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事例紹介
2024.11.15
「Sushi Zanmai」事件 [弁理士 清水 三沙]
![「Sushi Zanmai」事件 [弁理士 清水 三沙]](https://totomomo.jp/wpapp/wp-content/uploads/2023/05/豆知識リースポジ.jpg)
令和3年(ワ)第11358号 不正競争行為差止等請求事件(東京地方裁判所)
判決文:https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/924/092924_hanrei.pdf
判決言渡日:令和6年3月19日
原告:株式会社喜代村
被告:ダイショージャパン株式会社
インターネットで世界中に情報を発信できる便利な世の中になりましたが、一方で「ウェブサイトを閲覧できるすべての国での商標登録が必要なのか」「どういう場合に他国での商標的使用に該当するのか」という新たな問題が出てきました。
今月紹介する「Sushi Zanmai」事件は、マレーシアで展開する飲食店の日本向けの広告が、日本の登録商標の商標権侵害に該当すると判断された事件です。
〔事件の概要〕
被告は、被告のウェブサイトで、被告の関連会社であるスーパースシがマレーシアで展開する寿司店に関するものとして被告各表示を掲載していました。
原告は、当該表示が原告の日本における登録商標「すしざんまい/SUSHI ZANMAI」(ロゴ)等の商標権侵害に当たるとして、被告ウェブサイトにおける被告表示の削除等を求めました。
本件では、被告表示がマレーシアにおけるすし店に関連するものであったため、当該広告の使用が日本の登録商標の使用に該当するかどうかが争われました。
〇原告登録商標1(登録第5003675号、第43類「すしを主とする飲食物の提供」他)
〇原告登録商標2(登録第5511447号、第43類「すしを主とする飲食物の提供」他)
「すしざんまい」(標準文字)
〇原告登録商標3(登録第5758937号、第43類「すし・丼物を主とする飲食物の提供」他)
「SUSHI ZANMAI」(標準文字)
〇被告表示1「Sushi Zanmai」
〇被告表示2
〔裁判所の判断〕
⑵ 争点1-2(原告各商標の指定役務と被告各表示に係る役務の類否)及び争点1-3(被告が被告各表示を「使用」(商標法2条3項)したといえるか)について
ア 本件各掲載行為のうち本件各ウェブページに被告各表示を掲載した行為について
(ア)前提事実⑴イ及びウ、⑷ア、証拠(甲4、23ないし25)並びに弁論の全趣旨によれば、原告各商標の指定役務は「すしを主とする飲食物の提供」であること、被告は、魚介類及び水産加工品の輸出入等の事業を行う株式会社であり、日本での食材の仕入れ及び東南アジアのダイショーグループ各社への輸出を行っていること、ダイショーグループは、シンガポール・マレーシア・インドネシアなどで「寿司」、「和食レストラン」などの店舗を展開していること、本件各ウェブページは、日本語によって記載された主に日本国内の取引者及び需要者に向けたウェブページであり、被告が管理していること、本件各ウェブページには、スーパースシが展開する本件すし店に関するものとして被告各表示が掲載されており、被告各表示とともに「手頃な価格で幅広い客層が楽しめる回転寿司。厳選した食材と豊富なメニューで、人気を集めています。」との説明が掲載されていることが認められる。
このような事情からすれば、本件各ウェブページにおける被告各表示は、すしを主とする飲食物の提供を行う本件すし店を紹介するために掲載されたものであり、「すしを主とする飲食物の提供」と類似の役務に係るものといえるから、原告各商標の指定役務と被告各表示に係る役務とは類似するものといえる。
そして、被告が本件各ウェブページに被告各表示を掲載した行為は、「役務に関する広告…を内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為」(商標法2条3項8号)に該当するといえ、被告は原告各商標を「使用」したものと認められる。
(イ)被告の主張について
被告は、被告各表示はスーパースシがマレーシアにおいて展開する本件すし店に関するものにすぎず、被告自身は「すしを主とする飲食物の提供」を行っていないことなどから、被告各表示に係る役務は、原告各商標の指定役務である「すしを主とする飲食物の提供」とは類似しておらず、また、被告が原告各商標を「使用」したとはいえないと主張する。
そこで検討すると、商標法は、「商標を保護することにより、商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り、もつて産業の発達に寄与し、あわせて需要者の利益を保護することを目的とする」と定めており、この目的を達成するため、商標は、標章をある者の商品又は役務に付することにより、その商品又は役務の出所を表示する機能(出所表示機能)や、取引者及び需要者が同一の商標の付された商品又は役務には同一の品質を期待しており、商標がその期待に応える作用をする機能(品質保証機能)を有するものと解される。本件においては、前記で説示したとおり、本件各ウェブページは主に日本国内の取引者及び需要者に向けたウェブページであり、かつ、被告各表示は「すしを主とする飲食物の提供」という役務に係るものといえるから、被告各表示がマレーシアの本件すし店に係るものであったとしても、本件各ウェブページに被告各表示を掲載した行為は、日本における原告各商標の出所表示機能及び品質保証機能を害し、ひいては、上記の商標法の目的にも反するものであるといえる。
そして、被告各表示が被告自身の事業に関するものではなかったとしても、本件各ウェブページに被告各表示を掲載した行為は被告が行ったものと認められ、上記のとおり、そのような被告の行為によって日本における原告各商標の出所表示機能及び品質保持機能が害されている以上、被告が原告各商標を「使用」していないと評価することはできない。
そうだとすれば、被告の上記主張はいずれも役務の類否や使用行為の有無を左右するものではないというべきである。
〔コメント〕
本件では、被告表示が使用されたウェブページが日本語によって記載された主に日本国内の取引者及び需要者に向けたものであり、日本における原告各商標の出所表示機能等を害することから、原告各商標の使用に該当すると判断されました。
WIPOの「インターネット上の商標及びその他の標識に係る工業所有権の保護に関する共同勧告」では「(1)インターネット上における標識の使用を特定国における使用と認めるか否かについては、「商業的効果(commercial effect)」の有無によって判断する。」と述べられており、商業的効果を決定するための要因として、「その使用者が、実際にそのメンバー国に所在する顧客に提供しているか否か、又はそのメンバー国に所在する者と他の商業的に動機付けられた関係を結んでいるか否か」「その使用者が、インターネットを通じては行われないが、インターネット上の標識の使用に関係する更なる商業的活動をそのメンバー 国において行っているか否か。」「その標識の使用と共に使用されている文言が、そのメンバー国で主に使用されている言語によるものか否か」など複数の要因が挙げられています。
本件はマレーシアにある寿司店の広告であることから、日本でサービスを提供しているわけではありません。また、本件は飲食店なので、現地に足を運ばなければお金のやり取りは行われません。
そのような観点から考えると商標的効果が生じているとはいえず商標権侵害に該当すると判断されてもよい事件なのか悩みますが、「原告と被告の間に出所の混同が生じているのか(もしくは、出所の混同を生じるおそれがあるのか)」という観点から考えれば、出所の混同を生じていると考えることができ、商標権侵害に該当すると判断されても仕方がないケースなのかなと思います。
すっきりしない事件ではありますが、インターネット上における商標の使用においては言語と誰をターゲットにしているのかという観点が判断要素になるということが読み取れる判決であり、越境ECのようなインターネット上での国を超えた商標的使用における判断が少ない中で今後の参考になる事件と思われます。