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事例紹介

2025.02.15

「athlete Chiffon」事件 [弁理士 清水 三沙]

「athlete Chiffon」事件 [弁理士 清水 三沙]

令和5年(行ケ)第10038号 審決取消請求事件
判決文:https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/438/092438_hanrei.pdf

判決言渡日:令和5年1012
原告:
被告:特許庁長官

 ここ数年特許庁における識別力の判断が厳しくなり、商標法第3条第1項第3号に関する拒絶査定不服審判での転覆率は、2021年が7割程度であったのに対し、2022年は5割程度、2023年には3割程度にまで下がりました。識別力の判断が急に厳しくなったので「より戻し」(=識別力の判断が緩くなること)を期待されている方もおられるかもしれませんが、裁判所も特許庁の判断を支持しているようであり、識別力の判断の厳しさは現状が続くように思います。

 そこで、今月は、裁判所が特許庁の判断を支持した「athelete Chiffon」事件を紹介します。

 コメント欄では、裁判所が維持した当該事件の特許庁の判断の流れをまとめましたので、ぜひご参考ください。

〔事件の概要〕
 原告は、商標「athlete Chiffon」(以下、「本願商標」)について、第43類「飲食物の提供,宿泊施設の提供,宿泊施設の提供の契約の媒介又は取次ぎ」を指定役務として、商標登録出願をしました(商願2021-9323)。

 しかしながら、本願商標は商標法第3条第1項第3号に該当する旨の拒絶査定を受けたため、拒絶査定不服審判を請求しましたが(不服2022-8603号)、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決がなされたため、原告は、当該審決の取消しを求める本件訴訟を提起しました。

 審決では、「本願商標は、これに接する取引者、需要者に、「運動選手向けのシフォンケーキ」程度の意味合いを認識、理解させるものであるから、これをその指定役務中、「運動選手向けのシフォンケーキの提供」に使用しても、これに接する取引者、需要者に、当該役務において提供される飲食物が運動選手向けのシフォンケーキであること、すなわち、役務の質(内容)を表示したものとして認識させるにとどまり、本願商標は、自他役務の識別標識としては認識し得ないから、商標法3条1項3号に該当する。」「また、本願商標をその指定役務中、「運動選手向けのシフォンケーキの提供」以外の役務に使用するときは、役務の質の誤認を生じさせるおそれがあるから、本願商標は、商標法4条1項16号に該当する。」と判断しています。

〔裁判所の判断〕
 取消事由1(商標法3条1項3号該当性の判断の誤り)について
(2)本願商標は、「athlete Chiffon」の文字を標準文字で表してなるところ、その構成中の「athlete」の文字は、各種英和辞典(乙1~4)により、「運動選手。スポーツ選手。アスリート。」等の意味を有するものとして掲載され、その表音を片仮名で表した「アスリート」の文字は、国語辞典(乙5)に、「運動選手」を意味するものとして掲載されている。また、その構成中の「Chiffon」の文字は、各種英和辞典(乙1,6)に「シフォン(絹、ナイロンの透けるような布)」「絹またはナイロンの軽くて柔らかい織物」を示す名詞や、「軽くてふんわりした。」「〔ケーキなどが〕軽くてフワフワした」等の意味を有する形容詞として挙げられる「chiffon」に由来するものであり、また、その表音を片仮名で表した「シフォン」の文字は、国語辞典(乙7)に、「うすくやわらかい絹織物」との意味の他、複合語として「シフォンケーキ(chiffon cake)」(たまごの白身をよく泡立てて加えた、ふんわりして口どけのいいスポンジケーキ。(用例)「紅茶―」)」が掲載されている。これらは、いずれも、平易な単語として一般に親しまれているものである。

(3) 各種ウェブサイトや新聞記事(甲4~9、乙8~59)によれば、菓子やパン類を含む飲食物や、各種の商品又は役務について、運動選手向けであるという商品又は役務の種類を表すものとして「アスリート」「athlete」(欧文字は語頭もしくは全体が大文字のものを含む。以下同じ。)の文字を語頭に配した「アスリートケーキ」「アスリートパンケーキ」等の語が、広く使用されている実情が認められる。そうすると、当該「アスリート」の部分は、後半に続く商品又は役務が「運動選手向け」であることを示すものとして取引者、需要者に認識されるものといえる。(略)

