TRADE MARK TOPICS 商標お役立ち情報
事例紹介
2023.05.23
「zhiyun」審決取消請求事件 [弁理士 清水 三沙]
令和4(行ケ)10073審決取消請求事件(知的財産高等裁判所)
判決文:https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail7?id=91769
原告 WES株式会社
被告 桂林智神信息技術股▲ふん▼有限公司
〔事件の概要〕
被告は、原告の登録商標「zhiyun」(登録第6256358、以下「本件商標」。)に対し、本件商標が商標法3条1項柱書及び4条1項7号に該当することを理由に無効審判を請求し、登録無効の審決がなされました(無効2021-890051)。その審決に対して原告が取消訴訟を請求したのが本件です。
原告のWES株式会社は、たった2年間で109件もの商標出願・登録を行い、登録された商標については短期間で他人に譲渡したり、使用許諾のために知的財産取引サイトに出品する等しておりました。本件商標も原告の大量商標出願・登録に含まれるものです。
また、原告が出願・登録していた商標の多くは中国企業がAmazonジャパンに出品している商品に付されていたものであり、本件商標も被告が使用していた引用商標「Zhiyun」と文字列が同じものでした。
〔裁判所の判断〕
1 本件商標と引用商標について
本件商標「zhiyun」と引用商標1「Zhiyun」等は大文字、小文字の違いはあるとしても、本件商標と引用商標は文字列が一致すること、本件商標も引用商標も対応した語が辞書に記載されておらず、一般には存在しない造語として特定の観念が生じないものであること、本件商標も引用商標も「ジユン」の称呼が生ずると認められるべきことから、本件商標と引用商標は、外観において紛らわしく、称呼を共通とするものであり、観念において比較できないとしても、全体として類似するものであると判断しました。
2 取消事由2(商標法4条1項7号該当性に係る判断の誤り)について
まず、裁判所は以下の事実を認定しました。
- 原告は、平成30年9月24日に本件商標の商標登録出願をしているが、平成29年9月25日から令和3年5月11日までの間に本件商標を含む114件の商標の登録出願をし、特に、平成30年から令和元年にかけては109件にも及んでいるところ、その指定商品は、バッグ、ボイスレコーダー、キャンプ用マット、椅子、楽器、釣り具等、広範囲に及び一貫性がなく、原告が公式ウェブサイトに掲載している事業内容と無関係なものも多い。
- これらの商標のうち22件については、登録後1、2年で移転されているが、少なくとも18件については、原告による商標登録出願が類似する他人の商標の使用に後れるものである。
- 原告出願に係るこれらの商標で、他人が使用する商標に後れるものについては、日本語や英語を前提とする限り考え付くのが困難な特徴的な造語が多く含まれ、他人が先行して使用する商標と偶然に一致したものとは認め難い。
- 原告は、本件商標についても使用許諾する旨、知的財産権の取引サイトに出品している。
- 上記114件の商標登録出願中、7件について、商標法3条1項柱書違反、同法4条1項7号、10号、15号又は19号該当等を理由として、第三者から刊行物提出書による情報提供がされ、本件商標を含む12件について、無効審判請求や登録異議の申立てがされている。
- 原告は、本件無効審判請求に係る審理において、何ら答弁していない。
上記事実を認定した上で、裁判所は、
「本件商標の登録出願は、平成29年9月25日から令和3年5月11日までの間に原告によりされた大量の商標登録出願の一部であるところ、これらの出願のうち22件については、登録後1、2年で移転され、そのうち少なくとも18件については原告による登録出願が、類似する他人の商標の使用に後れるものであり、原告出願に係るこれらの商標の多くが特徴的な造語で、先行する他人の商標と偶然に一致したものとは考えられず、また、原告は本件商標についても使用料を得ようとしていたことが認められる。
これらの事情によれば、原告は、先願主義に名を借りて、先行して使用されてきた他人の商標と類似する商標を出願した上、金銭的利益を得ることを業とする者と認めざるを得ない。また、本件商標についても、日本語とも英語とも考えられない造語であり、およそ原告が独自に考え出したものとは認められないもので、原告は、被告が海外において、引用商標を付したスタビライザーやジンバル雲台で相当の販売実績を有していることを知りながら、これらの商品と同じ商品を指定商品として、我が国で先に商標登録を得ることで、金銭的利益を得ようとしていたものと推認し得るものである。このような本件商標の登録出願に至る経緯等に照らせば、登録を認めることは、商標法の予定する公正な取引秩序に著しく反するものというべきであるから、本件商標の商標登録は、公序良俗に反するものというほかない。」として、本件商標は商標法4条1項7号に該当するものであると判断しました。
なお、取消事由1(商標法3条1項柱書違反に係る判断の誤り)については、判断されていません。
〔コメント〕
WES株式会社は、冒頭でも紹介しました通り、Amazonで出品されている中国企業の商標を無断で大量出願しており問題となっていた企業です。WES株式会社に商標出願・登録されていることを気付いた企業はWES株式会社が登録商標を使用する意思がないこと(商標法3条1項柱書違反)や4条1項7号、10号、15号等に該当することを理由にWES株式会社の登録商標に対し異議申立等を行っておりましたが、WES株式会社に商標を使用する意思がないことや引用商標の周知性の立証が難しく、WES株式会社の登録商標がなかなか取り消されませんでした。そのため、本件においてWES株式会社の悪意ある出願が認められて登録無効審決が維持されたことは意味があるものと考えます。
一方で、本件が他の悪意ある出願のケースにもあてはまるかというかと、本件においてはWES株式会社が短期間に大量出願していたこと、WES株式会社が登録商標を譲渡したり知的財産の取引サイトに出品していたり悪意ある出願であったことが明らかであることや、WES株式会社の登録商標が英語や日本語では簡単に思いつくものではなく偶然に一致したと考えられる商標ではなかったという特殊事情があり、本件における判断が他の悪意ある商標出願・登録すべてに対して有効というわけではないと考えます。
そういう意味では、やはり使用する商標はできるだけ早く商標出願すべきであり、他者に先取り出願をされないようにしておく必要があると考えます。