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事例紹介

2023.04.27

原産地呼称と商標(商標法4条1項7号及び10号)[弁理士 清水 三沙]

原産地呼称と商標(商標法4条1項7号及び10号)[弁理士 清水 三沙]

本件は、原産地称呼で保護されている「GORGONZOLA」を含む商標「SAPUTO GORGONZOLA」(指定商品:第29類「『ゴルゴンゾーラ』の原産地称呼で保護されているイタリア産のチーズ」)が、「GORGONZOLA」チーズの保護監督を行ってきた請求人から無効審判を請求され、商標法4条1項10号及び7号で登録が無効となった事件です。

【審判番号】無効2020-890077

【審判請求日】令和2年10月15日

【確定日】令和4105

【請求人】コンソルツィオ・ペル・ラ・トゥテラ・デル・フォルマッジョ・ゴルゴンゾーラ(イタリア)

【被請求人】サプート デアリー プロダクツ カナダ ジーピー(カナダ)

【本件商標】「SAPUTO GORGONZOLA

【引用商標】「GORGONZOLA」

【原産地呼称保護制度について】
 欧州においては、その品質等の特性と原産地が結びついている場合に、その原産地を特定する表示 「地理的表示」を保護する制度として、「原産地呼称保護」(PDO)と、「地理的表示保護」(PGI)の2種類があります。

 そのうち「原産地呼称保護制度」とは、農産物や食品の原産地名そのものを独占的・排他的に利用できる権利を保護する制度です。「原産地呼称保護」と「地理的表示保護」の主な違いは、製品と地域の結びつきの強さにあります。「原産地呼称」では全ての製造工程がその原産地で行わなければならないのに対し、「地理的表示保護」では、対象商品の特徴の一部が当該地域に見出すことができ製造工程の一部が特定の地域で行われていることで足ります。

 本件の引用商標「GORGONZOLA」は、欧州において、1951年にストレーザ協定で原産地呼称として保護され、1955年にはイタリア大統領令で原産地呼称(DOP)として保護承認を受け、1996年には、欧州連合におけるPDO(原産地呼称保護)として認定されていることから、生産規格に定められた品質を備えたチーズにのみ「GORGONZOLA」の使用が許されています。

【事件の背景】
 本件の請求人は、「GORGONZOLA」を付したチーズの保護監督を行ってきた団体で、「Gorgonzola」又は「GORGONZOLA」が我が国において、請求人の保護監督に係るチーズの銘柄を表す商標として、本件商標の登録出願時前よりも取引者・需要者の間に広く知られ周知著名になっていること、本件商標「SAPUTO GORGONZOLA」は「SAPUTO」と「GORGONZOLA」に分離して看取でき「GORGONZOLA」部分のみも出所識別標識として認識されることから引用商標と出所の混同を生じるおそれがあるとして、商標法4条1項10号に該当する旨を主張しました。また、商標法4条1項15号、19号、7号に該当する旨も主張しております。

これに対し、被請求人は答弁を行っておりません。

なお、引用商標「GORGONZOLA」は団体商標として日本でも登録されておりますが(登録第6271852号)、本件商標の出願日以降に出願されたものであったため、請求人は、本件商標が、商標法4条1項11号ではなく、4条1項10号等に該当することを主張しております。

【当審の判断】
〇 引用商標の周知・著名性について
 引用商標の周知性については、引用商標が紹介された書籍やウェブサイト等でゴルゴンゾーラが日本で人気のあるチーズとして紹介されていること、引用商標を使用したチーズのイタリアから日本への輸入量、「GORGONZOLA」が団体商標として登録されていることなどから、引用商標は本件商標の出願時及び査定時に周知であることを認めました。

〇 商標法第4条第1項第10号該当性について
・本件商標と引用商標について
「本件商標の「SAPUTO GORGONZOLA」の構成中「GORGONZOLA」は、請求人等の業務に係る商品(チーズ)を表すものとして周知性を獲得し、出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められることからすれば本件商標から「GORGONZOLA」の文字部分を要部として抽出し、この部分のみを他人の商標(引用商標)と比較して商標そのものの類否を判断することも許されるというべきである」と判断した上で、

「本件商標は、全体の構成文字に相応して生じる「サプトゴルゴンゾーラ」の称呼のほかに、その要部である、「GORGONZOLA」の文字部分に相応して「ゴルゴンゾーラ」の称呼及び請求人等の業務に係る商品(チーズ)の観念を生じるものである。」と判断し、

