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事例紹介

2024.04.15

生ごみ処理機事件 [弁理士 服部 京子]

生ごみ処理機事件 [弁理士 服部 京子]

令和4年(ワ)第2551号 損害賠償請求事件(東京地裁)
判決文:https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/506/092506_hanrei.pdf

事件の概要
 生ごみ処理機を販売する原告が、被告のウェブサイトにおける被告の販売する業務用生ごみ処理機に係る表示が、その品質について誤認させるような表示であり、このような表示をする行為は不正競争行為(2条1項20号)に該当し、原告の業務上の利益が侵害されたとして損害賠償を求めた事案です。

 なお、被告はもともと原告商品の販売代理店として原告商品「ゴミサー」を販売していましたが、販売代理店契約の終了に伴い原告の商品の販売を停止し、他社の製造する業務用生ごみ処理機「イーキューブ」を「ゴミサー」の名称で販売していました(被告商品)。

*「ゴミサー」はもともと原告が商標登録していましたが、更新手続がされず権利消滅しています。その後、被告が「ゴミサー」について商標登録しており、現在の権利者は被告です。この登録についても争いがあるようですがここでは割愛します。

被告ウェブページの表示
 被告は、原告との販売代理店契約の終了後も被告の販売する製品の紹介等として以下の表示を用いていました(表は判決文より筆者がまとめたもの)。

不正競争防止法2条1項20号:

商品若しくは役務若しくはその広告若しくは取引に用いる書類若しくは通信にその商品の原産地、品質、内容、製造方法、用途若しくは数量若しくはその役務の質、内容、用途若しくは数量について誤認させるような表示をし、又はその表示をした商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供し、若しくはその表示をして役務を提供する行為

争点1:品質誤認表示該当性について
 不正競争防止法には不正競争行為が限定列挙されており、品質などの誤認惹起行為も不正競争行為の一類型として2条1項20号に規定されています。当該規定に関して裁判所は以下のとおり述べています(下線は筆者、以下同様)。

 不正競争防止法2条1項20号の誤認惹起行為が不正競争に該当し違法とされるのは、事業者が商品等の品質、内容などを偽り、又は誤認を与えるような表示を行って、需要者の需要を不当に喚起した場合、このような事業者は適正な表示を行う事業者より競争上優位に立つことになる一方、適正な表示を行う事業者は顧客を奪われ、公正な競争秩序を阻害することになるからである。

 このような趣旨に照らすと、「品質」について「誤認させるような表示」に該当するか否かを判断するに当たっては、需要者を基準として商品の品質についての誤認を生ぜしめることにより、商品を購入するか否かの合理的な判断を誤らせる可能性の有無を検討するのが相当である。

 これを踏まえた上で、裁判所は主に導入実績等の表示について判断をしています。まず、上記表中の本件誤認惹起表示①についての判断は以下のとおりです。

前提事実(5)エによれば、被告が令和元年5月8日以降販売している被告商品の過去の累計販売数は2300台に達するものではないことが認められ(―中略―)ずれも、実際の販売実績とは異なるにもかかわらず、多数の被告商品が販売されており、このような販売実績は、被告商品のごみ処理方法及びその性能が他の同種商品に比べて優れたものであることに起因することを強調するものであって、その結果、需要者に対し、被告商品がその品質において優れた商品であるとの権威付けがされ、また、他の需要者も購入しているという安心感を与えることになるため、需要者が商品を購入するか否かの合理的な判断を誤らせる可能性があるというべきである。そうすると、本件誤認惹起表示①は、「品質」について「誤認させるような表示」に該当すると認められる。

*判決文によると、被告による原告商品の累計販売実績は合計956台、被告商品の累計販売実績は令和5年4月まで258台。

 また、上記表中の本件誤認惹起表示②及び③についても同様の理由で

「「品質」について「誤認させるような表示」に該当すると認められる。」

と判断しています。

 なお、被告は
「販売実績の違いは、商品の品質の違いを推認するものにすぎず、原告商品及び被告商品の間に、性能及び機能における違いがない本件においては、原告商品と被告商品の品質の違いが推認されるものではない」
と主張していますが、以下のとおりこの主張は退けられています。

不正競争防止法2条1項20号の誤認惹起行為が不正競争に該当し違法とされる趣旨に照らすと、客観的な性能及び機能における違いがないとしても、前記(2)のとおり、本件誤認惹起表示①ないし③は、いずれも、販売実績について事実と異なる表示をするとともに、同販売実績が品質の優位性に起因するものであるとの表示をすることによって、そのような販売実績をもたらす「品質」であるとの誤解を需要者に与え、その結果、公正な競争秩序を阻害するものである以上、同号の「品質」について「誤認させるような表示」に該当すると認めるのが相当である。

 なお、本件においては被告の故意の有無についても争点となっていましたが、本件誤認惹起表示①は原告商品に関するものであり、被告商品に関するものではないことを認識しつつも掲載を続け、文言や販売台数を若干変更したほぼ同内容の本件誤認惹起表示②及び③を掲載していることから、故意についても認定されています。

 また、本事案において、原告は損害賠償請求も行っているところ、販売の対象物が同種であり市場の共通性も考慮され、被告の競業行為がなければ原告に利益が得られたであろう事情があるとして、被告の限界利益である1億2368万8021円が原告の損害額と推定され、相当因果関係のある弁護士費用は1236万円と認められました。ただし、原告はその一部のみを請求していることから、認容された損害賠償額は原告の請求に係る9164万3940円(及び遅延損害金)です。

 今回は普段あまり取り上げていない誤認惹起行為の裁判例をご紹介しました。原告と被告が販売代理店契約を結んでいたことや被告が原告の表示や写真を用いていたことなども影響していると思いますが、販売実績の表示についても「品質」に該当し得るとの判断がされていることがポイントになると思います。上述のとおり原告は「ゴミサー」の商標登録を有していないため商標での対抗ができず、周知著名性立証のハードルなどから2条1項1号や2号での申立てが難しかったため、20号での請求となったのではないかと考えます。

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