(4) 各種ウェブサイトや新聞記事(甲10~12、14、75、乙60~100)において、「シフォン」「chiffon」が「シフォンケーキ」の略であることを前提に、語頭にその提供対象を表す語を配した例(「お子様シフォン」「お一人さまシフォン」等)、原材料、味を表す語を配した例(「バナナシフォン」「チョコシフォン」等)、行事等の名称を表す語を配した例(「バレンタインシフォン」「ひなまつりシフォン」等)が広く使用されていることが認められる。なお、前掲乙8では、パンと菓子の教室のメニューで、「アスリートシフォン」というシフォンケーキが提供されている。また、各種ウェブサイトや新聞記事(甲75,79,80、乙101~130)によれば、シフォンケーキ専門の飲食店や店舗の店名に「シフォン」「chiffon」が用いられていることが認められる

そうすると、「シフォン」「chiffon」の語頭に、提供対象や原材料、味を表す語が配された場合、語頭の部分は、後半に続く「シフォン(シフォンケーキの略称)」の種類、内容を表すものであると容易に理解されるとみるのが相当である。(略)

(5) 以上によれば、前半に「athlete」の文字と、後半に「Chiffon」の文字とを表し組み合わせた「athlete Chiffon」との文字からなる本願商標は、これに接する取引者、需要者に、「運動選手向けのシフォンケーキ」程度の意味合いを認識、理解させるものであるから、これをその指定役務中、「運動選手向けのシフォンケーキの提供」に使用しても、これに接する取引者、需要者に、当該役務において提供される飲食物が運動選手向けのシフォンケーキであること、すなわち、役務の質(内容)を表示したものとして認識させるにとどまり、役務の質(内容)を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標といえるから、商標法3条1項3号に該当するといわざるを得ず、これと同旨の本件審決の判断に誤りはない。

 取消事由2(商標法4条1項16号該当性の判断の誤り)について
 本願商標からは、「運動選手向けのシフォンケーキ」という意味合いが生じることは前記1のとおりであるから、本願商標をその指定役務中、「運動選手向けのシフォンケーキの提供」以外の役務に使用するときは、役務の質の誤認を生じさせるおそれがあるから、本願商標は、商標法4条1項16号に該当するというべきである。

 結論
以上によれば、本願商標は商標法3条1項3号、同法4条1項16号に該当するから、原告主張の取消事由はいずれも理由がなく、本件審決にこれを取り消すべき違法は認められない。

〔コメント〕
みなさんは、「athlete Chiffon」という言葉を聞いたとき、識別力があると思われましたか?

私は初めて耳にする言葉だったので「識別力があるのかな?」と思ってしまったのですが、この判決を読んで、本願商標「athlete Chiffon」の識別力が認められなかった理由に納得しました。

本件での裁判所の判断をまとめると、以下のような流れです。

①「athlete」も「chiffon」もいずれも平易な単語として一般に親しまれている。

②菓子やパン類を含む飲食物において、運動選手向けであるという商品または役務の種類を表すものとして「アスリート」「athlete」の文字を語頭に配した「アスリートケーキ」「アスリートパンケーキ」等の語が、広く使用されている実情が認められる。

③「シフォン」「chiffon」がシフォンケーキの略であることを前提に、そ提供対象を表す語を配した例(「お子様シフォン」「おひとりさまシフォン」)が広く使用されていることが認められる。

④シフォンケーキ専門店の店舗名に、「Chiffon」が使用されている。

【結論】「athlete Chiffon」からは、「運動選手向けのシフォンケーキの提供」の意味合いが認識・理解できるから、識別力が認められない。

 本件において、「athlete」と「Chiffon」の語がいずれも平易な語であることに加え、「athlete○○」及び「○○Chiffon」の使用例があったことがポイントと言えます。
特に、「athlete」(アスリート)が提供対象者を示す語として使用されていたこと(上記②)、及び「○○Chiffon」については、○○部分に「提供対象」を入れた使用例があったこと(上記③)が、本願商標の識別力が弱いと判断する決め手になっているものと言えます。

 本件の判断の流れは結合商標の識別力を判断する際に大変参考になると思われますので、識別力を判断する際の本件をご活用ください。

 

※本件記事の情報は、執筆時点で入手可能な法令・判例等に基づいて作成した一般的な解説です。最新の法令・判例と異なる場合や、個別の事案には必ずしも適合しない場合があります。具体的な対応が必要な場合は、弁理士にご相談いただくようお願いいたします。

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