TRADE MARK TOPICS 商標お役立ち情報
事例紹介
2023.05.15
役務の類否の判断例 [弁理士 德永 弥生]
他類間で同じ類似群コードが付された役務について、非類似の役務と判断された審決をご紹介します。
【種別】拒絶査定不服の審決
【審判番号】不服2022-6202
【結論】原査定を取り消す。本願商標は、登録すべきものとする。
【原査定の拒絶の理由】商標法第4条第1項第11号
【本願商標】商願2020-148386「SmartWorker」(標準文字)
指定役務:第42類「電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守,コンピュータシステムの設計・作成に関するコンサルティング,ウェブサイトの作成又は保守」(類似群:42P02)
【引用商標】登録第5845086号「スマートワーカー」(標準文字)
指定役務:第35類「派遣によるOA機器の操作・データ入力・一般会計事務・秘書・経理事務,電子計算機を用いて行う情報検索事務の代行」(類似群:42P02)他
【当審の判断】
・・・
(4)本願の指定役務と引用商標の指定役務との類否について
ア 役務の類否判断について
商標法第4条第1項第11号における役務の類否の判断は、取引の実情、すなわち、a)提供の手段、目的又は場所が一致するかどうか、b)提供に関連する物品が一致するかどうか、c)需要者の範囲が一致するかどうか、d)業種が同じかどうか、e)当該役務に関する業務や事業者を規制する法律が同じかどうか、f)同一の事業者が提供するものであるかどうか等を総合的に考慮して判断をすべきものであり、その類否は、2つの役務に同一又は類似の商標が使用された場合、これに接する取引者、需要者が役務の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるかどうかにより判断すべきものである。
・・・
イ 本願指定役務について
本願指定役務は、依頼者との契約等に基づいて、電子計算機(コンピュータ)プログラム、コンピュータシステムやウェブサイトなどの「コンピュータソフトウェア関連の設計、開発等を行う」役務を提供することが目的であり、その提供場所は、役務の提供者自身の開発環境で行われることが一般的である。そして、コンピュータプログラム等の設計、開発に際しては、コンピュータ、サーバー、開発・テスト用のソフトウェア等のコンピュータハードウェア及びソフトウェアを用いて行うものである。
また、当該役務は、新たにコンピュータのシステムやウェブサイトの企画、運用を行うことを欲する企業等が需要者であり、契約等に基づいて役務の提供を行うものである。
さらに、本願指定役務はソフトウェア業者が提供するものであって、その業種はソフトウェア業ということができるものである。
ウ 引用指定役務について
引用指定役務は、依頼者の指示に従って、OA機器の操作、データ入力、情報検索事務等の「事務作業を行う」役務を提供することが目的であり、その提供場所は、「派遣によるOA機器の操作・データ入力・一般会計事務・秘書・経理事務」は、派遣先である依頼者のもとであり、「電子計算機を用いて行う情報検索事務の代行」は、提供者又は依頼者のもとである。そして、事務作業の提供に際しては、一般的なコンピュータハードウェア及びソフトウェアを用いて行うものである。
また、引用指定役務は、OA機器の操作、データ入力、情報検索事務等の事務作業を自身で行うのではなくアウトソーシングすることを欲する企業等が需要者であり、「派遣によるOA機器の操作・データ入力・一般会計事務・秘書・経理事務」については、労働者派遣契約等に基づいて提供され、労働者派遣法の規制のもと行うものであり、「電子計算機を用いて行う情報検索事務の代行」は、契約等に基づいて役務の提供を行うものである。
さらに、引用指定役務のうち「派遣によるOA機器の操作・データ入力・一般会計事務・秘書・経理事務」は、人材派遣業者によって提供されるものであって、その業種は人材派遣業であり、「電子計算機を用いて行う情報検索事務の代行」については、事務代行業者が提供するものであって、その業種は事務代行業ということができるものである。
エ 本願指定役務と引用指定役務との類否について
上記のとおり、本願指定役務と引用指定役務とは、その提供に関連する物品が一致し、提供場所について一部が一致する場合はあるものの、両者の目的は、本願指定役務が「コンピュータソフトウェア関連の設計、開発等を行う」のに対し、引用指定役務は「事務作業を行う」ものであるから、これらは本質的に異なる役務であるということができ、さらに、提供の手段、需要者の範囲、業種、提供する事業者という観点からも異にするものである。
したがって、両者に同一又は類似の商標が使用された場合、これに接する取引者、需要者は、役務の出所につき誤認混同を生ずるおそれのないものであり、本願指定役務と引用指定役務とは、互いに類似しない役務と判断するのが相当である。