TRADE MARK TOPICS 商標お役立ち情報
事例紹介
2025.09.15
「キリンフーズ」無効審判審決取消請求事件 [ 弁理士 清水 三沙]
令和6年(行ケ)第10107号 審決取消請求事件
判決文:https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-94198.pdf
判決言渡日:令和7年2月6日
原告:キリンホールディングス株式会社(無効審判請求人)
被告:キリンフーズ株式会社(無効審判被請求人)
原告は、本件商標と引用商標「KIRIN」「麒麟」「キリン」は類似であること(商標法第4条1項第11号該当)及び本件商標は著名な引用商標と出所の混同を生じるおそれがあること(商標法第4条第1項第15号)を理由として、本件商標に対し無効審判を請求しました。
しかしながら、無効審判では、「キリンフーズ」の「フーズ」が「食品」の意味を有するものとしても、本件商標の「キリンフーズ」の文字部分は同じ書体、同じ大きさ、同じ色彩で一体的にまとまりよく表され、称呼も無理なく一連に称呼し得るものであり、かかる構成において「フーズ」の文字が特定の商品又は商品の品質を具体的に表示するものとして直ちに理解できるものとはいえないから本件商標の文字部分は一体で把握される造語であるというのが相当であること、及び本件商標の図形部分と文字部分は「麒麟」の漠然とした印象を連想させるため図形部分と文字部分は関連性があり、図形部分と文字部分は一体として看取されるものであるとして、本件商標と引用商標は非類似であると判断しました。また、商標法第4条第1項第15号該当性も否定し、無効審判の請求を棄却しました。
そこで、無効審判の審決取消を求めたのが本件です。
裁判所は、本件商標の図形部分と文字部分とは、相互に重なり合う部分もなく、上下に明確に分かれていること、文字部分の横幅は、図形部分の横幅とほぼ同じであって、文字部分が図形部分に埋没した印象を与えることもなく、「キリンフーズ」の文字が明瞭に認識できる大きさであることから、両者は視覚的に分離して看取されるものであると判断したうえで、本件商標の文字部分「キリンフーズ」の「フーズ」は指定商品との関係で識別力が弱いこと、及び企業名の後ろに「フーズ」を付して食品会社であることを示す例があり、著名な企業名が「フーズ」の前に冠されている実情からも「キリン」を要部として抽出することができるとし、本件商標と引用商標は類似すると判断しました。その結果、本件商標登録の無効を認めました。
〔裁判所の判断〕
1 取消事由1(商標法4条1項11号に関する認定判断の誤り)について
⑵ 本件商標の構成等
ア 外観
本件商標の構成は、前記第2の1⑴のとおりであり、上段に細い円で描かれた枠の中に、長い2本のひげを生やし、風になびく長い鬣(たてがみ)、細い目、長い口を有する細長い顔と、四足動物のような体を有する動物の一部分を、雲の上を駆けるような構図で描いた特徴のある図形(以下「図形部分」という場合がある。)と、そのすぐ下に、図形部分の輪郭の左右の幅に合わせて、「キリンフーズ」の片仮名文字を一連に配して(以下「文字部分」という場合がある。)、全体として同色をもって表されるものである。
本件商標の構成中の文字部分は、上記のとおり「キリンフーズ」と一連に表記してなるものであるところ、このうち「キリン」の部分は、「きりん【麒麟】①中国で聖人の出る前に現れるという想像上の動物。形は鹿に似て大きく、尾は牛に、蹄は馬に似、背毛は五彩で毛は黄色。頭上に肉に包まれた角がある。・・・③ウシ目(偶蹄類)キリン科の哺乳類」の意味を有する語であり、「フーズ」の部分は、食品を意味する英語である「foods」を片仮名表記したものである(広辞苑第7版。甲16)。
本件商標の構成中の図形部分は、その下の文字部分の高さや全体の幅からすると、本件商標の全体構成において5分の4ほどを占める大きさで表されているが、本件商標の図形部分と文字部分とは、相互に重なり合う部分もなく、上下に明確に分かれていること、文字部分の横幅は、図形部分の横幅とほぼ同じであって、文字部分が図形部分に埋没した印象を与えることもなく、「キリンフーズ」の文字が明瞭に認識できる大きさであることから、両者は視覚的に分離して看取されるものである。
これらによると、本件商標は、図形部分と文字部分とからなる結合商標と理解されるところ、図形部分と文字部分とは、それを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものとは認められず、図形部分と文字部分とが一体として看取されるといった必然性も見出せないから、本件商標からは、文字部分を抽出し、当該文字部分だけを各引用商標と比較して商標の類否を判断することも許されるというべきである。
