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事例紹介

2024.03.15

「スチーム調理用蓋付きトレー」事件 [弁理士 德永 弥生]

「スチーム調理用蓋付きトレー」事件 [弁理士 德永 弥生]

令和4年(ワ)第17015号 意匠権侵害差止等請求事件
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/639/092639_hanrei.pdf

原告:池田物産株式会社
被告:株式会社カクセー

■事件の概要
 本件は、意匠に係る物品を「スチーム調理用蓋付きトレー」とする意匠権(登録第第1616424号)を有する原告が、被告が被告製品を販売等することが本件意匠権を侵害すると主張し、被告製品の販売等の差止め、廃棄、損害賠償金等の支払を求めた事案です。

 裁判所は、両意匠は類似しないと判断し、原告の請求を棄却しました。

 (本件意匠/被告意匠)

■裁判所の判断
(1)本件商標の要部について
  本件物品「スチーム調理用蓋付きトレー」は、トレー状の台座の上に食品を乗せて蓋をし、水を張ったフライパン等に載せて食品を蒸すことができる調理器具です。

(本件意匠の使用状態を示す参考図)

 本件意匠と物品が類似する以下の公知意匠(登録第1219229号「食品蒸し用容器」)も参酌して、本件意匠の要部は、「円形ドーム状を前提とする蓋部の各部位における曲率等の具体的な形状、蓋部の頂上に取手部が存在することを前提とする、取手部の具体的な形状等の具体的な構成態様」と認定されました。

(公知意匠登録第1219229号)

「ウ 本件意匠の基本的構成態様 a から c の形状や、台座部の周縁部の傾斜面途中の段差に蓋部の水平周縁フランジ部を係止させて蓋部がかぶせられ、この段差よりも外側の傾斜面は蓋部をかぶせても蓋部の全周縁の外側に突出し、台座部の円形支承板面部の小孔に複数の同心円方向に間隔を置いて並んでいるものがあることは、本件公知意匠によって公知の形状であった。また、乙8,9によれば、一部に銀白色の金属光沢を有する食品蒸し器は本件意匠登録出願前に知られていたと認められる。

エ 上記アないしウによれば、本件意匠の要部は、円形ドーム状を前提とする蓋部の各部位における曲率等の具体的な形状、蓋部の頂上に取手部が存在することを前提とする、取手部の具体的な形状等の具体的な構成態様であると認められる。」

(2)本件意匠と被告意匠の対比
 以下の通り、意匠の要部である取手部と蓋部の形状の差異により、需要者に異なった印象を与えるとして、両意匠は非類似と判断されました。

「本件意匠と被告意匠は、いずれも、スチーム調理用蓋付きトレーであり、前記アで共通するところ、そのうち、基本的構成態様の形状については本件公知意匠があることから(前記 イ)、需要者の注意を特に強く引くべき部分とまではいえない。そして、前記 エのとおり、本件意匠については、蓋部における円形ドーム状を前提とする蓋部の各部位における曲率等の具体的な形状、蓋部の頂上に取手部が存在することを前提とする、取手部の具体的な形状等の具体的な構成態様が要部であると認められる。取手部について、本件意匠の取手部は笠状の把持部からなるのに対し、被告意匠のハンドル状の取手部は蓋本体部の大きさとの関係で相当の大きさを有し、一方方向に伸びているため、蓋部の対称性が崩れるものであり、需要者の美感に大きな影響を与えるといえる(差異点1)。また、蓋部について、本件意匠が中央頂部に至る範囲は緩やかな傾斜状に形成されているのに対し、被告意匠の中央部は水平な平坦面に形成されている。意匠に係る物品を主に上方又は上斜上方から見る需要者にとり、蓋部の全体的な形状の違いは異なった印象を与え得るものであるところ、本件公知意匠の形状が公知であって前記のとおり蓋部における円形ドーム状を前提とする蓋部の各部位における曲率等の具体的な形状等が要部となる本件意匠において、この蓋部の差異は、需要者に異なる美感を生じさせるものといえる(差異点3)。その他、需要者は、トレーと蓋を分離した状態で、それぞれを上方又は斜め上方から視認することもあるといえるところ、この場合、台座部の孔についても、被告意匠の中心部に他の孔よりも大きな孔がある点は、他の小孔と大きさが異なることで注意を引き、また、小孔の配置も、本件意匠は台座部の縁に近づくにつれてまばらになる印象を与えるが、被告意匠は台座部前面にわたって均一に配置されている印象を与え、本件意匠と被告意匠とで異なった美感を生じさせる(差異点2)。本件意匠と被告意匠には、他に、蓋部における黒色の部分の差異(差異点4)や台座部の円形支承板面部の形状の差異(差異点5)がある。

 以上によれば、本件意匠と被告意匠の共通点のうち基本的構成態様の形状は、需要者の注意を特に引くべき部分であるといえない。需要者の注意を特に引くべき部分のうち、特に取手部や蓋部の形状の差異は需要者に異なった印象を与えるものである。そうすると、本件意匠及び被告意匠の全体を観察しても、両者は要部において顕著な差異があり、上記共通点を考慮しても、全体として差異点が共通点を凌駕しており、視覚を通じて起こさせる全体としての美感を異にするものであるというべきである。」

以上

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