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豆知識

2025.04.15

商標Q&A 第19回 不使用取消審判とは何ですか?その3

商標Q&A 第19回 不使用取消審判とは何ですか?その3

Q: 不使用取消審判制度について、引き続き教えてください。商標権者に対して商標登録の取消審判を請求した場合、実際には登録商標を使っていないのに、それっぽい証拠を作り上げて提出してくるような人はいないのでしょうか。そういった場合にはどうすればよいのでしょうか。

A: みなさんはそんなことはしないと思いますし、登録商標を使っていないのに証拠を作り出して使っていることにしたい!とお客様がもし希望されましても、弊所では法律に反していることをご説明させていただいた上で、そのような手続の代理はお断りをさせていただきます。しかしながら、使用証拠の偽造をしようと考える人や企業がいるのも残念ながら事実です。そういうことをするとどうなるのでしょうか。実際に証拠の偽造が争われた事件をみてみましょう。

 不使用を理由とする商標登録の取消審判を請求された被請求人(商標権者である企業)が、実際には登録商標を付した商品の販売事実がないにもかかわらず架空の取引を示す納品書を作成し提出した結果、当該不使用取消審判は特許庁において不成立となりました。ところが、審判の請求人が納品先に確認したところ、実際にはそのような取引が行われていないことが判明し、この審決は知財高裁において取消となりました(知財高裁 H20.10.29「シェアー」事件)。
https://www.ip.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail?id=1643

 本件の怖いところは、審決取消&登録取消だけでは終わらなかったところです。登録商標の取り消しを免れる目的で偽造した書類を特許庁に提出して審判を受けたとして、警視庁生活経済課は、被請求人企業の社長と役員の2名を商標法違反(詐欺行為による審判)容疑で逮捕し、刑事事件に発展しました。また、当時の新聞記事によると、両容疑者は和解金名目で審判請求人企業に対して現金を求めていたらしく、詐欺未遂容疑でも立件する方針であると報じられておりました
https://www.nikkei.com/article/DGXNASDG0601H_W0A001C1CC0000/

 このように、使用していないにもかかわらず証拠等を偽造して商標を使用しているように見せかけて登録維持審決を受けたり、それによって和解金をせしめたりしようとする行為は、法律に反する行為であって刑事罰を受ける可能性がありますので、絶対にやってはいけません。

 当職が代理させていただいた過去の取消審判事件においても、商標権者側から提出された使用証拠の信憑性が極めて疑わしい事件が複数あり、いずれもその点を突くことにより請求認容(登録取消)の審決を得ることができました。例えば、商標を使用している証拠として、商標権者側が商品の広告が掲載されている月刊誌を提出してきた事案においては、国会図書館で実際の月刊誌を調べたところ、当該広告は掲載されておらず、提出された雑誌は実際に頒布されていない(審判用に偽造された)ものであることが判明した事案がありました。また、商標権者が、使用権者に登録商標を使用させている、として使用許諾契約書の写を提出してきた事案では、口頭審理による原本確認において、実際の使用許諾契約書では肝心の登録商標が許諾対象に含まれていなかった(契約書を審判用に書き換えて偽造しコピーを提出した)ことが判明した事案もありました。

 いずれの事案でも、代理人である我々が違和感を抱いて国会図書館での調査や口頭審理における原本確認などを行わなければ見抜けなかった嘘になりますが、長年この仕事をやっておりますと、作られた証拠というものには何かしらの不自然さが現れるように感じます。

 また、商標権者が事前に使用しているかどうかについて、審判を請求する前に、あらかじめ第三者(外部の興信所等)に調査をさせておき、相手が架空の使用証拠を提出してきた場合には、調査報告書に記載されている事実との矛盾点を突いて、そのような販売事実はなかったはずである、と相手の主張を崩していくこともあります。

 「この登録商標、使われてなさそうなので取り消したいんだけれど、ちょっと狡いことをしてきそうな相手だな…」と感じる場合には、お気軽に当所へご相談ください。使用状況の調査から特許庁における審判請求、知財高裁における審決取消訴訟まで、トータルでサポートさせていただきます。

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