そして、本件商標の指定商品は、前記第2の1⑴のとおり、ぎょうざ、しゅうまい、穀物の加工品等の食品であり、その需要者は一般消費者であると認められるところ、「フーズ」の語は上記のとおり食品を意味する英語である「foods」を片仮名表記したものとしてわが国において周知であること、企業名の後ろに「フーズ」を付して食品会社であることを示す例も、「サントリーフーズ株式会社」(甲63)、「住商フーズ株式会社」(甲64)、「ANAフーズ株式会社」(甲65)等、多数見受けられるところ、これらの例では著名な企業名が「フーズ」の前に冠されていること(その他にも甲66、67、84ないし92)からすると、本件商標の文字部分のうち「フーズ」の部分の自他識別力は、「キリン」の部分に比べ弱いものということができる。
本件商標の図形部分の円形の輪郭内に描かれた、上記のとおり特徴的な動物の図形は、わが国において一般に知られる上記ウシ目キリン科の哺乳類である実際に生息するキリンの姿とはほど遠く、それ自体として実在する特定の動物を表したものとはみられないものの、図形の動物の長いひげや鬣、細長い顔や雲の上を駆ける姿、文字部分の一部である「キリン」の文字から、上記「きりん【麒麟】」の意味の一つである、「中国で聖人の出る前に現れるという想像上の動物」である「麒麟」をモチーフにしたものという印象を与える。なお、このように、本件商標の図形部分は、その姿に加え、文字部分の一部である「キリン」と相まって、「麒麟」をモチーフにしたものという印象を与えるところ、図形部分及びそれを含む本件商標全体の態様や、前記のとおり、識別力の弱い「フーズ」の語が著名な企業名の後にくる例があること、及び後記エ(ア)のとおりの「キリン」の文字部分に係る企業の周知性に鑑みると、本件商標の図形部分は、文字部分の「キリン」に看者の注意を集めるという面もあるということができ、図形部分が文字部分の「キリン」と共通する印象を与えることから直ちに、本件商標の図形部分と文字部分が不可分一体であって、商標の類否判断に当たって文字部分を要部として抽出することができない、とはいえない。
これらによると、本件商標は、文字部分のうちの自他識別力を有する部分である「キリン」を要部として抽出することができるというべきである。
⑷ 本件商標と各引用商標の類否について
エ 類否の判断
本件指定商品と、各引用商標の指定商品・役務は、いずれもその指定商品・役務の内容から、需要者は一般の消費者であると認められるところ、 一般の消費者は、必ずしも商標の構成を細部にわたり記憶して取引に当たるものとはいえないから、そのような需要者が通常有する注意力の程度を踏まえて、本件商標と各引用商標の外観、称呼及び観念の要素を総合勘案することとなる。 本件商標と各引用商標は、外観において相違するものの、想像上の動物である麒麟の観念及び「キリン」の称呼を共通にするものであり、本件商標からは「キリンフーズ」との称呼も生じるものの、前記のとおり商品の自他識別標識として分離抽出することができる要部から生じる「キリン」 の称呼及び想像上の動物である麒麟の観念を共通とするものであり、外観の相違は、称呼、観念の共通性による印象を凌駕するほど顕著なものということはできないといえる。 これらの外観、称呼及び観念によって、取引者、需要者に与える印象、 記憶、連想等を総合して全体的に考察すれば、本件商標と各引用商標は、 全体として、商品・役務の出所について誤認混同を生じるおそれがある類似の商標であると認められる。
【コメント】
無効審判と審決取消訴訟では、①本件商標における文字と図形の一体性を認めるかどうか、②本件商標の「キリンフーズ」の一体性を認めるどうか、という点で判断が分かれました。
①の点においては、無効審判では本件商標の図形部分は特徴のある図形部分が顕著に表されており、その部分が取引者・需要者に強い印象を与えるものであり、その特徴のある図形マークの「キリンフーズ」として記憶にとどめるものということができるとして、図形部分と文字部分の不可分一体性を認めました。
本件商標の図形部分が商標全体の約5分の4程度を占めることからすれば文字部分が付記的に見えるため、無効審判における審決の判断は妥当なようにも思います。
一方で、②の点で裁判所が本件商標から「キリン」を抽出した決め手になったのは、企業名の後ろに「フーズ」を付して食品会社であることを示す例が多数あり、特に著名な企業名が「フーズ」の前に冠されているという取引実情を重視したからではないかと思われます。
無効審判の審決や本件の裁判例を読む限りでは、上記取引実情は、原告が本件商標の第11号ではなく第15号該当を主張する根拠の一つとして述べていたものでありますが、その主張を裁判所は商標法第4条第1項第11号の類否判断において採用しました。審判段階では取引実情が必ずしも考慮されるとは言えないことから考えますと、審決取消訴訟まで争ったことからこそ、最終的に本件商標と引用商標は類似と判断されたものと言えます。
なお、被告は長崎で「長崎中華本舗」をブランド名として豚角煮まんじゅう等を販売する企業であり、中国神話に現れる伝説上の動物として「麒麟」の図形及び「キリン」の語を採択したものと思われます。そのことを考えますと、被告にとっては少し気の毒な判決に思えました。
※本件記事の情報は、執筆時点で入手可能な法令・判例等に基づいて作成した一般的な解説です。最新の法令・判例と異なる場合や、個別の事案には必ずしも適合しない場合があります。具体的な対応が必要な場合は、弁理士にご相談いただくようお願いいたします。