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事例紹介

2023.11.15

「PETCOATING」商標権侵害損害賠償請求事件 [弁理士 清水 三沙]

「PETCOATING」商標権侵害損害賠償請求事件 [弁理士 清水 三沙]

令和 2 年(ワ)第 14155 号 損害賠償請求事件(東京地方裁判所)
判決文:https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/266/092266_hanrei.pdf
原告 株式会社エコテック
被告 株式会社サービング

〔事件の概要〕
本件は、商標「PETCOATING /ペットコーティング」(登録No.5399385、以下「本件商標」という)の商標権者である原告が、住宅及び商用施設の床のコーティング工事に関する広告を内容とする情報に被告が付していた標章が本件商標に類似するとして、被告に対し商標権侵害を理由に差止・廃棄・損害賠償等を求めた事件です。

本件では被告標章の使用が本件商標の侵害に該当すると判断し、差止請求権及び廃棄請求権を認めました。

そして、損害額の算定に関し商標法38 条2 項の規定の適用を認めましたが、推定覆滅割合が95%と判断しました。

本件は被告標章の使用が本件商標の商標権侵害に該当することが明白なケースであることから、本記事では損害額の掲載(特に、推定覆滅事情)に絞って紹介いたします。

〔本件での争点〕
争点1:本件商標と被告各標章の類否
争点2:役務の同一性又は類似性
争点3:原告の損害及び損害額

〔裁判所の判断〕
3.争点3:原告の損害及び損害額
(1)原告の損害の発生の有無
 「ペットコーティング」と呼ばれる床のコーティング工事に関する原告と被告の事業は、その需要者に少なくともペットを飼育する個人の住宅向けのフロアコーティングを求める消費者が含まれる点では共通しており、このような需要者を対象とする床のコーティング工事に関する市場において、原告と被告の事業は競業関係にあるといえる。

したがって、原告には、被告による本件商標権侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情が存在することから、法 38 条 2 項の適用が認められる。

(2)原告の損害額
ア 逸失利益の額
( ア) 侵害者が侵害行為により受けた「利益の額」(法 38 条 2 項)とは、侵害者の侵害に係る役務等の売上高から、侵害者においてその役務等を提供することによりその役務等の提供に直接関連して追加的に必要となった経費を控除した限界利益の額であり、その主張立証責任は商標権者側にあるものと解される。

( イ) 売上高については、証拠(乙 7 の 2 、8、11)及び弁論の全趣旨によれば、平成 23 年 3 月~令和 2年 2 月の間の被告の売上高は、以下のとおりと認められる。これに反する被告の主張は採用できない。
・被告の自社工事分 8313 万 8438 円(税込)
・外注工事分 7123 万 0930 円(税込)

( ウ) 経費については、まず、証拠(乙 18)及び弁論の全趣旨によれば、被告の自社工事における人工代が261 万 8861 円であったことが認められる。これは、被告の売上高に係る役務提供に直接関連して追加的に必要となった経費といってよい。
被告は、さらに、外注工事における発注費その他発注費用のほか、営業費、事務費、材料費、消耗品費、車両・交通費の控除をも主張する。

しかし、外注工事における発注先である株式会社サービングテクノスは、本店所在地や代表取締役の共通性(甲 36、37)から、少なくとも被告と極めて密接な関係にある会社であることがうかがわれることなどに鑑みると、同社からの請求書(乙 16 の 1、17 の 1)のみをもって直ちに、同社に対する外注工事の発注費用につき、限界利益の算定に当たり控除すべき経費と認めることはできない。その他の費用については、その支出を裏付けるに足りる的確な証拠はない。このため、この点に関する被告の主張は採用できない。

そうすると、経費については、自社工事分についての人工代のほか、外注工事分についても、原告の主張のとおり、自社工事分の変動費率3.15% を乗じたものをもって経費と認めるのが相当である。

( エ) 以上より、本件における被告の限界利益は、合計 1 億 4950 万 6732 円と認められる。
・自社工事分 8051 万 9577 円(=8313 万 8438 円-261 万 8861 円)
・外注工事分 6898 万 7155 円(=7123 万 0930 円×(1-0.0315))

( オ) 推定覆滅事情
法 38 条 2 項における推定の覆滅については、侵害者が主張立証責任を負うものであり、侵害者が得た利益と商標権者が受けた損害との相当因果関係を阻害する事情がこれに当たるものと解される。そのような事情としては、例えば、商標権者と侵害者の業務態様等に相違が存在すること(市場の非同一性)、市場において競合する役務等の存在、侵害者の営業努力(ブランド力、宣伝広告)、侵害に係る役務等の効用・効果(機能、デザイン等商標以外の特徴)といったものが挙げられる

本件においては、まず、前記のとおり、原告と被告の提供する役務は、いずれもペットの飼育に適したフローリングの表面処理の施工を行うというものであり、その市場は同一ないし重なり合うものと見られる。もっとも、原告と被告がそれぞれ提供する上記役務は、その性質上、施工の内容、工法、仕上がり、職人の熟練度、施工費用等が重要な要素となるものであり、他社との差別化のため各事業者がサービスの提供方法等を向上させようとするものであることは経験則上明らかである。現に、例えば、原告は、「ペットコーティング」に係る工事について、「工事は 1 日で完成 高級感 UP !」などと、1 日で工事が完了することをメリットとして訴求している(甲 15 ~ 19)。これに対し、被告は、基本プランである「スタンダード」プランで「標準工程:2 日」とし、コーティングのみならずレストア(劣化部修復)の施工プロセスを経ることもアピールポイントとして訴求している(甲 5 ~ 11)。

もとより、需要者は、商品の選択に当たり、提供される役務等や事業者自体の信用等を表章するものとして本件商標や被告各標章を参照すると思われるものの、住居内の床のコーティング工事という役務の性質に鑑みると、現に提供される施工の内容等を同等ないしそれ以上に重視するものと考えるのが相当である。このため、被告各標章が、これをその広告等に使用したことにより被告の売上に寄与した程度は、かなり限定的なものと見るべきである。なお、前記(2(1) エ( ウ))のとおり、原告は、自社ウェブサイトの会社案内の「グループ沿革」欄に、平成 26 年 7 月部分に、特定の住宅建築会社限定の「ペット専用コーティング『ペットコーティング』の供給開始」と記載している。この取扱いが実際に実施された期間等の詳細は証拠上判然としないが、少なくとも、原告と被告とでは、上記役務の販路ないし販売態様を異にしていたこともうかがわれる

これらの事情を総合的に考慮すると、本件において、侵害に係る役務の提供によって被告が得た利益の大部分については原告の損害の相当因果関係を阻害する事情があるというべきであり、その推定の覆滅割合は95% と認めるのが相当である

以上によれば、被告が本件商標権侵害行為により受けた「利益の額」すなわち本件商標権侵害により原告が受けた損害の額として推定される額は、747 万 5336 円(= 限界利益額 1 億 4950 万 6733 円× 5%。1円未満切捨て)と認められる。

【コメント】
本件においては、原告と被告の市場が同一であるものの、提供するサービスの施工の内容等が重視されることや、原告と被告の販路・販売態様が異なることから、被告標章を付した広告等が売上に寄与した程度がかなり限定的と判断されました。他の裁判例では、被告製品が特許実施品であったことや、被告の営業努力が大きかったことを理由に推定覆滅が認められております。

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