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事例紹介

2024.12.15

「収納容器」事件 [弁理士 德永 弥生]

「収納容器」事件 [弁理士 德永 弥生]

令和5年(行ケ)第10001号 審決取消請求事件https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/596/093596_hanrei.pdf
原告:八幡化成㈱/被告:㈱大創産業

■事件の概要 
 本件は、意匠に係る物品を「収納容器」とする意匠登録第1472070号の意匠権を有する原告が、被告による被告商品の販売等は原告意匠権を侵害すると主張して、被告商品の販売等の差止め及び廃棄を求めるとともに、損害金1440万3000円等の支払いを求めた事案です。

 裁判所は被告に対し、被告商品の製造・販売等の中止と被告商品の廃棄、原告への944万5358円等の支払いを命じました。

【本件登録意匠と被告製品(被告意匠との対比図)】

引用元:裁判所HP 知的財産 裁判例集 令和3(ワ)20229 添付文書https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail7?id=93596

 裁判所の判断

1.争点1(原告意匠と被告意匠の類否)について

 まず、両意匠の共通点が以下のとおり特定されました。

「ア 共通点
  原告意匠と被告意匠は、略楕円形状で小判型の底面とこれより大きい略楕円形状で小判型の上面とからなる中空の逆略楕円錐台形状の上面が開口された形状をなす収納容器本体と、その収納容器本体の長手方向の両端上部に対向して設けられた縄紐からなる一対の把手とから構成されるという基本的構成態様において共通している(基本的構成態様①)。

 また、両者は、具体的構成態様のうち、上記一対の把手は、二本の短い縄紐からなっており、収納容器本体の長手方向の両端上部の外周面に対向して穿設された左右一対の小さな透孔に太さのある縄紐の両端部を収納容器本体の外側からそれぞれ挿通し縄紐の各端部に大きな止め結びを形成している点、その止め結びの先の縄紐がほつれて末広がり状となっていて、その止め結びの存在が収納容器本体の上端の開口から見えるようになっている点、収納容器本体の外側に存在する縄紐がU字状に垂下して設けられている点(具体的構成態様③)、収納容器本体底面の長手方向両端の円弧状部には、その円弧の中央部とその両側に等間隔でそれぞれ三個の小さな突起が設けられている点(具体的構成態様⑤)において、共通する。」

 すなわち、収納容器本体の全体の形状と、縄紐からなる一対の把手の態様が共通するとされました。

 原告意匠の要部については、以下のとおり、全体の形状とその外形を特徴づける複数の部分の組み合わせが要部であると認定されました。

「ウ 原告意匠の要部・・・
 前記aないしcのとおり、原告意匠の基本的構成態様①の一部、具体的構成態様③、④及び⑥については、それぞれ類似する公知意匠が存在するとは認められるものの、それらの構成態様を全て兼ね備えた公知意匠は見当たらない

() まとめ
 以上のような意匠に係る物品の性質、用途及び使用態様並びに公知意匠の内容からすれば、原告意匠の収納容器全体の形状及びその外形を特徴付ける部分の形態である基本的構成態様①並びに具体的構成態様③、④及び⑥を組み合わせた部分がその要部であると認められる。」

 なお、差異点のうち対比図でもぱっと目に入る、収納容器本体の上辺の形状が異なっている点については、原告意匠の上辺を湾曲させているのは要部の一部ではあるものの、公知意匠にも見られる形状であるため、この部分のみをもって要部とするのは適当ではないとされました。

 そして、以下のとおり両意匠は類似すると判断されました。

() 以上のとおり、差異点1及び2は原告意匠が看者に起こさせる美感に決定的な影響を与えるものではないのに対し、要部の大部分において前記アの共通点がみられることからすれば、両意匠は、差異点が共通点を凌駕するものではないというべきである。

(5) 小括
 したがって、原告意匠と被告意匠は、全体として需要者に一致した印象を与えるものであって美感を共通にするといえるから、被告意匠は原告意匠に類似すると認められる。」

2.争点4(損害の発生及び額)について

(1)意匠法39条2項による損害額の算定
 意匠法39条2項に基づき、以下のとおり損害額が算定されました。

「前提事実(6)アのとおり、被告商品の日本国内における売上高(5981万3900円)から、被告商品の製造販売に直接関連して追加的に必要となった経費を控除した限界利益の額は●(省略)●である。
 したがって、この金額が、意匠法39条2項に基づき原告が受けた損害額と推定される。」

「・・・以上によれば、意匠権者と侵害者の業務態様等の相違(市場の非同一性)、被告の営業努力及び被告商品は原告意匠の一部のみを用いていることは推定の覆滅事由に該当するものといえ、被告商品の購買動機の形成に対する原告意匠の寄与割合は2割と認めるのが相当であるから、上記の限度で推定が覆滅される。

ウ 小括
 したがって、意匠法39条2項により算定される損害額は、●(省略)●(=●(省略)●×0.2)と認められる。」

(2)意匠法39条3項による損害額の算定
 さらに、意匠法39条3項(実施許諾の機会の喪失による損害)の適用可否が検討され、意匠権者と侵害者の業務態様等の相違(市場の非同一性)及び被告の営業努力に係る推定覆滅部分については、意匠法39条3項の適用があると解するのが相当とされ、意匠法39条3項に基づく損害額が算定されました。

「イ 登録意匠又はこれに類似する意匠の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額について
() 登録意匠又はこれに類似する意匠の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額を算定する際の基礎となる金額は、侵害行為に関する売上高であると解されるところ、前提事実(6)のとおり、被告商品は日本国内の売上高は5981万3900円であり、これに海外への輸出に係る売上高を追加した金額は6358万8100円である。

 そして、前記アのとおり、意匠権者と侵害者の業務態様等の相違(市場の非同一性)及び被告の営業努力に係る推定覆滅部分についてのみ、意匠法39条3項の適用があるところ、前記(1)()()及び()で説示した内容に加えて、原告意匠と被告意匠との差異点が美感に与える影響は限定的なものにとどまること(前記1(4)エ)などを総合考慮すると、上記の推定覆滅部分に相当する被告商品の売上高は、日本国内の売上高の7割に相当する部分と認められる。

 そうすると、本件において、上記の金銭の額を算定する際の基礎となる金額は、上記の日本国内の売上高に海外での売上高を加えた4564万3930円(=(5981万3900円×0.7)+(6358万8100円-5981万3900円))となる。」

() 次に、使用料率について、・・・株式会社帝国データバンク作成の「知的財産の価値評価を踏まえた特許等の活用の在り方に関する調査研究報告書~知的財産(資産)価値及びロイヤルティ料率に関する実態把握~」には、特許権に関する「個人用品または家庭用品」の使用料率(ロイヤリティ)の平均値は3.5パーセントであると記載されていることが認められる。

 この点について、上記の「個人用品または家庭用品」の使用料率(ロイヤリティ)の記載は特許権に関するものにすぎない・・・。

 他方で、意匠権侵害をした者に対して事後的に定められるべき実施に対し受けるべき使用料率は、通常の使用料率に比べて自ずと高額になるものと解される。

 以上の事情を総合考慮すると、本件において、登録意匠又はこれに類似する意匠の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額を算定する際の使用料率は、被告商品の売上高の3.5パーセントとするのが相当である。

() したがって、意匠法39条3項により算定される損害額は、159万7537円(=4564万3930円×0.035)と認められる。」

(3)まとめ
 意匠法39条2項で算定された金額と同条3項で算定された金額、さらに弁護士費用100万円をあわせた、合計944万5358円が、被告が原告意匠権を侵害したことによって原告に生じた損害額と判断されました。

以上

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