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事例紹介
2023.06.15
識別力の判断に関する審決 [弁理士 服部 京子]
識別力の判断に関して登録審決をご紹介したいと思います。
【種別】 拒絶査定不服の審決
【審判番号】 不服2022-21299
【本願商標】 潤いバリアラッピング(標準文字)
第3類「せっけん類,香料,薫料,化粧品,歯磨き」
【適用条項】 3条1項3号、4条1項16号
【結論】 本願商標は、登録すべきものとする。
原査定の拒絶の理由
本願の指定商品を取り扱う業界において、「潤いバリア」及び「ラッピング」の文字は、それぞれ「肌等に潤いを与え保護すること。」及び「肌等を乾燥などの刺激から保護すること。」ほどの意味合いで使用されている実情があることから、本願商標は、全体として「肌等に潤いを与え乾燥などの刺激から保護すること。」ほどの意味合いを容易に認識させるものである。
当審の判断(下線は筆者、以下同様)
本願の指定商品中「せっけん類,化粧品」を取り扱う業界において、「潤いバリア」の文字が「肌や爪等を乾燥から守るもの」ほどの意味合いで、また、「ラッピング」の文字が「(肌等を)包む」ほどの意味合いで、それぞれ使用される場合があることはうかがえるものの、それによってこれらの文字を結合した「潤いバリアラッピング」の文字より特定の意味合いが認識されるとはいい難いものである。
また、当審において職権をもって調査するも、「潤いバリアラッピング」の文字や「バリアラッピング」の文字、又は、これらに類する文字が、商品の品質等を表示するものとして一般に使用されていると認めるに足る事実は見いだせず、そのほか、本願商標に接する取引者、需要者が、それを商品の品質等を表示したものと認識するというべき事情も発見できなかった。
そうすると、本願商標をその指定商品に使用しても、商品の品質等を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標とはいえず、自他商品の識別標識としての機能を果たし得るものであり、かつ、商品の品質の誤認を生ずるおそれがあるものということもできない。
【種別】 拒絶査定不服の審決
【審判番号】 不服2023-3720
【本願商標】 プレミアムワイド(標準文字)
第21類「デンタルフロス,歯間清掃デンタルピック,舌ブラシ,歯茎マッサージ用ブラシ,入れ歯洗浄ブラシ,歯間ブラシ,歯ブラシ,電気式歯ブラシ」他
【適用条項】 3条1項6号
【結論】 本願商標は、登録すべきものとする。
原査定の拒絶の理由
本願商標の指定商品を取り扱う業界において、「プレミアム」の文字が、上等な商品であることを表す誇称表示として使用されており、また、「ワイド幅」、「ワイドヘッド」、「ワイドサイズ」等の文字が、「幅が広いこと(幅広)」を表す語として使用されている。
そうすると、本願商標をその指定商品に使用した場合、これに接する需要者は、「上等」を意味する「プレミアム」の文字と「幅広いさま」を表す「ワイド」の文字を結合したものと認識するにとどまるから、本願商標は、需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができない。
当審の判断
本願商標の構成中、「プレミアム」の文字は「割増金。一段上等・高級であること。」の意味を、「ワイド」の文字は「広いさま。幅広いさま。」の意味を有する外来語(参照:「広辞苑 第7版」岩波書店)であるが、両語を結合して成語となるものではなく、各語の語義を結合した意味合いも漠然としており、商品の品質表示や宣伝文句などとしては具体性を欠く。
また、当審において職権をもって調査するも、本願商標の指定商品を取り扱う業界において、「プレミアムワイド」又はそれに類する文字が、商品の品質や宣伝文句等を具体的に表示するものとして取引上一般的に使用されている事実は発見できず、さらに、本願商標に接する取引者、需要者が、当該文字を商品の品質や宣伝文句等を表示したものと認識するというべき事情も発見できなかった。
