の判断とは別の部分にされたもの]

 冒頭で少し触れたとおり、キャラクターの名称はキャラクターを形作る要素の一つであり、愛着をもって用いられるものです。キャラクターは著作権で保護できると言いますが、厳密にはキャラクター自体には著作物性はなく、それを具体的な形で表現することで初めて著作物性が生まれることになります。同様にキャラクター名はあくまで「符号」に過ぎないというのが裁判所の判断です。著作権関連事件では、法律論としての判断と当事者の心情との間で乖離が見られることが多いように思います。

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