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事例紹介

2024.07.15

商標「ナノバブ」第4条第1項第15号異議申立事件 [弁理士 清水 三沙]

【異議申立番号】異議2023-900044
【異議申立日】令和5年2月20日
【確定日】令和5年12月4日
【権利者】株式会社Grand Prix
【異議申立人】花王株式会社
【本件商標】商標「ナノバブ」(標準文字、登録第6654210号
第3類「せっけん類,シャンプー,化粧品,ヘアーコンディショナー」
【引用商標】商標「バブ」(登録第4172757号)
第3類「せっけん類,香料類,化粧品,歯磨き」

 本件は、異議申立人である花王株式会社が、商品「入浴剤」で周知・著名な「バブ」を引用商標にして、本件商標は引用商標と類似すること(商標法第4条第1項第11号該当)、及び本件商標は引用商標との間で出所の混同を生じるおそれがあること(商標法第4条第1項第15号該当)から、本件商標は商標法第43条の2第1号により取り消されるべきものであるとして、本件商標のすべての指定商品について取り消しを求めた異議申立事件です。

 特許庁は、本件商標の指定商品中「化粧品,ヘアーコンディショナー」については、申立人の業務にかかる商品と混同を生ずるものであるから、本件商標は商標法第4条第1項第15号に該当すると判断しました。

 一方、「せっけん類,シャンプー」については、出所の混同を生ずるおそれがあるとはいえないとして取消しを認めませんでした。

 「せっけん類、シャンプー」について取消しが認められなかった点について、検討したいと思います。

 【当審の判断】
(1)引用商標の周知・著名性について
 申立人商品、及び、それに使用されている引用商標は、本件商標の登録出願の日前から、申立人の業務に係る商品(入浴剤)として、及び、当該商品を表示するものとして、いずれも取引者、需要者の間に広く認識され、その状況は本件商標の登録査定時においても継続しているといえるものであって、その周知・著名性の程度は高いものというのが相当である。

(2)本件商標と引用商標の類似性の程度について
 本件商標は、上記1のとおり、「ナノバブ」の文字を標準文字で表してなるところ、その構成中の「ナノ」の文字は、「10億分の1を表す単位の接頭辞」(出典:「広辞苑 第七版」)であって、例えば「ナノテクノロジー」「ナノ物質」のように、我が国において広く使用、理解されている平易な成語である。

 そして、同構成中の「バブ」の文字は、上記(1)のとおり、申立人商品を表示するものとして周知・著名な引用商標「バブ」の文字と同一又は酷似するものといえる。

 さらに、「ナノバブ」の文字が一連で何らか特定の意味を有する語として取引者、需要者に認識されるというべき事情は見当たらないものであるから、本件商標に接する取引者、需要者は、それが「ナノ」の語と「バブ」の語とを組み合わせてなるものと容易に理解、認識し得るものといえる。

 そうすると、本件商標は、その構成中に、申立人商品を表示するものとして周知・著名な引用商標「バブ」の文字を有するものであり、同構成中の「ナノ」の文字部分が平易な成語(接頭辞)であることも踏まえて考えれば、本件商標を、その指定商品中「化粧品,ヘアーコンディショナー」(以下「取消対象商品」という。)に使用する場合、それに接する需要者において、その構成中の「バブ」の文字部分が強く印象付けられるものというのが相当である。

 したがって、本件商標と引用商標とは、本件商標がその指定商品中の取消対象商品に使用される場合において、一定程度の類似性を有するものといえる。

(3)引用商標の独創性
 引用商標は、「バブ」の文字よりなるところ、当該文字は辞書等に掲載されていないものであって、一種の造語とみるべきものであるから、その独創性は高いといえる。

(4)本件商標の指定商品と申立人商品の関連性
 本件商標の指定商品中の取消対象商品と、申立人商品「入浴剤」は、ドラッグストアやスーパーマーケット、コンビニエンスストアの日用雑貨品売場や薬局等で販売されることが多いものである。また、いずれも美容、衛生又は健康増進のために使用されるものである。

 そうすると、両商品は、その販売場所、用途を共通にすることが多いといえるから、本件商標の指定商品中の取消対象商品と申立人商品は、関連性を有するものといえる。

(5)需要者の共通性
 本件商標の指定商品中の取消対象商品と申立人商品「入浴剤」は、いずれも一般消費者を対象とするものであるから、需要者層は共通するものである。

(6)出所の混同のおそれ
 上記(1)ないし(5)のとおり、引用商標は、申立人商品を表示するものとして周知・著名なものであり、その独創性も高いといえる。そして、本件商標と引用商標とは一定程度の類似性を有し、さらに、本件商標の指定商品中の取消対象商品と申立人商品とは関連性を有するものであって、需要者層も共通するものである。

 してみれば、本件商標権者が、本件商標をその指定商品中の取消対象商品に使用したときは、これに接する需要者は、周知・著名な引用商標を想起、連想し、当該商品を、他人(申立人)あるいは同人と経済的又は組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように、その商品の出所について混同を生ずるおそれがあるというべきである。

(7)小括
 したがって、本件商標は、これをその指定商品中の取消対象商品に使用したときは、他人(申立人)の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがあるから、商標法第4条第1項第15号に該当するものである。

