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事例紹介
2023.11.15
定冠詞「THE」の有無において相違する商標の類否 [弁理士 德永 弥生]
定冠詞「THE」の有無において相違する商標の類否が判断された審決をご紹介します。
【審判番号】異議2022-900407
【結論】登録第6592299 号商標の商標登録を維持する。
【登録異議の申立ての理由】商標法第4 条第1 項第11 号
【当審の判断】
(2)引用商標について
引用商標は、「THE TIMELESS」の文字を標準文字で表してなるところ、その構成中、「THE」の文字は「(定冠詞(definite article)と呼ばれる)その。例の。」や「(英語の定冠詞から)名詞に付けて、その語のもつ性質・機能などを強調したり、普通名詞をその典型を表す固有名詞のように扱ったりする。」の意味を有するものである(前掲書及び大辞泉第二版(株式会社小学館))。
そして、その構成中、「TIMELESS」の文字部分は、上記(1)のとおり「特定の時と関係ない。」等の意味を有する英語の形容詞を表したと理解させるものであるが、当該文字の語頭に「THE」の文字を組み合わせることによって、全体として、何らかの意味合いを表すものであると看取されるというよりもむしろ一つの造語、固有名詞であるように看取され得るものとみるのが相当である。
したがって、引用商標は、その構成文字に相応して、「ザタイムレス」の称呼を生じ、特定の観念は生じないものというのが相当である。
(3)本件商標と引用商標との類否について
ア 本件商標と引用商標とを比較すると、外観においては、書体及び構成文字を異にすることから、両商標は、視覚的な印象が明らかに相違し、見誤るおそれはなく、外観において、判然と区別し得るものである。
イ 称呼においては、本件商標が5音、引用商標が6音で構成される比較的短い称呼にあって、最も聴取しやすい語頭音における「ザ」の有無の明確な差異を有するものであり、この差異音が両称呼に与える影響は決して小さなものとはいえないから、それぞれを一連に称呼した場合には、語調、語感を異にし、両者は、称呼において、明確に聴別し得るものである。
ウ 観念においては、本件商標は「特定の時と関係ない」程の観念を生じるものであるのに対し、引用商標は特定の観念を生じないものであるから、観念上、両商標は相紛れるおそれはない。
エ 以上よりすると、本件商標と引用商標は、外観において判然と区別し得るものであり、称呼において、明確に聴別し得るものであり、観念において相紛れるおそれはないものであるから、両商標の称呼、外観、観念等によって取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すれば、両商標は相紛れるおそれのない非類似のものというべきである。
オ してみれば、本件商標と引用商標とは、相紛れるおそれのない非類似の商標と判断するのが相当である。
定冠詞の「THE」の有無のみが相違する商標同士は、審査では原則は類似と判断されます。「THE」の文字は、特段の意味内容をもたない定冠詞であって自他商品等の識別機能を有するものではなく、強いて訳さない場合も多いことから、需要者等は、「THE」の文字部分を捨象して、それに続く文字部分を要部として認識するとされるためです。審判まで争うと、構成の一体性などによって「ザ〇〇」との称呼や「その〇〇」との観念が生じるとして、「THE」のない商標と非類似と判断される場合もあります。
なお、本件に関しては、審査段階で非類似と判断されています。そもそも「TIMELESS」の文字部分が形容詞であり、通常は定冠詞を付けない、ということが影響していると考えます。通常は定冠詞を付けない形容詞にあえて「THE」を付けているため、ここから「THE」の文字部分が捨象されるというよりも、「THE TIMELESS」全体で一体と認識されると判断されたのだと考えます。