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豆知識
2025.03.17
商標Q&A 第18回 不使用取消審判とは何ですか?その2

Q: 前回教えていただいた不使用取消審判制度について、もう少し詳しく教えてください。登録商標を使用しているつもりでも、使用していないものと判断されて登録が取り消されてしまうことがあるのでしょうか。
A: はい、そういうことも起こり得ます。登録商標と全く同じ商標を使用していなくとも、社会通念上、登録商標と同じ(専門用語では、「同じ」という概念を「同一」といいます。)と認められる商標を使っていれば、その登録は取り消されません。逆にいえば、商標権者としては登録商標を使用しているつもりでも、実は、その使用している商標が登録している商標と社会通念上同一のものと認められなければ、登録が取り消されてしまうこともある、ということになります。今回はその部分を詳しくお話しましょう。
登録している商標と物理的に完全に一致している態様の商標を指定商品等について使用していれば、勿論、登録商標を使用していることになります。ただ、こういうケースは意外と稀で、ゴシック体で書された文字からなる商標を登録していながら実際には明朝体で書された文字からなる商標を使用していたり、標準文字として商標を登録していながら実際にはロゴ化した態様からなる商標を使用していたり…、ということは往々にしてあろうかと思います。そういった場合でも、基本的には、登録商標と使用商標とは社会通念上互いに同一のものと認められ、たとえ取消審判を請求されても、商標登録は取り消されません。
どのような商標同士であれば社会通念上同一であると判断されるか、ですが、法律上は「書体のみに変更を加えた同一の文字からなる商標、平仮名、片仮名及びローマ字の文字の表示を相互に変更するものであって同一の称呼及び観念を生ずる商標、外観において同視される図形からなる商標」(商標法38条5項かっこ書)が社会通念上同一と判断される商標の「例」として挙げられています(必ずしもこの例に一致していなくとも社会通念上同一と認められる場合はあり得ます)。つまり、同じ読み(称呼)であって、同じ意味(観念)の生ずる商標同士であれば、文字種(ひらがな、カタカナ、ローマ字)を変更しても同一と考えますよ、と規定されている訳です。例えば「LION」というローマ字で構成される登録商標を、「ライオン」というカタカナに置き換えて使用しても、両者からは『ライオン』という同じ称呼が生じ、また、「ライオン(獅子)」という共通の観念が生じますから、これらは社会通念上同一だね、とういことになります。
注意が必要なのは、一方に複数の観念が生じてしまうような場合です。例えば、「サン」という登録商標について、「SUN」というローマ字からなる商標を使用したとしましょう。SUNは「サン」と読む平易な英単語で、太陽を意味しますので、一見すると両商標は同じ読み&意味に思えますが、実はそうではありません。「サン」というカタカナからは、太陽の「SUN」に限らず、数字の「3」や、息子を意味する「SON」などの意味合いも出てしまいます。このように、両商標から生ずる意味(観念)がピッタリと共通せず、一対多になってしまっているような場合は、社会通念上同一の商標であるとは認められないおそれがあります。
また、商標を構成する文字や図形といった要素の「増減」にも注意が必要です。登録商標に何か他の要素を「加えて」使用する場合は、使用商標に登録商標が丸々含まれていますので、社会通念上同一であると判断されることが多いといえます(もちろん例外もあります)。例えば、登録商標が「いろは」である場合、これに普通名称を加えて、「いろは®チョコレート」としたり、これに品番を加えて「いろは® a001」としたり、これに図形を加えて「🌙 いろは®」としたり…、これらのように何らかの要素を「加えた」態様からなる使用商標は、一般的には登録商標と社会通念上同一である、と判断されることが多いといえます。
一方、登録商標に含まれている要素を「省いて」使用する場合は、注意が必要です。例えば、登録商標が「いろは チョコ」であって指定商品が「チョコレート」である場合、「チョコ」の文字要素の識別力は極めて弱いといえますが、ここから「チョコ」の文字要素を「省いて」、単に「いろは」の文字のみを使用していると、社会通念上同一の商標を使用していないと判断されるおそれが高くなります。また、同様に登録商標が図形と文字からなる「🐾 いろは」であるような場合に、一方の要素を「省いて」、図形要素である「🐾」のみを使用したり、文字要素である「いろは」のみを使用したりするような場合は、やはり社会通念上同一の商標を使用していないと判断されてしまいます。
ちなみに、要素の配置を変更するような場合は、一般的には社会通念上同一であると判断されます。例えば、上段と下段にそれぞれ図形と文字の要素を2段に配した「🐾\いろは」という態様からなる商標について、実際の使用態様は、これらの要素を横に並べた「🐾 いろは」であるような場合、当該使用商標については、登録商標と社会通念上同一のものと判断されることになります。
他には、登録商標が上下二段にローマ字とカタカナを配した態様(いわゆる「二段書き商標」といわれるものです)からなる場合、そのうち一方の文字要素のみを使用した場合はどう判断されるのか、とか、登録商標が特殊書体で書された文字要素から構成される場合に普通書体で文字要素を使用した場合はどう判断されるのか、など、まだまだ悩ましい点が多いのですが、あまり深く掘り下げてしまうと余計に混乱させてしまうでしょうから、今回のところはここまでにしておきましょう。
「登録商標はこれなんだけど、こういう使い方をしていても大丈夫かな?」などと不安に感じられる方は、どうぞお気軽に弊所までお問い合わせください。社会通念上同一の商標に該当するかどうか(つまり、不使用取消審判に対するリスクがないといえるかどうか)、すぐに判断してアドバイスさせていただきます。