(8)取消対象商品以外の指定商品について
 上記(1)のとおり、引用商標が申立人商品を表示するものとして周知・著名といえるのは、申立人商品「入浴剤」を取り扱う分野においてであるところ、「入浴剤」と本件商標の指定商品中「せっけん類,シャンプー」(以下「取消対象外商品」という。)とは、その用途などが異なることからすれば、非類似の商品というのが相当である。

 そうすると、本件商標をその指定商品中の取消対象外商品に使用する場合、それに接する需要者において、その構成中の「バブ」の文字部分が強く支配的な印象を与えるものということはできず、本件商標は一連一体のものとして認識されるものというのが相当である。

 してみれば、取消対象外商品との関係においては、本件商標よりは、その構成文字に相応した「ナノバブ」の称呼が生じ、また、特定の観念は生じないものというのが相当であり、引用商標よりは、その構成文字に相応した「バブ」の称呼が生じ、また、特定の観念は生じないものといえる。

 そして、両商標を比較するに、外観においては、語頭の「ナノ」の文字の有無によって、明確に区別することができるものであり、称呼においては、「ナノ」の音の有無によって、明りょうに聴別できるものであって、また、観念においては、いずれも特定の観念を生じるものでないから、比較することができないものである。

 そうすると、本件商標と引用商標とは、外観において明確に区別でき、称呼において明りょうに聴別できるものであって、観念においては比較することができないものであるから、両商標が与える印象、記憶等を総合してみれば、商品の出所について誤認混同を生じるおそれのない、非類似の商標というのが相当である。

 また、両商標が非類似のものであって、引用商標が申立人商品を表示するものとして周知・著名といえるのは申立人商品「入浴剤」を取り扱う分野においてであり、「入浴剤」と取消対象外商品とが非類似の商品であることからすれば、本件商標権者が、本件商標をその指定商品中の取消対象外商品に使用したときに、他人(申立人)あるいは同人と経済的又は組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように、その商品の出所について混同を生ずるおそれがあるということもできない。

 したがって、本件商標は、その指定商品中の取消対象外商品との関係において、商標法第4条第1項第11号及び同項第15号に該当しない。

【コメント】
 商標法第4条第1項第15号該当性が争われた「レールデュタン事件」(平成10(行ヒ)85、最高裁判所第三小法廷、民集第5461848頁)においては、「「混同を生ずるおそれ」の有無は、当該商標と他人の表示との類似性の程度、他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や、当該商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との間の性質、用途又は目的における関連性の程度並びに商品等の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし、当該商標の指定商品等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として、総合的に判断されるべきである。」と判断され、レールデュタン事件では、「化粧用具、身飾品、頭飾品、かばん類、袋物」と「香水」とが主として女性の装飾という用途において極めて密接な関連性を有していると判断されました。

 本件と同じく、花王株式会社が、商標「バブ」を引用商標として無効審判を請求した商標「microbub」事件(無効2014-890009)では、指定商品第11類「シャワーヘッド用微細気泡発生器」他と「入浴剤」が密接な関連性を有すると判断されました。

 その理由としては、第11類「シャワーヘッド用微細気泡発生器」他は、「入浴剤」との関係においては、前者がシャワーヘッドや水道の蛇口周辺に取り付ける機械器具で、一方「入浴剤」が薬剤のひとつという点で異なるものの、その主な需要者層は、ともに一般消費者で、しかも浴室において入浴の際に利用するものであり、入浴の際に、小さな泡を発生させ、その泡によって温浴効果や疲労回復、癒しの効果を目的とする点で、両者は密接な関係を有する商品といえると判断しました。また住宅設備用器具の一つといえる給湯器においては、広告等の中で使用できる入浴剤を商標名で明らかにする等の事情があり、シャワーヘッドや水栓金具等についても、給湯器と同様に、需要者が入浴剤とのいわゆる適合性を表示するものとして可能性があることも、「入浴剤」と「シャワーヘッド用微細気泡発生器」とが密接な関係を有すると判断した理由の一つになっています。

 商標法第4条第1項第15号における商品の関連性においては、用途及び目的が重要なポイントになります。

 本件について検討すると、取消対象商品「化粧品,ヘアーコンディショナー」と取消対象外商品「せっけん類,シャンプー」もドラッグストアやスーパーマーケット、コンビニエンスストアの日用雑貨品売場や薬局等で販売される商品で、いずれも浴室において使用される商品であり、需要者も一般消費者ということで、販売場所や需要者の点においては申立商品「入浴剤」と共通します。

 しかしながら、取消対象商品「化粧品,ヘアーコンディショナー」は申立商品「入浴剤」と美容、衛生又は健康増進のためという用途を共通にする一方取消対象外商品「せっけん類,シャンプー」は申立商品「入浴剤」とは用途を共通にしないとして、判断が分かれました。「せっけん類,シャンプー」も美容や衛生を目的とするものであるものの、「せっけん類,シャンプー」の主目的は「洗浄」にあることから、「入浴剤」の用途とは共通にしないと判断されたものと推察します。

 しかしながら、「せっけん類,シャンプー」の主目的である「洗浄」は衛生目的であり、入浴剤との関係で密接な関連性を有すると判断されてもいいように思いました。

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