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事例紹介

2025.01.17

神棚等商品形態事件 [弁理士 服部 京子]

神棚等商品形態事件 [弁理士 服部 京子]

令和4年()70009号 不正競争行為差止等請求事件
判決文:https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/001/093001_hanrei.pdf

事件の概要
神棚及び神具の製造・販売等を行う原告が、自社の製造販売する神棚板及び神具セットの特徴は商品等表示として周知であり、被告による神棚板及び神具セットの販売は、不正競争防止法2条1項1号の不正競争行為に当たるとして、被告商品の販売等差止めや損害賠償請求等を求めた事案です。

商品形態の商品等表示性について
 商品形態が商品等表示に該当するかについての判断は、様々なところで取り上げておりますが、本事案についても裁判所の判断を紹介します(下線は筆者、以下同様)。

商品の形態は、商標とは異なり、本来的には商品の出所を表示する目的を有するものではないが、商品の形態自体が、特定の出所を表示するに至る場合がある。商品の形態は、本来的には、商品の出所を表示する目的を有するものではなく、それが特定の出所を表示する「商品等表示」になるのは、商品の形態が客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有しており(特別顕著性)、かつ、その形態が特定の事業者によって長期間独占的に使用され、又は極めて強力な宣伝広告や爆発的な販売実績等により、需要者においてその形態を有する商品が特定の事業者の出所を表示するものとして周知になっている(周知性)場合であると解される。

原告神棚板の形態が「商品等表示」となるか について
 原告が主張する原告神棚板の特徴及びそれについての裁判所の判断は以下のとおりです。

特徴①:左右の略三角形状の側板
特徴②:側板の上部に掛け渡された上板
特徴③:側板の背部に掛け渡された背板
特徴④:側板には左右の側板を貫通して破魔矢を通すための貫通部が形成されている
特徴⑤:上板の上面には幅方向に凹溝が形成されている

[裁判所判断]

特徴①から③は壁面に取り付け可能な棚としては基本的な形態のものであることがうかがわれ、また、特徴④、⑤も、商品の一部分の特徴で、かつ、それぞれの形態自体は独特のものとはいえないことがうかがわれる

特徴⑥:背板の裏面には壁に固定された取付け金具に取り付けるための受け金具が設けられている
特徴⑦:受け金具を壁面に固定された取付け金具に着設又は離脱することによって、棚本体を壁面に着脱自在にする

[裁判所判断]

特徴⑦は、商品の機能をいうものであり、また、特徴⑥も金具の形状を問題とするものではなく商品の機能をいうものといえる。このような機能自体が商品の形態による商品等表示となることはないと解される

[裁判所判断(結論)]

原告神棚板の販売が開始された平成16年より前の同種の商品の形態についての証拠はない。しかし、仮に、特徴①から⑤の組合せが他の同種の商品と異なる顕著な特徴であったと認められるとしても、後記⑶のとおり、原告神棚板の特徴①から⑤の組合せが原告の出所を示すものとして周知になったことはなく、遅くとも令和2年10月までに原告神棚板の形態が原告の出所を示すものとして周知となっていたとの原告の主張には理由がない。

周知性についての裁判所の判断は以下のとおりです。

平成27年4月には、NHKの番組で原告神棚板が取り上げられた。しかし、他に、全国的なテレビ番組で原告神棚板が取り上げられたことがあったことを認めるに足りず、この一回の放送によって、原告神棚板の特徴①から⑤の組合せが原告の出所を示すものとして需要者に周知になったとはいえない。また、原告の神棚が写っている写真が、日刊紙、雑誌等に掲載されたことが認められるが、それらは合計数回であり、これらによって、原告神棚板の特徴①から⑤の組合せが原告の出所を示すものとして需要者に周知になったとはいえない。

原告神棚板は、ホームセンター、神具店、仏具店、神社、原告の直営店及びオンラインショップで販売されていた。(中略)原告神棚板は、原告が販売する複数の種類の神棚のうちの一つであり、その展示、販売に際しても、多種類の商品の中の一つとして展示、販売されているのであって、原告神棚板の上記特徴が他の同種の商品とは異なることを述べる宣伝文言によって強調されて展示、販売されていることも認めるには足りない。これらからすると、原告神棚板の展示、販売によって、原告神棚板の特徴①から⑤の組合せが原告の出所を示すものとして需要者に周知になったとはいえない。

以上によれば、原告神棚板について、各報道や公刊物の記載、展示、販売によって原告神棚板の特徴①から⑤の組合せが原告の出所を示すものとして需要者に周知になったとは認められず、また、報道等の回数の少なさや、展示、販売の際も多種類の商品の一つとして展示、販売されているにすぎないことからも、関係する事情を総合して考慮しても、原告神棚板の特徴①から⑤の組合せが、原告の出所を示す表示として周知になったことはないと認められる。

 以上のとおり、原告神棚板の商品等表示性は認められませんでした。

原告神具セットの形態が「商品等表示」となるか について
 原告が主張する原告神具セットの特徴は以下のとおりです。なお、神具セットについてはそれぞれの特徴については触れず、上記と同様の結論となっています。また、周知性の判断についても同じような判断がされているため、こちらは割愛させていただきます。

特徴①:水、米、塩を入れる3つのガラス容器
特徴②:ガラス容器を収納する木材を素材とする神具膳
特徴③:お神酒を入れるガラス管を収納した木材を素材とする一対の瓶子
特徴④:榊を入れるガラス管を収納した木材を素材とする一対の榊立て
特徴⑤:ガラス容器は透明で開口部が斜めに切り込まれ開口部から底面にいくにつれて細くなる略円錐形状である
特徴⑥:神具膳はガラス容器を収納する3つの穴を備えた上板と下板とそれを保持する左右の側板からなる
特徴⑦:ガラス管は透明で細長いパイプ状である
特徴⑧:瓶子は縦長の直方体で同ガラス管を収納するための孔を有する
特徴⑨:榊立ては瓶子より約5㎜高い縦長の直方体で同ガラス管を収納するための孔を有する

[裁判所判断(結論)]

原告神具セットの販売が開始された平成27年より前の同種の商品の形態についての証拠はない。しかし、仮に、各商品の上記特徴が他の同種の商品と異なる顕著な特徴であったと認められるとしても、後記⑶のとおり、原告神具セットの各商品の特徴①から⑨やその組合せが、原告の出所を示すものとして周知になったことはなく、遅くとも令和3年11月12日までにそれらの特徴が原告の出所を示すものとして周知となっていたとの原告の主張には理由がない。

 以上のとおり、原告神棚板の商品等表示性についても認められませんでした。

 今般の事案では、原告商品の販売以前に同種の形態の商品が販売されていたという証拠はないとされています。また、被告商品は原告商品と酷似しているとまでは言えないまでも、組み合わせなどを考えると原告商品を意識している可能性は否定できません。それでも「周知性」のハードルは高く、メディアで複数回取り上げられたという程度では周知性立証の証拠として足りないことが分かります。

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