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事例紹介

2024.10.15

小売等役務に係る不使用取消審判請求事件 [弁理士 清水 三沙]

小売等役務に係る不使用取消審判請求事件 [弁理士 清水 三沙]

【審判番号】取消2023-300198
【審判請求日】令和5年3月23日
【確定日】令和6年6月24日
【請求人】トラーネ アンド トラーネ アー/エス
【被請求人】三浦 静加
【本件商標】商標登録第5397108号

 

 

 

 

 

 

第35類「電気通信機械器具の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,携帯電話機ストラップの小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」他

 本件審判は、第35類の「電気通信機械器具の小売等役務」が取消対象の役務となったものです。被請求人は本件商標と社会通念上同一の商標を使用していたものの、提出した使用証拠が本件商標と社会通念上同一の商標が付された手帳型スマートフォンケース及びスマートフォン用ストラップの写真であり、当該使用が「電気通信機械器具の小売等役務」の使用に該当するかどうかが争われました。

 審判では「電気通信機械器具の小売等役務」の使用とはいえないと判断されましたが、判断にあたり、どのような行為が小売等役務のサービスに該当するかを述べた上で本件におけるあてはめを行っており、小売等役務における商標の使用について参考になる事件です。

【当審の判断】
2(3)使用役務について
ウ 「手帳型スマートフォンケース」及び「スマートフォン用ストラップ」の販売が、請求に係る指定役務「電気通信機械器具の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,携帯電話機ストラップの小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」に該当するか否かについて

(ア)小売等役務について
 商標法において保護対象となっている「小売等役務」とは、商品の品揃え、陳列、接客サービス等といった最終的に商品の販売により収益をあげる小売業者等の提供する総合的なサービス活動全体を一括りにして一つの小売等役務として保護されるものであるが、これらのサービスは、小売等の業務において商品販売に付随したサービスであることに変わりはなく、個々のサービス活動を独立したものとして個別に商標法上の役務として取り扱うものではない。

(イ)小売等役務の構成要素と考えられる商品の小売において小売業者が顧客に対して行う個々のサービス活動の代表的なものとしては、以下のようなものが挙げられる。

a 商品の品揃え
顧客が広い商品範囲から気に入った商品を選択できるように、様々な商品を揃えるものである。

b 商品の陳列
商品の陳列には、店舗内における顧客の同然を考慮した上で、工夫された売り場の配置により、顧客の商品選択の便宜をはかる場合なども含まれるものである。

c 接客サービス
商品購入の際の店員による商品の説明や助言等である。

d 接客する店員の制服・制帽・名札

e ショッピングカート・買い物かごの提供

f 商品の包装・紙袋・レジ袋の提供

(ウ)渋谷モディのセーラーズ50周年記念ポップアップショップにおける「手帳型スマートフォンケース」及び「スマートフォン用ストラップ」の販売が、請求に係る指定役務に該当するか否かについて、前記(イ)aないしfの観点から検討する。

a 商品「手帳型スマートフォンケース」及び「スマートフォン用ストラップ」の品揃え
 被請求人提出の証拠によれば、被請求人が取り扱うのは、それぞれ1種類の「手帳型スマートフォンケース」及び「スマートフォン用ストラップ」のみであり、顧客が広い範囲の「スマートフォンケース」や「スマートフォン用ストラップ」から気に入った商品を選択できるように、様々な「スマートフォンケース」や「スマートフォン用ストラップ」を揃えているということはできない

b 商品「手帳型スマートフォンケース」及び「スマートフォン用ストラップ」の陳列
 被請求人提出の証拠からは、商品「手帳型スマートフォンケース」及び「スマートフォン用ストラップ」が陳列されている状況を確認できない。

c 接客サービス
 被請求人提出の証拠からは、商品「手帳型スマートフォンケース」及び「スマートフォン用ストラップ」の購入の際の店員による商品の説明や助言等がされていることを確認できない。

d 接客する店員の制服・制帽・名札
 被請求人提出の証拠からは、商品「手帳型スマートフォンケース」及び「スマートフォン用ストラップ」の販売において、制服等を着用した店員の存在を確認できない。

e ショッピングカート・買い物かごの提供
 被請求人提出の証拠からは、商品「手帳型スマートフォンケース」及び「スマートフォン用ストラップ」の販売において、ショッピングカートや買い物かごの提供がされていることは確認できない。

f 商品「手帳型スマートフォンケース」及び「スマートフォン用ストラップ」の包装・紙袋・レジ袋の提供
 被請求人提出の証拠からは、商品「手帳型スマートフォンケース」及び「スマートフォン用ストラップ」の販売において、商品「手帳型スマートフォンケース」及び「スマートフォン用ストラップ」の包装・紙袋・レジ袋の提供がされていることは確認できない。

 以上よりすれば、渋谷モディのセーラーズ50周年記念ポップアップショップにおける「手帳型スマートフォンケース」及び「スマートフォン用ストラップ」の販売においては、小売等役務の構成要素と考えられる商品「手帳型スマートフォンケース」及び「スマートフォン用ストラップ」の小売において小売業者が顧客に対して行う個々のサービス活動のいずれにも該当するものが見いだせず、商品「手帳型スマートフォンケース」及び「スマートフォン用ストラップ」について、品揃え、陳列、接客サービス等を総合的に行っていたとはいい難いものである

 そして、使用商標1及び使用商標2は、商品「手帳型スマートフォンケース」及び「スマートフォン用ストラップ」に直接印刷するような商標の表示態様であるといえ、商品が流通に置かれてから事後的に小売業者等が表示したものとして認識されるとは考え難く、商品に係る商標としてのみ認識されるものというべきである。

 さらに、被請求人が主張する商標法第2条第3項第3号は、「役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物(譲渡し、又は貸し渡す物を含む。)に標章を付する行為」と規定しているところ、例えば、次のような物品 g 店舗内の販売場所の案内板(各階の売り場の案内板)h 店内で提供されるショッピングカート・買い物かご i 陳列棚 j ショーケース k 接客する店員の制服・制帽・名札 l 包装紙、買い物袋、に標章を付する行為が該当することになるところ、これに該当する使用も見いだせない。

(4)小括
 以上よりすれば、被請求人の提出に係る全証拠を検討しても、本件要証期間内に、商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれかが、本件商標(社会通念上同一と認められるものを含む。以下同じ。)を請求に係る指定役務について商標法第2条第3項各号のいずれかに該当する使用をしたことを認めるに足りない。

〔コメント〕
 審決で述べられている小売等役務のサービスは実店舗で小売等役務を提供する際の使用を想定して述べられたものと言えますが、近年は実店舗よりもオンラインショップで小売等役務を提供するケースが多いのではないかと思います。

 オンラインショップでの小売等役務の商標の使用を立証するためには、「a商品の品揃え」「b商品の陳列」については、カテゴリー名のもとに、複数社の商品が掲載されている商品一覧ページの写しを使用証拠として提出することが考えられます。

 また、商品説明等を行っている個々の商品ページの写しも提出します。

 オンラインでは「c.接客サービス」「d 接客する店員の制服・制帽・名札」「e ショッピングカート・買い物かごの提供」に相当するものを立証するのは難しいですが、「f 商品の包装・紙袋・レジ袋の提供」については、商品発送時の包装に商標を使用している証拠等が考えられます。

 また、商標権者が運営しているオンラインショップであることを立証するために特定商取引法に基づく表記のページも必須になります。そのため、事業者名と商標権者が一致している場合は問題がないのですが、一致しない場合は事業者と商標権者との関係を示す証拠(例えば、使用許諾契約書)が必要となりますのでご注意ください。

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