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事例紹介

2023.10.16

商標「豊潤サジー」3条2項登録審決 [弁理士 清水 三沙]

商標「豊潤サジー」3条2項登録審決  [弁理士 清水 三沙]

今月ご紹介する審決は、商標「豊潤サジー」(補正後の指定商品:第32類「サジーを原材料とする果実飲料」)が、審査段階では本願商標に接した取引者、需要者は本願商標から「豊潤な味わいや香りのサジーに関する商品」程の意味合いを認識するにすぎないから商標法3条1項3号に該当すると判断されたものの、拒絶査定不服審判で出願人が商標法3条2項該当性を主張し、その主張が認められて登録になった事件です。

【審判番号】不服2022-17043

【審判請求日】令和4年10月25日

【確定日】令和5年5月16日

【請求人】株式会社フィネス

【当審の判断】

(1)商標法第3条第1項第3号該当性について

本願商標は、「豊潤サジー」の文字を標準文字で表してなるところ、その構成中、「豊潤」の文字は「ゆたかでうるおいのあること。」(「広辞苑第7版」株式会社岩波書店)の意味を有し、本願の指定商品である飲食料品の分野では、「豊潤な〇〇」のように商品の味わいや香り等がゆたかでうるおいがあることを表す語として一般に使用されていることは別掲1の原審で提示した事実及び別掲2からうかがえ、さらに「豊潤○○」の文字も、同様に商品の味わいや香り等がゆたかでうるおいがあることを認識させるような使用がなされている事実が別掲3より見受けられる。そして、「サジー」の文字は、別掲4の辞書等から、サプリメントや薬用に用いられる植物を意味する語と認められ、本願の指定商品との関係では、その果実を使用した果実飲料が製造販売されている事実がうかがえる。

そうすると、本願商標をその指定商品である第32類「サジーを原材料とする果実飲料」に使用するときは、これに接する取引者、需要者に、「豊潤(ゆたかでうるおいのある)な味わいや香りのサジーを原材料とする果実飲料」という商品の品質、原材料を表示したものと、認識、理解させるにすぎないというのが相当である。

したがって、本願商標は、商品の品質、原材料を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であるから、商標法第3条第1項第3号に該当する。

(2)商標法第3条第2項の要件を具備するか否かについて

ア 請求人の主張及び同人の提出に係る証拠によれば、以下の事実が認められる。

(ア)請求人は、2009年に「豊潤サジー」と称する「サジーを原材料とする果実飲料」(以下「使用商品」という。)の販売を開始している。

(イ)使用商品には、容器の表面に、「豊潤サジー」の文字が普通に用いられる方法で縦書きに表されている(以下「使用商標」という。)(甲9~甲24)。

(ウ)請求人の売上の約99.5%は、使用商品によるものであり(甲4、甲6)、売上及び概算販売本数は、2009年は「約717万円、約2千本」、2019年は「約22億9000万円、約76万本」、2022年は「約77億7000万円、約259万本」であることが認められる(甲4)。

(エ)株式会社データ・マックスによる2017年1月から2020年12月における沙棘(サジー)ジュースの市場調査報告書によれば、サジージュースを販売している12社において、請求人の使用商品の売上高は、4年連続して他社より顕著に高いことが認められ、また、2020年についてみると、12社のサジージュース総売上の全体の約83.6%のシェアであることが推認される(甲6)。

(オ)2022年7月26日に実施された「ライフスタイルに関するアンケート」によれば、健康食品に関する語句の中でサジーの名前を知っている者は「23.2%」であり、サジーは健康食品としての知名度は低いが、「サジー」のカテゴリーにおいて「豊潤サジー」の名前を聞いたことがある者は「73.1%」と請求人の使用商品の認知度は高く、また、「サジー」を購入したことがある者のうち「79.4%」が請求人の使用商品を購入しており、他社の商品と比較しその割合が顕著に高いことがうかがえる(甲7)

(カ)全国に頒布される生活情報誌やファッション雑誌への使用商品についての記事の掲載は、2011年10月から2022年4月の間、継続的に少なくとも73回行われている(甲8)。

(キ)上記(ア)ないし(カ)によれば、請求人は、2009年から、使用商標を使用商品に継続的に使用しており、その販売実績についても、近年において高い販売金額を維持していることがうかがえる。

(2)上記(1)を踏まえれば、請求人は、使用商品である「サジーを原材料とする果実飲料」について、2009年から現在に至るまで、使用商標を継続して使用していることが認められ、その結果、使用商標と同一視できる本願商標は、上記商品については、請求人の業務にかかる商品であることを表すものとして需要者に認識されるに至っているというのが相当である。

したがって、本願商標は、商標法第3条第2項の要件を具備するものとして、商標登録を受けることができるものである。

(3)まとめ

以上のとおり、本願商標は、商標法第3条第1項第3号に該当するものの、同条第2項の規定により商標登録を受けることができるものであるから、原査定は、取消しを免れない。

【コメント】

出願人が拒絶査定不服審判で提出した証拠は甲第1号証から第27号証までであり、他の3条2項主張案件と比較すると提出した証拠の数が少ないです。また、宣伝広告について提出した証拠も本願商標使用商品に関する雑誌掲載記事のみであり、その掲載回数も73回と多いとは言えません。周知性を判断する際に有効な証拠となるテレビCMの放映回数や使用商品の受賞歴等も述べられておらず、審判請求書の主張内容はとてもシンプルであります。

しかしながら本件において3条2項該当性が認められたのは本願商標使用商品の高い販売金額(2022年が約77億7000万円)とシェア率(2020年はサジージュース総売上全体の約83.6%)と考えられます。また、3条2項の主張を行う商標出願については売上のピークを越した後に出願すると売上高がピークを越していることが3条2項該当性判断ににマイナスとなる場合もありますが、本願商標は売上高が販売開始年の約100倍に達した頃に出願されており、出願時期についても適切だったと考えます。

そういう意味で、3条2項主張において販売高やシェア率が重要であること、及び出願時期を適切に判断することも重要であることを改めて感じた事件でした。

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