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事例紹介
2025.08.15
テント用ペグ事件 [ 弁理士 服部 京子]
令和6年(ネ)第10067号 不正競争行為差止等請求控訴事件
判決文:https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-94234.pdf
原審:令和2年(ワ)第28384号(東京地裁)
判決文:https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-93417.pdf
添付文書1:https://www.courts.go.jp/tokyo/vc-files/tokyo/attachmentfile/attachmentfile-file-205296.pdf
(添付文書2~4については省略)
事件の概要
主にキャンプ用品、登山用品等の開発・製造・販売等を業とする原告(控訴人)の販売する原告商品の形態は周知な商品等形態であるとして、原告商品の形態と実質的に同一の被告商品を販売等して原告の商品と混同を生じさせた被告(被控訴人)(被告会社及びその代表者である個人)の行為は、不正競争防止法2条1項1号の不正競争に該当すると主張して、被告商品の製造等の差止めや損害賠償請求等を求めた事案です。
なお、原告(控訴人)は、原告商品について平成9年(1997年)5月30日に意匠に係る物品を「テント張設用ペグ」とする意匠登録を受け(意匠登録第990949号)ており、当該意匠権は、平成24年(2012年)5月30日に存続期間の満了により消滅しています。

争点1-1(原告商品の形態が控訴人の周知な商品等表示であるか)について
商品形態が商品等表示に該当するかについては、繰り返しとなりますが本事案における裁判所の判断を改めて紹介します(下線は筆者、以下同様)。
商品の形態は、その機能や美観を発揮させるために採用されるもので、原則として商品の出所を表示するものとしての性格を有しないが、①商品の形態が客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有し(特別顕著性)、かつ、②その形態が特定の事業者によって長期間独占的に使用され、又は極めて強力な宣伝広告や爆発的な販売実績等により、需要者においてその形態を有する商品が特定の事業者の出所を表示するものとして周知になっている場合(周知性)、商品の形態が特定の出所を表示する二次的意味を有するに至る場合がある。
なお、本事案は控訴審であるところ、控訴人は原告商品の特徴を原審における本件特徴2を基礎とする以下のものに修正しています。
①鍛造されたスチールが構成材料として選択されたテント・タープ用ペグであり、上方がやや太く、下方がそれに比べると細くなっている軸及び軸の上方側面に軸に沿って設けられたテント・タープのロープを引っ掛けるための板状の掛具部から構成されている。
②軸の頭部は、短い円柱形で軸の他の部分よりやや大きくなっている(以下「打撃部」という。)。
③軸の上方には、ロゴが記載されている。
④掛具部は、次の形態を有している
a ペグを地面から引き抜く際にハンマーのカギ部を引っ掛けるための穴が設けられている。
b テント・タープのロープを引っ掛けるためのフックが設けられている。
c 穴は、打撃部の斜め下に位置し、軸とフックの隙間部分の直上に位置する。また、穴は、掛具部の幅の半分以上を占め軸に接するように位置し、フックの上に及んでいる。
d フックの先端の長さは、掛具部全体の長さのほぼ半分か、それ以上であり(25〜40mm)、フックは軸と平行に直線的に伸びている。
e 掛具部の厚さは掛具部の設けられている部分の軸の直径よりやや薄く、横幅は当該軸の直径の1.5倍以上である。
f フックと軸との間の隙間は、フックの横にある会社名(ブランド名)のロゴの記載がある箇所の軸の直径とほぼ同じ比率であり、フックの先端の直径はこれよりやや小さい。
g 掛具部の上部は、フック穴に沿うように丸みを帯びている。
⑤鍛造スチールを構成素材に用いることで、硬く、重みがあり、金属の質感を有し、かつ、表面にざらつきがあることが外観的に看て取れる。
⑥上記①ないし⑤が組み合わされている。
控訴人は「本件特徴2⑤により、表面にざらつきがあることで、溶解された鉄が研磨されずに製品になったような無骨なイメージを需要者に与えること」(本件特徴的部分Ⅰ)、「本件特徴2①の軸部と本件特徴2④の掛具部により、真直ぐに伸びるくちばし (掛具部のフック)、首(フックと平行に伸びる軸)、目(掛具部の穴)からなるフラミンゴの頭部のような印象を需要者に与えること」(本件特徴的部分Ⅱ)の2つの点を特徴的部分として主張していますが、いずれも以下のとおり退けられています。