そうすると、本願商標は、需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができない商標とはいえない。
【種別】 拒絶査定不服の審決
【審判番号】 不服2022-17841
【本願商標】 美動画
第41類「動画像を用いた知識の教授,動画像を用いたセミナーの企画・運営又は開催」(拒絶査定時)
第41類「動画像を用いた動画像の作成に関する知識の教授」(不服審判請求時)
【適用条項】 3条1項3号、4条1項16号
【結論】 本願商標は、登録すべきものとする。
原査定の拒絶の理由
その構成中の「美」の文字は「うつくしいこと。うつくしさ」の意味を有し、「動画」の文字は「一定時間間隔で撮影された一連の画像を、短い間隔で連続表示することにより得る動きのある映像」の意味を有するから、構成全体として「美しい動画」ほどの意味合いを容易に認識させ、原審補正役務を取り扱う業界においては、美しい動画に関する講座及びセミナーが開催されている実情があることからすると、本願商標を原審補正役務に使用した場合、これに接する取引者、需要者は、当該役務が「美しい動画に関するもの」であること、すなわち単に役務の質を表示したものとして認識するにすぎず、また、美しい動画に関する原審補正役務以外の役務に使用した場合には、役務の質の誤認を生ずるおそれがある。
当審の判断
その構成中の「美」の文字は、「うつくしいこと。うつくしさ。」の意味を有し、「動画」の文字は、「一定時間間隔で撮影された一連の画像を、短い間隔で連続表示することにより得る動きのある映像。」の意味を有する語(いずれも「広辞苑第七版」株式会社岩波書店)であるが、「美動画」の文字は、一般の辞書等に載録はなく、また、新聞記事等により、何らかの意味合いを生じる語として記載されている語とも認められないため、構成文字全体として特定の意味を有する成語となるものではない。
そして、原審説示の「美しい動画」というのは、画像自体が解像度の高い美しい動画であるのか、動画に写る風景等の画像が美しい動画であるのか等、内容があいまいで具体性に欠けるものであり、「動画像を用いた動画像の作成に関する知識の教授」との関係においては、「動画像」の内容も、解像度の高い動画像を作成するための知識の教授であるのか、風景等の動画像を作成するための知識の教授であるのか等、具体性に欠けるものである。
また、原審提示の証拠を参照すると、知識の教授の役務を提供する者が、「最短10分で作れる美しい動画に生まれ変わったきっかけは?」、「だれでもプロのような美しい動画が撮影できるようになります」及び「スマホの写真や動画があっという間に、美しい、楽しい動画が出来上がり!」等、講座の説明文として、「美しい動画」の語を使用していることが散見されるものの、「美動画」の文字が「動画像を用いた動画像の作成に関する知識の教授」についての具体的な内容や質を表示しているとは認められない。
加えて、当審において職権をもって調査するも、当審補正役務を取り扱う業界において、「美動画」の文字が、特定の役務の質等を直接的又は具体的に表示するものとして取引上一般に使用されている事実は発見できず、さらに、本願商標に接する取引者、需要者が、当該文字を役務の質等を表示したものと認識するというべき事情も発見できなかった。
そうすると、本願商標は、全体として「美しい動画」の意味合いを暗示させる一種の造語とみるのが自然であるから、これを当審補正役務に使用したとしても、当該意味合いは具体性を欠くものであり、特定の役務の質の表示として一般に認識するものとはいい難く、自他役務を識別する機能を果たし得るものである。また、本願商標を当審補正役務に使用しても、役務の質について誤認を生ずるおそれはない。
私の前回の審決のご紹介(2023年12月号)に引き続き、審決において識別力があると判断された事例をご紹介しました。今回の案件もやはり既存の(容易な)語の組み合わせではあるものの、全体として何らかの意味合いを生じる語とはなっていないというものです。ただし、注意が必要なのはやはり少なくとも審査段階では拒絶査定となっている点であり、費用や時間も考慮すると商標の重要度に応じた対応が必要になると思います。