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事例紹介

2024.09.15

商標の類否判断に関する審決 [弁理士 服部 京子]

商標の類否判断に関する審決 [弁理士 服部 京子]

商標の類否判断に関する審決をご紹介します。

【種別】   拒絶査定不服の審決
【審判番号】 不服2023-7586
【本願商標】 

 

 


5類「サプリメント」

【引用商標】 

 

 

第5類「サプリメント」他

【適用条項】 4条1項11
【結論】   本願商標は、登録すべきものとする。

本願商標について
上段の片仮名は、下段の欧文字の読みを表したものと理解されるものである。

当該「スウェリーヴ」及び「Swellieve」の文字は、一般的な辞書類に載録されておらず、特定の意味合いを想起させる語として知られているものとも認められないことからすれば、特定の観念を生じない造語として看取、把握されるとみるのが相当である。

そうすると、本願商標は、その構成全体に相応して、「スウェリーヴ」の称呼を生じ、特定の観念を生じないものである。

引用商標について
上段の片仮名は、下段の欧文字の読みを表したものと理解されるものである。

当該「スエリ-ズ」及び「SWEREEZE」の文字は、一般的な辞書類に載録されておらず、特定の意味合いを想起させる語として知られているものとも認められないことからすれば、特定の観念を生じない造語として看取、把握されるとみるのが相当である。

そうすると、引用商標は、その構成全体に相応して、「スエリ-ズ」の称呼を生じ、特定の観念を生じないものである。

類否判断
外観
両者は、欧文字部分において、語頭から3文字目まで「Swe」と「SWE」のつづりを同じくするとしても、4文字目以降において、「llieve」と「REEZE」のように、構成文字が明らかに相違するものであることに加え、2文字目以降において大文字と小文字の差異がある。また、片仮名部分においても、語頭の「ス」と中間部分の「リー」の文字を同じくするとしても、その他の文字は明らかに相違するものである。そして、これらの相違が、外観全体から生じる視覚的印象に与える影響は決して小さいものとはいえないことから、両者は、外観上、明確に区別できる。

[称呼]
2音目以降において「ウェリーヴ」と「エリーズ」の音の差異を有しているところ、語尾の前に長音を有していることから、語尾の音が比較的明瞭に発音される場合も少なくなく、共に全体で5音という短い音構成からなる両称呼において、この差異音が両称呼に与える影響は大きいことから、称呼上、容易に聴別できる。

[観念]
本願商標と引用商標は、特定の観念を生じないものであるから、観念において、比較できない。

[結論]
観念において比較できないとしても、外観において明確に区別でき、称呼において容易に聴別できるものであるから、両者の外観、称呼及び観念によって取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すれば、両者は、非類似の商標というべきである。

コメント
 欧文字と片仮名文字からなる二段書きの商標については、片仮名部分が読みを表しているとみられるのが一般的です。しかし、読みが特殊なものの場合、欧文字部分から自然と生じる読み方も称呼として生じ得ます。

 引用商標の欧文字部分は「SWEREEZE」ですので、これだけ見ると「スウェリーズ」と読みたくなります。そのため、原査定では、欧文字部分から自然と生じ得る「スウェリーズ」の称呼も評価され、類似の判断がなされたものと思われます。

 片仮名文字が読み方であると考えると原査定の判断は厳しいように見えますが、審査基準どおりに判断するとこのような結論になり得るので、留意が必要です。

【種別】   拒絶査定不服の審決
【審判番号】 不服2023-10895
【本願商標】 

35類「インターネット上のウェブサイトにおける飲食料品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」他
【引用商標】 蔵出し(標準文字)
30類「甘酒,甘酒のもと,ゆであずき」他
【適用条項】 4条1項11号
【結論】   本件審判の請求は、成り立たない。

本願商標について(下線は筆者、以下同様)
本願商標は、別掲のとおり、オレンジ色に着色し(語頭の「K」の文字の右半分は、濃いオレンジ色で着色されている。)、ややレタリングを施した書体で「Kuradashi」の欧文字を横書きしてなるところ、当該欧文字に相応する外国語は存在せず、また、当該欧文字より生ずる「クラダシ」の読みを有する語は、「倉庫に寄託した貨物を引き出すこと。貯蔵してあった酒などの、蔵から出したばかりのもの。」出典:「広辞苑 第七版」株式会社岩波書店)を意味する「蔵出し(庫出し)」以外に、一般的な辞書類に掲載が認められないことからすると、当該欧文字は、「蔵出し(庫出し)」の読みを、欧文字で表したものとみるのが相当である。

