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事例紹介

2025.05.15

「にじいろクリニック」 商標権侵害損害賠償等請求控訴事件 [弁理士 清水 三沙]

令和6年(ネ)第10051号商標権侵害損害賠償等請求控訴事件
判決文:https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/771/093771_hanrei.pdf

判決言渡日:令和7年2月6日
控訴人兼被控訴人(原告):X
被控訴人兼控訴人(被告):Y

 本件は、登録商標「にじいろクリニック」(第44類)を保有する原告が、「にじいろクリニック新橋」や「にじいろクリニック」を使用する被告に対し、原告商標権を侵害すること等を理由に損害賠償等を求めた事件です。

 原審において、被告各標章は原告商標に類似すると認められ、原告の損害賠償請求が一部認容されました。 

 そこで、原告及び被告が各敗訴部分を不服として控訴したのが本件です。

 控訴審においても複数の争点がありましたが、今回は、従来の判断手法に基づき分かりやすい判断がなされていた商標法第38条第3項に基づく使用料率について取り上げます。

 商標法第383項に基づく使用料率に関し、原告は、クリニック業界における使用料率の相場は5.5%を下らないこと、原告商標権が周知性を獲得していること、本件の商標権侵害が悪質であり長期にわたって継続していること等を理由に使用料率は10%を下らないと主張しましたが、裁判所は商標法第38条第3項に使用料率を4%と判断しました。

 コメントでは、他の裁判例も参考にしながら、どのような観点から裁判所が本件の使用料率を4%と判断したのか検討しております。

〔事件の概要〕
3 損害の有無及びその額(争点6)について
1  商標法38条3項により算定される損害額について
 使用に対し受けるべき料率
()本件において、原告商標権の侵害につき、事後的に定められる原告商標の使用に対し受けるべき使用料率を4%と認めるのが相当であることは、原判決第3の7⑴ウ(ウ)の第一文(原判決29頁19行目から24行目「認められる。」まで)を以下のとおり補正するほかは、原判決「事実及び理由」の第3の7⑴ウ(原判決28頁23行目から39頁9行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。

「(ウ)そして、前提事実⑶及び後掲の各証拠によれば、令和5年8月17日時点で、被告標章1は、被告クリニックの本件ウェブサイト内のウェブペ-ジに、被告標章3は、被告クリニックの扉や屋外に設置された看板に、被告標章4は、被告クリニックの壁面に(甲4、7)、それぞれ付されて使用され、その後も、令和6年10月10日時点において、被告標章1は、被告クリニックの本件ウェブサイトのウェブページの複数箇所に使用されていたほか、同ウェブページには、被告クリニックの扉や受付の壁面に被告標章3や被告標章4が付されて使用されている写真が掲載されており(甲40の1及び4)、同月16日時点において、被告標章2は、被告クリニックの所在する建物の掲示や郵便ポストに、被告標章3は、引き続き被告クリニックの扉や屋外に設置された看板に、それぞれ付されて使用されており(甲39)、いずれも顧客に認識され易い態様・方法により継続的に使用されていると認められる(なお、同日時点において、看板によっては、小さく「THE N」などの表示が貼付されていることが認められるが〔甲39の5及び6〕、被告の使用する標章の一部を成すものと認めることはできないし、同月4日時点で、本件ウェブサイトには「THE N にじいろクリニック新橋」との表現が使用されている部分があることが認められる(乙12)が、前記のとおり、他方で被告が同日以降も被告各標章を継続的に使用していたことが認められる以上、これらの点は、商標法38条3項に基づく被告の賠償責任の内容を左右するに足りるものではない。)。」

()原告は、性病クリニック業界の相当使用料率の相場は5.5%を下らず、原告商標の価値は、原告クリニックの名称と相まって、共通の経営母体による医療サービスの名称として所在地域では知名度を獲得していること、虹色の意味合いから原告商標の利益への貢献度が極めて大きいこと、原告と被告が厳しい競業関係にあり、被告による商標権侵害が悪質で長期間継続していることなどを考慮すれば、相当使用料率は10%を下らないと主張する。しかしながら、第44類に係る登録商標の使用料率の相場が5.5%であることについては、甲17(乙10)58頁の記載によっても、第44類の実例は1件しかなく、当該1件の使用料率が5.5%であったというだけでは、第44類に係る登録商標の使用料率の相場が5.5%であることを認めるに足りず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。原告商標は、一般的に「にじいろ」という色彩的意味より連想されるLGBTのイメージから原告の営業において一定層の顧客を吸引する力を有するものと考えられるが、原告は、もともと「あおぞらクリニック」の名称でウェブサイトを開設しており、その中において特定の外来診療を称するために「にじいろクリニック外来」という名称を使用していたこと(甲2)などに照らせば、原告商標自体が、相当程度の周知性や知名度を獲得しているものとまでは認めることはできない。したがって、原告と被告の競業状況や本件の経緯を考慮しても、商標権全体の使用料率の平均値2.6%を大幅に超える料率を認めるに足りる立証があるとはいえないから、原告の主張を採用することはできない他方、被告は、前記平均値を相場とし、被告が令和6年4月に前記の商標権を取得したことなどを考慮して、相当使用料率は1%程度が相当であると主張する。しかしながら、被告による原告商標権の侵害態様や原告との交渉の経緯等を考慮すれば、前記平均値よりも低い料率を認めることは相当とはいえないから、被告の主張も採用することはできない。当裁判所は、本件に顕れたすべての事情を考慮し、商標法38条3項に基づく損害賠償の額を算定する前提となる使用料率としては、4%をもって相当と認める。

【コメント】
 ロイヤルティ料率を算出する際は、経済産業省がロイヤルティ料率について調査を行いその結果をまとめた「知的財産の価値評価を踏まえた特許等の活用の在り方に関する調査研究報告書 ~知的財産(資産)価値及びロイヤルティ料率に関する実態把握~」
https://www.meti.go.jp/policy/intellectual_assets/guideline/list15.html
を参照することが多く、本件でも原告は当該調査結果引用、第44類に関するロイヤルティ料率が5.5%と主張しております。

 しかしながら、当該調査の際の5.5%の根拠が複数の事例の平均値ではなく、たった1件の事例に基づくものであったため、本件において裁判所は第44類における使用料率の根拠として否定しております。

 一方で、当該調査結果における商標権全体の使用料率の平均値2.6%については本件でも参照されており、これをベースに本件の使用料率を算出しております。

 商標法第38条第3項の使用料率に関し、裁判所は、商標権者の使用事実の有無、登録商標の周知・著名性、侵害者の侵害の態様等を基に判断を行っており、登録商標に周知性が認められた場合は使用料率について5%以上を認めた裁判例が多いです。

 一方、商標権者が商標を使用しているけれども周知性が認められない場合は5%未満のケースが多くみられます。

 少し古い事例にはなりますが、「ICOM事件」(平成10()4292、大阪地判平成13313日)では商標権者と侵害者の業種が類似しており、競合する商品を販売していることなどを考慮して使用料率が3%と判断されています。

 「ICOM」事件と比べると本件の使用料率4%は高いですが、高くなった理由としては、被告が原告から商標権侵害を理由とした警告を受け、原告と被告が交渉を行い、被告が原告商標と同一又は類似する標章を使用しないことを約した合意書締結後も被告が被告各標章の使用を続けたことも加味されていると考えられます。

※本件記事の情報は、執筆時点で入手可能な法令・判例等に基づいて作成した一般的な解説です。最新の法令・判例と異なる場合や、個別の事案には必ずしも適合しない場合があります。具体的な対応が必要な場合は、弁理士にご相談いただくようお願いいたします。

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