TRADE MARK TOPICS 商標お役立ち情報
豆知識
2026.03.15
【商標Q&A 第29回:金融サービスに「BIZ」は登録できる?】
Q: 当社は、今まで個人向けの資産形成コンサルティングを行っていたのですが、今般、新たに企業向けの金融資産形成コンサルティングを展開するにあたり、その商標として「BIZ-Smart」を考えています。先行商標を調査して類似する商標などがなければ、登録可能と考えて良いでしょうか。
A: 本件商標については先行商標の調査だけでは足りない可能性があり、注意が必要です。おっしゃるとおり、他人が同一・類似の先行登録商標を保有していないことの確認は必須となりますが、これに加えて、いわゆる不登録標章に該当しないかの確認も必要となります。
おそらく、本件商標の採択理由としては「Business」向けのコンサルティングサービスということで、ビジネスの略語としてよく使われる「BIZ」という文字を取り入れられたのだと思いますが、実は「BIZ」は国際決済銀行をドイツ語表記(Bank für Internationalen Zahlungsausgleich)した場合の略語でもあります。国際決済銀行というのはスイスのバーゼルに本部を置く世界最古の国際金融機関でして、各国の中央銀行が加盟する「中央銀行の中央銀行」ともいえる重要な国際機関なのですが、一般的には英語表記である「Bank for International Settlements」が用いられ、その略語も英語ベースの「BIS」が使われています。
それがどうした…と思われるかもしれませんが、実は、商標法には、国際機関を表示する標章であって経済産業大臣が指定するものと同一・類似の商標は登録を受けることができないという規定がありまして(商標法4条1項3号)、「国際決済銀行」という名称が大臣指定を受けています。また、大臣指定を受けているのは日本名称だけでなく、「Bank for International Settlements」という英語表記や、「Banque des Reglements Internationaux」というフランス語表記、前出の「Bank für Internationalen Zahlungsausgleich」というドイツ語表記なども大臣指定を受けており、更に、これらの略語である「BIS」、「BRI」、「BIZ」についても大臣指定を受けています。
国際機関は何も国際決済銀行だけではありませんので、大臣指定を受けている標章は3,000件近くあり、ローマ字3文字からなる標章も数多く指定されています。長らく、これらと同一・類似の商標については、指定商品や役務に関係なく、「国際機関を表示する標章と同一・類似する」ことを理由として拒絶されるという事態が生じておりました。例えば、以前であれば、商品「洋菓子」の商標として「BRI」を出願したら、「国際決済銀行のフランス語表記の略語と同一である」という理由で拒絶され、また、商品「化粧品」の商標として「OEB」を出願したら、「欧州特許庁のフランス語表記「Office Européen des Brevets」の略語「OEB」と同一である」という理由で拒絶されてきました。これはさすがに理不尽に感じられる運用ですよね。出願人からしたら「そんなん知らんがな!」といいたくなる案件です。
この業界に入ってから、どうしてこんな問題の多い条項を放置しているんだろう…と疑問に感じていたのですが、新しいタイプの商標が導入された平成26年の商標法改正において、ようやくこの4条1項3号について見直しが行われ、たとえ国際機関の略称を表示する標章と同一又は類似の標章からなる商標であっても、「その国際機関と関係があるとの誤認を生ずるおそれがない商品又は役務について使用をするもの」については同号の規定に該当しないこととなりました。つまり、先程の例でいえば、商品「洋菓子」は国際決済銀行とは無関係ですので問題がなく、また、商品「化粧品」も欧州特許庁とは無関係ですので問題がなくなった訳です。
では、本件の場合はどうでしょうか。本件の指定役務は第36類「金融資産の形成に関する助言」あたりでしょうから、金融に関する国際機関である「国際決済銀行」と全く関係性のない役務かというと、そうとも言い切れないところかと感じます。そのため、審査官によっては、本件商標「BIZ-Smart」は、国際決済銀行のドイツ語表記の略語であって経産大臣指定を受けている「BIZ」に類似するとして、拒絶してくることも十分に想定される訳です。その場合には、両者は非類似であるとの主張や、本件商標に接した需要者をして国際決済銀行と関係があるとの誤認を生ぜしめるおそれはないとの主張を行っていくことになろうかと思いますが、いずれにしても、そもそもそういった拒絶を受けるリスクがある、という点は押さえておきたいところです。
4条1項3号は、国際機関との関係性がない場合には該当しないという例外規定に加えて、本件商標が周知である場合にも該当しないという規定が加えられたことから、以前ほどは怖い不登録事由ではなくなりました。それでも、自社の業務に関係する分野における不登録事由は事前に知っておくに越したことはありません。これらはJ-PlatPatの不登録標章検索で確認することができますので、気になる方は、自社の業務に関連する分野の国際機関を表示する標章として、どういったものが大臣指定を受けているのか、ざっと見ておくのも良いかもしれませんね。
※本件記事の情報は、執筆時点で入手可能な法令・判例等に基づいて作成した一般的な解説です。最新の法令・判例と異なる場合や、個別の事案には必ずしも適合しない場合があります。具体的な対応が必要な場合は、弁理士にご相談いただくようお願いいたします。