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2024.10.15

商標Q&A 第13回 海外でも商標を使いたい!直接出願と国際登録の違い

商標Q&A 第13回  海外でも商標を使いたい!直接出願と国際登録の違い

Q: 海外で商標を安全に使用するにはどうすればよいのでしょうか。マドプロというものがあるとネットに書かれていましたが、これは何ですか?

A: 海外で安全に商標を使用するためには、その国や地域においてその商標を使用できるか調査を行い、問題がないようであれば、商標登録を行います。前回は調査の方法について説明しましたので、今回は海外で商標登録を行う方法についてみていきましょう。よく耳にする「マドプロ」についても説明しますね。

 さて、商標を登録するには、原則としてその国や地域において行政庁に申請を行い、商標原簿(Trademark Register)に登録(Registration)する必要があります。世界の大半の国では、このように商標原簿への設定登録をもって商標権を付与する「登録主義」を採用しています。

 「原則として」と書いたのは、登録ではなく使用することにより商標権が発生する国(いわゆる「使用主義」を採択する国)もあるからです。米国などが有名ですよね。米国は「商標は使ってナンボ」の国ですから、商標は登録をしていなくとも、使用している範囲で一定の保護を受けることができます。州や連邦における登録制度もあるのですが、登録したからといって使用していないような商標は商標権による保護が与えられません(そもそも、米国における商標登録は使用が前提となります)。米国については使用主義特有の制度が多く存在しますので、また改めて解説することにしましょう。

 話を戻しますね。商標を使用したい国で、商標権による保護を受けたい(=商標を登録したい)場合はどうするか。多くの国では在外者が直接その国の官庁へ手続きを行うのは難しいため、一般的には、その国の代理人(弁理士等)に依頼して商標登録の出願手続を行うことになります。拒絶理由を受ければその代理人が対応してくれますし、登録後はその代理人が商標を管理してくれます。この方法による出願は、日本の官庁や国連の機関などを介さずにダイレクトにその国の官庁へ手続をすることから、「直接出願」と呼ばれます(法律用語ではなく、業界内における慣用表現的なものです)。

 一方、日本において商標を出願したり登録したりしている者は、その商標に基づいて、国際登録という仕組みを用いて希望する国や地域(マドリッド同盟国)にその商標の保護範囲を拡張することができます。登録自体は各国において別々に行われるのではなく、世界知的所有権機関(WIPO:World Intellectual Property Organization)の国際事務局(IB:International Bureau)において登録された後、保護の対象となる国の官庁においてその商標の有効性が個別に審査され、問題があれば権利範囲に制限がかかる、というイメージです。元々、商標の国際的な保護については「Madrid Agreement」(マドリッド協定)という条約があったのですが、こちらは欧州などの無審査国の加盟を前提としたものでしたから、日本や米国といった審査国が加盟しにくいという問題がありました。これを改善すべく、審査国にも配慮された枠組みが新たにできまして、それが「Madrid Protocol」(マドリッド・プロトコル/マドリッド協定議定書)と呼ばれる枠組みです。これを省略して、日本ではよく「マドプロ」と呼ばれています

 では、それぞれの違いを簡単にみていきましょう。直接出願の場合は、各国それぞれ独立した手続を行っていきますので、国の数だけ商標登録が必要になります。例えば、「いろは」という商標を5カ国に出願した場合、国ごとに5つの商標登録がなされるイメージです。一方、マドプロの場合は、WIPOの国際事務局に登録され、その商標権の効力が5カ国に及ぶことになりますので、商標登録としては1つだけ、ということになります。更新の際も、直接出願では5つの商標登録に対して個別に更新手続を行っていく必要がありますが、マドプロでは国際事務局における1つの商標登録に対して更新手続を行うだけで済みます。

 他には、直接出願であれば、出願時に現地の代理人費用が発生します。一方、マドプロでは、現地の代理人を介さず、WIPOの国際事務局から直接現地の官庁へ書類が送られますので、出願時に現地の代理人費用が発生しません。そのため、拒絶理由などが発せられないような商標であれば、コスト的にはマドプロのほうが有利になります。ただし、マドプロであっても、保護を受けたい国の官庁から拒絶理由通知(暫定的拒絶通報)が出てしまうと、原則として、現地代理人に手続を依頼することになりますので、コスト的なメリットは薄れてしまいます。

 ここまで読むとマドプロのほうがいいじゃん!と思われることと思います。はい、弊所でも基本的には海外での権利化においてマドプロをお勧めすることが多い状況です。ただし、マドプロには適さない事案も多々あり、一概にマドプロで手続を行っておけばOK、という訳ではありません。このあたりについて話し始めると長くなりますので、マドプロの留意点については次回にさせていただくことにしましょう。

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