TRADE MARK TOPICS 商標お役立ち情報
事例紹介
2025.08.17
不使用取消審判における「商標的使用」[弁理士 清水 三沙]
【審判番号】取消2024-300357
【審判請求日】令和6年6月4日
【確定日】令和7年4月25日
【請求人】竹内 大子
【被請求人】小林製薬株式会社
【審判請求対象商標(本件商標)】登録第5173809号「ピタッ」
【審判請求対象商品】第5類「ばんそうこう」他
本件は、被請求人が本件商標「ピタッ」を「「サカムケア」は、ひび・あかぎれ・さかむけをピタッ!と固める、ハケで塗る絆創膏。」「ハケで塗ってピタッと密着!」等の文章中で使用していたところ、当該使用が登録商標の使用にあたるかどうかが争われた事件です。
当審は、商標法第50条にいう「登録商標の使用」というには登録商標を自他商品識別機能を発揮する態様で使用することが必要であることを述べた上で、被請求人の使用「ピタッ」の文字の近くに表示された創傷のある指を表した図形と相まって、本件商標の使用は自他商品識別機能を発揮するものと認識されないことから、商標法第50条の「登録商標の使用」に該当しないと判断し、本件商標を審判対象商品について取消しました。
【当審の判断】
1 商標法第50条にいう「登録商標の使用」について
商標法上、商標の本質的機能は、自他商品又は役務の識別機能にあると解するのが相当であるから(商標法第3条)、同法第50条にいう「登録商標の使用」というためには、当該登録商標が商品又は役務の出所を表示し、自他商品又は役務を識別するものと取引者及び需要者において認識し得る態様で使用されることを要すると解するのが相当である(知的財産高等裁判所令和3年(行ケ)第10076号 同4年2月9日判決)。
2 被請求人が提出した証拠について
被請求人の主張及び同人が提出した証拠によれば、以下のとおりである。
インターネットアーカイブサービス「WayBack Machine」における本件ウェブページについて
インターネットアーカイブサービス「WayBack Machine」における本件ウェブページの最上部右側には、「APR/06/2024」と記載されており、同ウェブページには、商品の包装箱と考えられる写真に、「速乾 液体絆創膏」「サカムケアa」(「a」は右下に小さく表されている。以下同じ。)等の記載、包装容器と考えられる写真に、「サカムケアa」等の記載、その下方「そんな時はサカムケア」の項目中に、「「サカムケア」は、ひび・あかぎれ・さかむけをピタッ!と固める、ハケで塗る絆創膏。」等の記載がある。なお、上記包装箱及び包装容器と考えられる写真と同一の写真は、他に2か所、同本件ウェブページ中に表されている。
また、「サカムケアの使い方」の項目中に、「塗る時は・・・」の記載があり、その下方に、「ハケで塗ってピタッと密着!」の記載と共に指の創傷にハケを当てているような図形が表され、その右側には、「ピタッ」(「ッ」の右上には水しぶきのような図形が表されている。)の記載と共に創傷のある指を表した図形が表されている。
さらに、「サカムケアの特徴」の項目中に、「ピタッ」(「ッ」の右上には水しぶきのような図形が表さている。)の記載と共に創傷のある指を表した図形及び「ひび・あかぎれなどをピタッと固める!」等の記載がある。
加えて、上記本件ウェブページ最下部には、「小林製薬株式会社」の記載がある(乙1)。
3 上記2の認定事実によれば、以下のとおり判断できる。
(1)「ピタッ」の表示について
上記2のとおり、被請求人の提出した証拠方法(乙1)から、被請求人が、要証期間に、使用商品(「サカムケアa」)について、「ピタッ」の文字を3か所表示して、自社の本件ウェブページにおいて宣伝・広告したことはうかがえるものの、同ウェブページの記載によれば、当該各表示は、「ピタッと密着!」及び「ピタッ!と固める」の用例より、「隙間なく密着するさま。」の意味を有する副詞である「ぴたっと」(「広辞苑 第7版」株式会社岩波書店)における「ぴたっ」の部分を片仮名で表したものと認識させるというのが自然である。
してみれば、上記自社の本件ウェブページにおいて表示された「ピタッ」の文字は、近傍に表示された創傷のある指を表した図形と相まって、創傷に対して隙間なく密着し固定されるという、いずれも、商品の効能を表すものにすぎないというのが相当であるから、商品の出所を表示し、自他商品を識別するものと認識されるものとはいえない。
そうすると、当該各表示中の「ピタッ」の文字は、商標法第50条にいう「登録商標の使用」に該当しない。
(2)上記(1)のとおり、被請求人の提出した証拠によっては、使用商品について、本件商標と同一又は社会通念上同一の商標を使用したと認めることはできない。
その他、被請求人の主張及び同人が提出した全証拠をみても、要証期間に、商標権者、専用使用権者又は通常使用権者が、本件商標又は本件商標と社会通念上同一の商標を使用したことについて確認することができない。
上記のとおり、被請求人である商標権者はもとより、本件商標の商標権に係る専用使用権者又は通常使用権者が、要証期間に本件商標又は本件商標と社会通念上同一の商標を請求に係る指定商品に使用した事実を確認できないことから、商標法第2条第3項各号における本件商標の使用の行為を認めることができない。
4 むすび
以上のとおり、被請求人は、要証期間に日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれかが、請求に係る指定商品について、本件商標(社会通念上同一と認められる商標を含む。)を使用していた事実を証明したものと認めることはできない。
また、被請求人は、請求に係る指定商品について本件商標を使用していないことについて正当な理由があることも明らかにしていない。
したがって、本件商標の請求に係る指定商品についての登録は、商標法第50条の規定により、取り消すべきものである。
【コメント】
商標法第50条の「登録商標の使用」は「商標的使用」であることが必要か否か肯定説と否定説があり、裁判例においても分かれています。
あくまでも個人的な感覚ですが、不使用取消審判においては、登録商標の使用が商標的使用かどうかあまり検討されていないような印象があります。
本件においては「ピタッ」の語の識別力がもともと弱いことも大きく関係していると思いますが、「ピタッ」の文字の近くに表示された創傷のある指を表した図形と相俟って「ピタッ」の文字は商標の効能を表すものにすぎないと判断されました。
では、「ピタッ」の文字が「隙間なく密着するさま」の意味で使用されていると判断できるような図形がなかった場合(例1)、商品説明文中であっても「ピタッ」が鍵括弧でくくられている場合(例2)、商品説明文中であっても「ピタッ」の後ろに®マークが付与されている場合(例3)も同じように判断されるのでしょうか。
例1においては、図形の有無に関係なく、「ピタッ」の意味が商品の効能等を表すものとして特定できるのであれば、自他商品識別機能を発揮する態様とはいえず、50条の「登録商標の使用」とは言えないと考えます。
例2においては、登録商標から生じ得る観念や識別力も関係してくるとは思いますが、鍵括弧の有無のみでは判断は変わらないでしょう。
例3は判断に悩むところですが、®マークが付されており登録商標が普通名称化しているとまでは言えない状況においては、登録商標の自他商品識別力が強いとは言えない語であっても、特許庁は「登録商標の使用とは言えない」とは認定しにくいのではないかと考えます。
本件をきっかけに、登録商標の使い方を見直してもらえれば幸いです。
※本件記事の情報は、執筆時点で入手可能な法令・判例等に基づいて作成した一般的な解説です。最新の法令・判例と異なる場合や、個別の事案には必ずしも適合しない場合があります。具体的な対応が必要な場合は、弁理士にご相談いただくようお願いいたします。