TRADE MARK TOPICS 商標お役立ち情報
豆知識
2026.06.15
【商標Q&A 第32回:オリンピックを想起させるマークは登録できますか】
Q:当社は海鮮居酒屋を運営しています。アサリ料理が人気のため、今般、アサリ料理を看板メニューとして押し出し、レトルト惣菜としてネット販売なども行う予定にしています。当店独自のアサリ料理であることを示したく、「あさリンピック」というネーミングとアサリの貝殻を5つ描いた図形をセットにした以下のようなロゴを使おうと考えています。商標調査をしましたところ、類似する先行商標は見当たりませんでした。商標登録出願を行うにあたり、何か留意しておくことはありますでしょうか。

A: アサリ料理の美味しさを競っているかのような楽しいマークですね!ただ、これを商標として出願した場合、商標法4条1項6号により拒絶される可能性があるため要注意です。
同号は、国・地方公共団体やこれらの機関、非営利公益団体、非営利公益事業を表示する標章であって、著名なものと同一類似の商標については商標登録を受けることができない旨、定められております。また、同号の審査基準では、ここでいう非営利公益団体の例として日本オリンピック委員会や国際オリンピック委員会が挙げられており、同号に該当する著名な標章の例として、IOC、JOC、オリンピック、OLIMPIC、五輪、五輪図形が挙げられています。また、同号でいうところの「類似」は、公益保護の観点から、同号規定の標章と紛らわしいか否かにより判断されますので、いわゆる4条1項11号と同様の判断で類否判断が行われる訳ではないことにも留意する必要があります。
さて、本件商標をみてみましょう。本件商標は、5つのアサリ図形の配置といい、「〜リンピック」で終わる名称といい、いずれも五輪マークやオリンピックを想起させる得るものです。そのため、著名なオリンピック標章や五輪図形標章に類似するものであるとして、商標法4条1項6号により拒絶される可能性があります。また、たとえ審査官がクスッと笑って登録を認めてくれても、オリンピック委員会は類似する商標に対してアグレッシブにアクションを起こしてきますから、登録異議申立や登録無効審判を請求されることも十分に想定され得ます。このように、非営利団体が用いている著名なマークなどは、たとえ商標として登録がされていないとしても、不登録標章に該当する場合があるので注意を要します。例えば、以下の各商標は同号に該当するものと判断されています。



また、同号に規定する標章は誰もが知っているオリンピック標章のみならず、例えば、都道府県や市町村の標章であったり、「SDGs」や「NISA」、「iDeCo」、「マイナンバー」といった公益性の高い事業を示す文字を含む標章であったり、最近では地方のマイナーな「ゆるキャラ」の愛称までをも同号で保護するようになり、それはさすがに行き過ぎではないか、との声も挙がっておりました。そもそも、同号に規定するところの「著名」とは、一般的には全国周知レベルを指す言葉ですので(例外もあります)、一地方だけで少し知られている程度のマークは、本号の対象外であるように感じられます。ところが、同号の審査基準には「著名の程度については…公益保護の趣旨に鑑み、必ずしも全国的な需要者の間に認識されていることを要しない。」と規定されているため、この基準が独り歩きしてしまい、審査においては全国周知どころか「そんなの地元民でも知らないよ?」というレベルの標章まで同号拒絶の引例に挙げられることも少なくありません。ただ、この点については、「ぽんちゃん」事件(令和6年(行ケ)第10090号)において、知財高裁が「同号は、対象となる標章を「著名なもの」と限定しているのであって、商標法上の他の規定(例えば、商標法4条1項8号)と完全に整合的に解すべき必要まではないが、少なくとも「著名」の字義に反するような解釈をすることは相当でない」、「公益事業等を示す標章として特定の地域でのみ知られている標章と同一又は類似する商標の登録を禁止するとなると、本来であれば一般的に認められるべきはずの、商標権を取得して全国的に当該商標を使用する権利を過度に制約することになりかねない」、「4条1項6号にいう「著名なもの」というためには、同号に掲げる団体や事業の地域性に照らし、必ずしも日本全国にわたって広く認識されている必要はないが、なお相応の規模の地理的範囲において広く認識されていることを要するものと解するのが相当」と説示し、昨今の特許庁における緩すぎる著名性解釈に対してブレーキを踏みましたので、もし誰も知らないような標章をもって4条1項6号に基づく拒絶理由通知を受けたような場合は、著名性要件について冷静に反論しましょう。
その他、同号は団体名称などに限らず、国や地方団体の「政策名称」や「事業名称」などにも適用があるため要注意です。企業からすると、同号の不登録事由は先行商標に関する商標調査を行っただけでは見えないため、登録予見性の観点からすると大変怖い拒絶理由の一つといえます。一方、商標実務家からすると、同号は「公共の利益の保護」と「商標登録を受ける権利(私益)の保護」のバランスをいかに取るかという商標法の本質的な部分に関する問題であるため、反論を行うにあたっては腕の見せ所かと感じます。
同号に関するトラブルに巻き込まれてしまった場合は、お気軽に当所までご相談くださいませ。
※本件記事の情報は、執筆時点で入手可能な法令・判例等に基づいて作成した一般的な解説です。最新の法令・判例と異なる場合や、個別の事案には必ずしも適合しない場合があります。具体的な対応が必要な場合は、弁理士にご相談いただくようお願いいたします。