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事例紹介
2023.12.15
「収納容器」事件 [弁理士 德永 弥生]
令和5年(行ケ)第10001号 審決取消請求事件
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/129/092129_hanrei.pdf
原告:㈱大創産業
被告:八幡化成㈱
■事件の概要
原告は、被告の所有する「収納容器」の意匠登録(登録第1472070号)について、意匠法3条1項3号及び3条2項を理由として無効審判を請求しましたが(無効2022-880005号)、請求は成り立たないとの審決がされたため、審決の取り消しを求めて本件訴えを提起しました。
裁判所は、取消事由には理由がないとして、原告の請求を棄却しました。
■ 審決の理由の要旨
本件意匠は、甲1意匠に類似するものとはいえず、また、当業者が、本件意匠の意匠登録出願前に公知であった甲各意匠に基づいて容易に創作をすることができたものとは認められないから、本件意匠は、意匠法3条1項3号5 及び同条2項の規定に該当しない。
■ 裁判所の判断
1.取消事由1(本件意匠の認定の誤り)及び無効審判請求における無効理由1(本件意匠及び甲1意匠の類否)について
「・・・「トラック」について、辞書に「陸上競技場や競馬場などの競走路」(甲72)と記載され、日本陸上競技連盟のハンドブック(令和5年1月31日印刷)に「トラックの型」として、直線と半円ないし円弧の組み合わせが示されている(甲73)ことから、直線と円弧からなる形状をトラック形状と表現し得るものと認められる一方、原告の主張するように、直線部分が明確で比較的長いものをいうとまでは認め難いところ、本件意匠の本体部開口端部及び本体部底面の外周形状は、いずれも直線で表現される部分を含んでいることから、これらは、全体として横長で、一部が直線状に延びた略楕円の形状(略横長トラック形状)であるものと認められるところである。その他、本件意匠の中央部には略平坦状の部分があり、本体部の左右両端の上端付近との間が先尖り状であること、把手部の位置についても意匠公報から前記のとおり認められるところであり、審決の認定に誤りはなく、本件意匠と甲1意匠の類否判断及び無効理由1についての審決の判断に、誤りは認められない。」
原告は、審決が本件意匠について、開口部と底面の外周の形状を「略横長トラック形状」であるとしたこと、また、左右両端の上端付近との間が「先尖り状」であるとしたこと、把手部の配置をことさら数値化して認定したことは誤りであり、審決は取り消されるべきと主張しました。
裁判所は、これらの点について審決の認定に誤りはなく、本件意匠と甲1意匠の類否判断および無効理由1についての審決の判断に、誤りは認められないと判断しました。
2.取消事由2(甲20意匠の認定の誤り)及び取消事由3(本件意匠の創作非容易性についての判断の誤り)について
「ケ そして、前記エ、カ及びクの、上端が倒弓状に形成され、中央部は略平坦状に現わされて、左端寄り及び右端寄りの曲率が次第に大きくなり本体部の左右両端の上端付近との間が先尖り状になっているとの点、本件意匠の、本体部開口端部と本体部底面の外周形状が共に略横長トラック形状であるとの点、及び、把手部が、右側面視略U字状に現わされており、かつ、太めの荒縄状で、軸方向に注連縄状に現わされているとの点は、公知の意匠にはみられない独自のものであり、本件意匠に独特の美観をもたらすものということができる。
コ 以上の検討によれば、本件意匠の本体部の上端の形状、本体部開口端部及び本体部底面の形状並びに把手部の形状は、甲1意匠、甲各意匠及び甲76号証ないし78号証に示された意匠とは異なるものであり、これらがありふれた手法により変更可能なものあるいは軽微な改変又は単なる寄せ集めではなく、略逆円錐台形状で、正面及び側面から見た本体部の左右両端が上部にいくにつれて逆ハ字状に広がっている全体の形状とまとまり感のある一体の美観を形成している点に、着想の新しさないし独創性が認められないものではないから、本件意匠は前記意匠から創作容易であるとはいえず、審決の判断に誤りはない。」
本件意匠の要部とされた、本体部の上端の形状、開口端部及び底面の形状、把手部の形状が、甲各意匠等に示された意匠とは異なるとされ、さらには、これらの形状が、全体の形状とまとまり感のある一体の美観を形成している点に、着想の新しさや独創性が認められないとは言えないとされました。
以上