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事例紹介
2023.06.15
「子供用乗用玩具」事件 [弁理士 德永 弥生]
令和 2 年(ワ)第 28363 号 意匠権侵害差止等請求事件
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/979/091979_hanrei.pdf
■事件の概要
本件は、「子供用乗用玩具」の登録意匠に係る意匠権を有する原告が、被告の製造、販売する被告製品に係る意匠は本件意匠に類似するため本件意匠権を侵害すると主張して、被告製品の製造、譲渡等の差止め及び廃棄を求めるとともに、損害賠償等の支払を求めた事案です。
裁判所は、両意匠は類似すると判断し、被告が被告製品を製造販売等する行為は本件意匠権を侵害するとして、原告による被告製品の製造販売等の差止と廃棄の請求を認めました。損害賠償等については、売上額を上回る経費等の支出があり被告は被告製品の販売により利益を受けたとはいえず原告の損害額を認定できないとして、原告の請求を棄却しました。
■裁判所の判断の要旨(本件意匠と被告意匠の類否について)
(1)本件意匠の要部
各物品の需要者は、これらの玩具で遊ぶ1~3歳程度の幼児の保護者であるとしました。そして、需要者である保護者は、幼児が安全に遊ぶことができるかという見地から全体観察を行うとし、特に、玩具の転倒しにくさ、躯体の強固さ、幼児の体形に適した寸法比率か否か、幼児がけがをしないよう全体的に角のない丸みを帯びた形状をとっているか否か、といった点に関心をもって全体観察を行うとしました。
本件意匠の基本的構成態様のうち、①垂直状のハンドルステム(構成態様A)、②左右平行一対の前輪(A)、③下方に略25°傾斜して伸びるフレーム(B)、④フレーム略中央上部に設けられるサドル(B)、⑤前輪と略同径の後輪(B)、⑥2つの前輪が存する前方の車幅が幅広で、後輪が存する後方が幅狭の形状(D)は、それぞれ、個別には公知意匠にもみられるけれど、各要素を組み合わせた全体としての形状を有する公知意匠はなく、また、構成態様Cによって特定された寸法比率等の公知意匠はみあたらないとしました。
これらを踏まえて、看者である需要者の注意を最も惹く部分は、正面視及び側面視の構成、各部の寸法比率、後輪の形状、並びにこれらの要素の組合せにより、全体として、丸みを帯びて角がなく、2つの前輪が存する前方が幅広で、後輪が存する後方が幅狭の形状であるという点であり、これらは基本的構成態様A~D及び具体的構成態様hによって特定されるため、これらの部分を本件意匠の要部と把握するのが相当であるとしました。
(2)本件意匠と被告意匠の対比
本件意匠と被告意匠は基本的構成態様(A~D)の全てにおいて共通し、これらはいずれも本件意匠の要部と把握されるものであり、差異点はそれを凌駕せず、両意匠は類似すると判断しました。
なお、両意匠は後輪の数に違いがありますが、後輪が2つある被告意匠も、その間に2つうの車輪よりわずかに小径の円環状カバーを挟んで三層状に形成されているため、なお一体のものであるとの印象を与えるとして、当該差異点についての被告の主張は採用されませんでした。
以上