TRADE MARK TOPICS

事例紹介

2023.04.15

中圧Bガス自動遮蔽弁事件 [弁理士 服部 京子]

中圧Bガス自動遮蔽弁事件  [弁理士 服部 京子]

令和4年(ワ)第4104号 不正競争行為差止等請求事件(東京地裁)

判決文:https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/854/091854_hanrei.pdf

事件の概要

 中圧Bを使用するボイラーやバーナーの自動遮断弁(中圧Bのガス遮断弁)を販売する原告が、被告が被告製品を製造又は販売する行為は、原告の周知な商品等表示と類似する商品等表示を使用するものであり、不正競争防止法2条1項1号の不正競争行為に該当するとして、被告製品の製造等の差止めや製造に用いられる金型・製造器具の廃棄を求めた事案です。

原告・被告製品について

都市ガスの供給圧力は圧力に応じて分類されており、中圧Bは大規模な商業施設や工場に用いられるものです。自動遮蔽弁は異常が検出された際にガスの流れを遮断するものであり、「遮断弁に不具合があるとボイラーの運転自体が不可能となるため、原告製品や被告製品に故障が生じた際には、製品を使用している工場や商業施設に多大な支障が生じるおそれがある」もので、「中圧Bのガス遮断弁の需要者であるガスボイラーメーカーやガスバーナーメーカーは、購入に当たって、製品の安全性・信頼性を重視しており、2ないし3年かけてテストを繰り返しながら慎重にガスバルブの採否を検討し、その検討のためには、製品内部の動作や構造についても詳細な情報を要求する」という実情があります。

裁判所の判断について

 商品の形態の商品等表示性については、①特別顕著性(他の同種商品とは異なる顕著な特徴)、及び、②周知性(その形態が特定の事業者の出所を表示するものとして広く知られていること)が必要であると解されています。この点について、裁判所はさらに以下のとおり説示しています(下線は筆者、以下同様)。

周知な商品等表示に化体された他人の営業上の信用を自己のものと誤認混同させて顧客を獲得する行為を防止するという同号の上記趣旨目的に鑑みると、商品の形態が、取引の際に出所表示機能を有するものではないと認められる場合には、特定の出所を表示するものとして特別顕著性又は周知性があるとはいえず、上記商品の形態は、不競法2条1項1号にいう商品等表示に該当しないと解するのが相当である

 本事件においては、この「取引の際に出所表示機能を有するか」という部分がポイントとなっており、以下の判断がされました。なお、認定事実についてはこの後に記載しておりますので、興味のある方はお読み下さい(読み飛ばして頂いても問題ないです)。

 本件製品の需要者は、約30社の専門業者に限られるのであり、当該専門業者は、長期間費やし製品をテストするなどして、専ら安全性、信頼性の観点から本件製品を購入していることが認められることからすると、需要者である本件製品の専門業者は、取引の際にそもそも製品の形態自体に着目して本件製品を購入するものとはいえない

 上記認定に係る本件製品の取引の実情に鑑みると、原告製品の形態は、一定程度の周知性があるとしても、出所表示機能を有するものではなく、不競法2条1項1号にいう商品等表示に該当しないと解するのが相当である。

 仮に、原告製品の形態が商品等表示に該当するという見解に立ったとしても、上記認定に係る本件製品の取引の実情を踏まえると、需要者である本件製品の専門業者は、長期間費やし製品をテストするなどして、専ら安全性、信頼性の観点から本件製品を購入しているのであるから、当該需要者において原告製品と被告製品の誤認混同が生じないことは、明らかである

認定事実

    1. 本件製品は、中圧B供給用ガス遮断弁であるところ、その国内における需要者は、ガスボイラーメーカーやガスバーナーメーカーの専門業者約30社に限られ、一般消費者が店頭において商品を見比べて購入するという性質の製品ではないこと
    2. 本件製品は、その性質上、高度の安全性が求められる製品であり、不具合があると、多大な損失が生ずる可能性があるため、需要者である専門業者は、購入に当たって、製品の安全性、信頼性を重視していること
    3. 現に、需要者は、2~3年かけてテストを繰り返しながら慎重に製品の採否を検討するのであり、その検討のためには、製品内部の動作や構造についても詳細な情報を要求するのが通例であること
    4. 被告製品自体、原告製品の機能やアフターサービスに対する需要者の要望を受けて、原告製品の互換品として開発されるに至ったものであること
    5. 被告製品の価格は、約50万円と高額であり、原告製品も同程度であると推認されること
    6. 原告自身、原告製品に関する宣伝広告に当たって、原告製品の形態上の特徴それ自体を強調しておらず、被告においても、被告製品の形態をセールスポイントとするものではないこと

 
 本事件において、原告製品は昭和60年から販売されており、原告の市場シェアは推定で100%近くを維持していると認定されており、上記判断においても「一定程度の周知性があるとしても」と周知性自体を完全に否定するものではありません。一方で、「取引の際に出所表示機能を有するか」というある意味当然に求められるであろう部分について改めて判断された事案でしたので、取り上げてみました。

お問合わせ