そうすると、本願商標は、「Kuradashi」の文字に相応して「クラダシ」の称呼を生じ、「倉庫に寄託した貨物を引き出すこと。貯蔵してあった酒などの、蔵から出したばかりのもの。」の観念が生ずるものである。

引用商標について
引用商標は、前記3のとおり、「蔵出し」の文字を標準文字で表してなるところ、これは「倉庫に寄託した貨物を引き出すこと。貯蔵してあった酒などの、蔵から出したばかりのもの。」(出典:「広辞苑 第七版」株式会社岩波書店)を意味する語であるので、その文字に相応して「クラダシ」の称呼を生じ、「倉庫に寄託した貨物を引き出すこと。貯蔵してあった酒などの、蔵から出したばかりのもの。」の観念が生ずるものである。

類否判断
外観
全体の外観においては異なるものの、本願商標と引用商標を比較すると、外観については構成文字の文字種(欧文字と漢字)に差異があるものの、当該差異は、欧文字と漢字の文字表示を相互に変更したものと理解されるにすぎず、漢字の読みを欧文字で表記することが一般的に行われている取引の実情を考慮すると、文字種が異なることによる本願商標と引用商標の外観の相違は,両商標が別異のものであると認識させるほどの強い印象を与えるものではない

[結論]
その外観上の差異が強い印象を与えるとまではいえないものであり、また、両者は称呼及び観念を共通にするものであるから、これらの外観、称呼及び観念によって、取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すれば、本願商標と引用商標は、相紛れるおそれのある、互いに類似の商標というのが相当である。

コメント
 漢字は表意文字でもあるため観念が生じやすいですが、欧文字は表音文字であり外国語の成語でなければ観念が生じないと判断されることもあります。

 しかし、本件の場合、「クラダシ」に相当する成語が「蔵出し」しかなく、そのため「kuradashi」=「蔵出し」の図式が成り立つと判断されています。

 当然といえば当然の判断ですが、他の件において漢字と欧文字(片仮名文字)の商標が併存登録されているからといって自らの案件に当てはめることができるとは限らず、商標の採択に際しては慎重な検討が必要です。

【種別】   拒絶査定不服の審決
【審判番号】 不服2023-18572
【本願商標】 幸せのシャワーヘッド(標準文字)
11類「シャワーヘッド,噴霧式のシャワーヘッド,流し台蛇口用シャワーヘッド」
【引用商標】 

 

 

 

 

 

11類「浴槽類」他
【適用条項】 4条1項11号
【結論】   本願商標は、登録すべきものとする。

本願商標について
その構成文字は、同じ書体、同じ大きさ、等しい間隔で、外観上まとまりよく一体的に表されており、また、その構成文字全体から生ずる「シアワセノシャワーヘッド」の称呼も、格別冗長というべきものでなく、よどみなく一連に称呼し得るものである。

本願商標の構成文字は、「幸福」等の意味を有する「幸せ」の文字と、「シャワーヘッド」の文字を、連体格を示す格助詞「の」を介して結合してなるものであり(出典:株式会社岩波書店「広辞苑第七版」)、全体としてのまとまりのよい構成態様も相まって、その構成全体から「幸せ(幸福)のシャワーヘッド」程の漠然とした観念を生じるものである。

そうすると、本願商標は、その構成文字に相応して、「シアワセノシャワーヘッド」の称呼を生じ、「幸せ(幸福)のシャワーヘッド」程の漠然とした観念を生じるものである。

引用商標について
平仮名部分は「幸」の漢字部分の表音に相応するものであり、当該文字は、「幸福」等の意味を有する「幸せ」を表したものと理解されるものである。

そうすると、引用商標は、その構成文字に相応して、「シアワセ」の称呼を生じ、「幸せ(幸福)」の観念を生じる。

類否判断
外観において明確に区別できるものであり、称呼において明瞭に聴別でき、観念においても相違するものであるから、両者は、互いに相紛れるおそれのない非類似の商標というべきである。

コメント
 商標中、指定商品等の一般名称を表している部分(本願商標の場合、「シャワーヘッド」部分)は、基本的には識別力がないとして捨象されます。しかし、本願商標は、格助詞の「の」を使うことで全体としての一体性を作り出すことに成功しています。

 このように格助詞を入れたり、形容詞を使うなどの工夫にすることにより、観念的な一体性が生まれやすくなり、結果として引用商標との差別化ができています。とはいえ、本件も審査段階では拒絶査定を受けているということを忘れてはいけません。

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