ペグの構成材料として鍛造スチールを用いることは、商品の用途を考慮した技術的合理性に基づくものであり、控訴人において独占できることではないのであるから、構成材料として鍛造スチールを用いることに由来するペグの形態上の属性は、原告商品の特別顕著性を基礎付けるものではない。
本件特徴的部分Ⅰに係る表面のざらつきについては、熱間鍛造において、熱した鉄を鍛造する際に、表面に薄い酸化鉄の層ができ、これが部分的に剥がれたり剥がれなかったりすることで、再加熱と加工を繰り返すうちに表面に独特の凸凹模様ができるものである(甲232)。表面のざらつきの点を含め、本件特徴2⑤は、いずれも、構成材料として鍛造スチールを用いることに由来するものであって、原告商品の特別顕著性を基礎付けるものではないというべきである。現に、本件特徴2⑤は、本件同種商品1ないし5、12、27、36、39がこれを備えている。
本件特徴的部分Ⅱは、本件特徴2①及び④が関わるものであるが、本件特徴2①のうち鍛造スチールを用いることに由来するペグの形態上の属性が原告商品の特別顕著性を基礎付けるものでないことは前記 (イ)のとおりである。また、上方がやや太く、下方がそれに比べると細くなっている軸及び軸の上方側面に軸に沿って設けられたテント・タープのロープを引っ掛けるための板状の掛具部から構成されているという点は、ペグという商品の機能に由来するもので、本件同種製品の全てがこれを備えている。
控訴人主張の本件特徴的部分は、技術的合理性又は商品の機能に由来するものであり、基準時において、本件特徴的部分の各要素を備える同種商品が多数に及んでいることから、本件特徴的部分が他の商品に見られない顕著な特徴に当たるものということはできず、控訴人が主張する本件形態2の他の特徴も同様であって、原告商品の形態が基準時において特別顕著性を有するとは認められない。
*本件特徴2④のa~gについても、いずれも技術的に限られた選択肢であることや金型やコストの面から合理的である等の判断がされ、本件同種商品の全て又は多くがこれらを備えていると判断されていますが、詳細は割愛しています。
原告商品は意匠登録を受けていましたが、存続期間満了から10年以上が経過しており、周知性についても以下のとおり判断されています。
原告商品の市場占有率が低下するとともに、これと形態的特徴を共通とする同種商品が展開されていること(前記(ア))、原告商品の宣伝広告も形態よりも機能に重点が置かれていること(前記(イ))、アンケートの結果によれば、原告商品の形態を見て、一般ユーザーにおける回答では控訴人としたものとコールマンとしたものが拮抗し、回答者を①最近3年以内に、テント、タープ及びペグのいずれかを購入した、かつ、②キャンプ、登山のどちらかに1年に1回以上行くとの二つの条件を満たす者に絞り込んでも、正答率は向上するものの、「控訴人又は原告商品」と答えた者の半数以上の者が「コールマン」と答えている上、全ての問いで「わからない」が第1位を占めていること(前記(ウ))が認められる。以上から、原告商品のような実用品では、ユーザーは商品形態というよりは、性能、ブランド名等で商品を選択していることが理解でき、原告商品の形態的特徴は同種商品の中で埋没しているもので、需要者において本件特徴的部分を有する原告商品が特定の事業者の出所を表示するものとして周知になっているとはいえないというべきである。
本事件においては、控訴人・被控訴人のいずれもがアンケート調査を行っているようですが、上記判断は控訴人によるアンケート結果についての判断です。これを見るにアンケート結果がマイナスに働いており、アンケート調査を行ったからといって、それを証拠として提出することが必ずしも有利に働くものではないことが分かります。
また、控訴人は原告商品について意匠登録を受けていたことから、原審においては意匠権が存続している間における市場独占状態についても主張・判断がされていましたが、この点については、損害賠償請求等の判断基準時について、最高裁判例を引用して「損害賠償請求については請求の対象である行為がされた時(本件では平成29年11月10日から令和2年11月9日までの期間)、差止請求については口頭弁論終結時に、当該商品の形態が上記の特別顕著性及び周知性を備えていることを要する」と判示するにとどまり、特に判断は示されておりません。
※本件記事の情報は、執筆時点で入手可能な法令・判例等に基づいて作成した一般的な解説です。最新の法令・判例と異なる場合や、個別の事案には必ずしも適合しない場合があります。具体的な対応が必要な場合は、弁理士にご相談いただくようお願いいたします。