「そうすると、本件商標と引用商標とは、外観全体の構成が異なるとしても、本件商標の要部である「GORGONZOLA」の文字部分と引用商標は、称呼及び観念を同一にするものであって、外観も共通するものであるから、これらが取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合的に考察すれば、両者は互いに相紛れるおそれのある類似の商標と判断するのが相当である。」と判断しました。

本件商標と引用商標の指定商品は類似であることを認めた上で、「以上のとおり、本件商標は、「欧州における原産地名称保護制度により保護される、生産者規格に定められた品質を備えたチーズ」に使用されて需要者の間で広く認識されるに至った商標「GORGONZOLA」と類似する商標であって、その商品に類似する商品に使用をするものであるから、商標法第4条第1項第10号に該当する。」と判断しました。

〇 商標法第4条第1項第7号該当性について
「「GORGONZOLA」の文字は、永年にわたってイタリア及び欧州で保護され、請求人等の業務に係る商品(チーズ)を表示するものとして、需要者の間に広く認識されていたものと認められるものであり、請求人等の品質管理等の努力により、「GORGONZOLA」の表示に、周知・著名性が蓄積、維持され、それに伴って高い名声、信用、評判が化体されているということができる、このことは、我が国においても同様のことがいえる。

以上により、「GORGONZOLA」の文字及びそれを使用した「欧州における原産地名称保護制度により保護される、生産者規格に定められた品質を備えたチーズ」は、イタリア及びイタリア国民の文化的所産ともいうべきものとなっており、重要性が極めて高いものであることが認められる。

そうすると、標章の構成中に「GORGONZOLA」の文字を有する本件商標をその指定商品に使用することは、イタリアにおけるチーズの生産者の利益を代表する請求人等のみならず、欧州における原産地名称保護制度により「GORGONZOLA」の名声、信用ないし評判を保護してきたイタリアを含む欧州の国民感情を害し、日本とイタリアを含む欧州との友好関係にも好ましくない影響を及ぼしかねないものであり、国際信義に反し、日本とイタリアを含む欧州の公益を損なうおそれが高いといわざるを得ない。」として、商標法4条1項7号に該当すると判断しました。

【コメント】 
 「原産地呼称」は、農産物や食品の原産地名を独占的・排他的に利用できるように保護する制度です。「原産地呼称」と日本商標の関係を見てみると、例えば、「ASOLO PROSECCO」(商品:ワイン)については、識別力がないとして拒絶査定になっております(国際登録第1413018号)。また、「原産地呼称」の代表例でもある「CHAMPAGNE」を含む商標については、指定商品を「原産地呼称統制ぶどう酒」等の表記にすることで登録になっています。

 そして、本件の引用商標「GORGONZOLA」も審査段階では3条拒絶を通知されております。

 そのことから考えますと、日本特許庁としては、「原産地呼称」は、「特定の者しか使用できない」という面よりも「原産地を表示している」という面を見て、品質表示として取り扱っているものと推察します。

 しかしながら、国際信義の観点から考えますと、「原産地呼称」が日本で周知かどうかに限らず審査段階では4条1項7号の拒絶理由を通知する等して「原産地呼称」の保護を図る必要があるのではないかと感じました。

 また、仮に原産地呼称が含まれる商標が登録になったとしても、本件のように原産地呼称の保護団体から異議申立や無効審判を請求される可能性があることから考えますと、食品分野(特に、チーズやワイン等)においては出願予定の商標の中に原産地呼称が含まれていないかどうかも調査する必要があると考えます。

 なお、請求人は商標法4条1項10号の他に商標法4条1項15号、19号、7号に該当する旨及び3条1項柱書違反も主張しましたが、4条1項15号該当性については、本件が4条1項10号に該当する判断がされたことから、15号該当性は否定されています。また、4条1項19号については、被請求人に引用商標にただ乗りする意思や不正の目的等があったと認められる具体的な事実が見いだせなかったことから該当性は否定されています。そして、3条1項柱書違反については、「将来においてその使用をする意思があれば、商標法第3条第1項柱書の要件を具備するといえることから、将来自己の業務に係る本件商標の指定商品に本件商標を使用する意思を有していたことを否定することはできない。」として3条1項柱書違反も認められませんでした。

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