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豆知識
2024.11.15
商標Q&A 第14回 国際登録の留意点
Q: 国際登録(マドプロ)の特徴や留意点について教えてください。
A: 前回は各国別に直接行う商標出願と、WIPOの国際事務局を介して行う国際登録(マドプロ)の違いについて説明を行いました。今回は国際登録(マドプロ)にフォーカスして留意点などをみていくことにしましょう。
まず、国際登録の大きな特徴として、本国官庁(日本企業の場合は日本の特許庁)において基礎となる商標が出願/登録されている必要があります。日本において出願/登録しておらず、海外でしか使用しないような商標については、いきなり国際登録を行うことができません。まずは日本で出願した後、その商標出願をベースとして国際登録を行う必要があります。
また、もう一つの特徴&留意点として、国際登録は本国における基礎出願/基礎登録に5年間「従属」する、というルールがあります。簡単にいえば、国際登録の日から5年間は本国における基礎出願/登録に紐づいている状態(一蓮托生の状態)にある、ということになります。例えば、国際登録の日から5年以内に、日本の基礎登録が更新されずに満了消滅してしまった場合は、それに引きずられて国際登録も消滅してしまいますし、日本の基礎出願の審査において特定の商品を削除する手続補正を行った場合は国際登録もこれに紐づいて当該商品が削除されてしまいます。
また、第三者から基礎出願/基礎登録に攻撃を受ける場合もありますので要注意です。さきほど、日本で使用しておらず海外でしか使用しない商標の場合は、まずは日本で基礎となる商標出願/登録が必要と書きましたが、日本で基礎商標が不使用状態にあると、3年が経過した時点で不使用取消審判により取り消されるリスクがでてきます。日本の基礎商標が不使用を理由に取り消された場合であって、これに従属している国際登録が未だ国際登録日から5年を経過していないような場合は、国際登録も日本商標とともに消滅することとなります。無効審判などを請求されて本国商標の登録が無効となったような場合も同様のことがいえます。
このように、国際登録の従属性によって基礎出願/登録の消滅とともに国際登録の効果も失われてしまうことを「セントラルアタック」と呼んでいます。特に、日本出願の登録を待たずに(出願を基礎として)国際登録したような場合や(日本出願が拒絶査定となると国際登録も消滅する)、海外でしか使用しない商標に関する国際登録の場合(日本登録が不使用を理由に取り消されると国際登録も消滅する)には要注意です。
次に、国際登録は現地の代理人を介さずに手続を行えるのがメリットでもありデメリットでもあります。メリットとしては現地代理人に依頼することなく権利化を図れることからコストを抑えることができますが、デメリットとしては、出願に際して現地代理人からアドバイスを受けることができないという点が挙げられます。例えば、少々特殊な商品や役務の場合、直接出願の場合は現地代理人にどういう商品/役務であるかを説明すると、その国において適した区分と商品/役務の表現を提案してくれますが、国際登録の場合は日本の出願人(代理人)が英語表現を考えて出願するため、特殊な商品等である場合、指定国によっては商品等が不明確であるとの拒絶理由を受けたり、最悪の場合、欲しい商品等について権利が取れていなかった(間違った区分や表現で権利化してしまっている)、ということも生じ得てしまいます。また、国際登録において特定の国から暫定拒絶通報を受けてしまった場合、そこから期日が来る前に、当該国における代理人を選定し、その代理人に拒絶理由通知を見せて見積をもらい、コメントを取得し、対応を検討する…というプロセスを急いでとらなければなりませんが、直接出願であれば、現地の代理人から、拒絶理由がなされた旨の報告と、対応する場合の費用や克服可能性などが送られてきますので、拒絶対応を焦らずスムーズに行うことができます。
また、現地代理人を介さずに国際登録を行うデメリットとして、各国における「商品や役務の概念の違い」というものが挙げられます。たとえば、日本において帽子を販売している会社が、日本では「帽子」という商品は「被服」の概念に属するため、「被服」を指定して商標登録をしているとしましょう。これを海外出願するに際して、基礎登録における「被服」を直訳して「clothing」で国際登録を行うとどうなるでしょう。海外では必ずしもclothingの中に帽子「headgear」が含まれているとは限りません。国際登録をして安心していたら、実はどの国においても帽子について権利が取れていなかった…という怖いこともあり得ます。この場合、直接出願であれば、現地代理人に「帽子について登録したいんだけど」というように指示をだすと、漏れなく適切に指定商品を記載して出願してくれます。もちろん国際登録でも指定商品をheadgear等にしておくことでこの問題はクリアできるのですが、海外出願に慣れていない出願人・代理人は要注意ポイントになります。
加えて、国際登録は未だマドリッドプロトコル議定書に加盟していない国には手続ができません。そのため、国際登録をしたくてもできない国がどうしても出てきてしまい、そういう場合は直接出願で対応せざるを得ません。また、新たに加盟した国の中には、加盟日前の国際登録からの事後指定(既にある国際登録に指定国を追加する手続)を認めないとする国もありますので、その点も留意が必要です。
このように色々と国際登録の留意点を述べてきましたが、これらのデメリットを踏まえたとしても、国際登録には多くのメリットがあります(特にコスト面・管理面において)。事案によって国際登録が適している場合とそうでない場合がありますので、悩ましい場合はお気軽に弊所へご相談くださいませ。