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豆知識

2024.09.15

商標Q&A 第12回 海外でも商標を使いたい場合はどうすべき?その2

商標Q&A 第12回 海外でも商標を使いたい場合はどうすべき?その2

Q: 国内でアパレルブランド「イロハ」を展開しておりましたが、今般、海外展開を見越したリブランディングを行い、「ILOHA」の商標で北米と欧州から展開をしていきたいと思っています。どういう点に注意をすればよいでしょうか。

A: 前回(その1)のQ&Aでは、主にブランディングの観点から海外展開を行う際の注意点等について書かせていただきました。今回は、国内外で商標をどのように保護していけばよいか、もう少し踏み込んで見ていくことにしましょう。

 まずは新しい商標案が国内外で登録・使用可能かどうか、ざっとチェックをするところから始めます。国内については、商標「イロハ」を以前から使用し登録もされていたでしょうから、称呼が同一である新商標「ILOHA」についても問題ない可能性が高いでしょう(もちろん、確認は必要です)。問題は海外です。日本のJ-PlatPatのように、知的財産に関する各国の官庁や関連機関は、大抵、その国で出願/登録されている商標のデータベースを無料で公開しています。ただ、国ごとにデータベースを探して一つ一つ商標を検索していくのは大変ですよね。そういう時は、複数の国や地域を横断的に検索できる無料データベースを活用すると便利です。代表的なものは以下の2つです。

Global Bland Database:世界知的所有権機関(WIPO)による商標データベース

TM View:欧州連合知的財産庁(EUIPO)による商標データベース

どちらも世界各国の商標を幅広くカバーしており、大変使い勝手の良いものですが、若干、仕様や収録範囲に違いがあります。例えば、TM Viewについては運用官庁こそ欧州(EUIPO)ですが、商標5庁(TM5)といわれる日米欧韓中の各国商標官庁がオフィシャルに関わっている商標データベースプロジェクトですので、TM5のメンバー国である中国の商標データも収録されています。一方、WIPOによるGBDは中国は含まれておりませんが、逆に、TM Viewでは非対応の国についてもカバーされていたりします(たとえばインドネシアなど)。

 今回の対象国は北米と欧州ですので、いずれのデータベースを用いても問題ありません。ここで注意すべきは、欧州には「欧州商標(EUTM)」という広域商標制度が存在することです。このEUTMは欧州連合(EU)全域に商標権の効力を及ぼす制度でして、例えば、フランスやドイツ、イタリアなどにブランドを展開しようと考えている場合、これら各国の商標をチェックするだけでなく、EUTMについても障害となり得る既存商標がないかどうかをチェックする必要があります。このEUTMについては知っておくべき特徴が多く、回を改めて詳しく解説しようと思いますが(相対的拒絶理由の無審査や、異議申立におけるクーリングオフなど、日本と異なる制度がてんこ盛りです!)、まず気を付けるべきことは、「EUTMは欧州全域ではなくEU加盟国についてのみ効力を有する」という点です。欧州商標という呼び名から、ついつい欧州全域についての商標権と思われてしまいがちですが、EU非加盟国であるスイス・英国・ノルウェーなどはEUTMの効力外です。ファションブランドとなるとEU非加盟国の英国が重要なマーケットとなる可能性も高いですから、商標の調査&出願を行う上で、この点はしっかり把握しておく必要があります。

 さて、WIPOGBDやEUIPOのTM Viewを使って、少なくとも同一レベルの商標は検出されなかったとしましょう。では、早速商標出願を行いますか?それでも構いませんし、更に詳細な調査を行っても構いません。どの国においても、商標権は同一の商標のみならず類似する商標についても効力が及びますので、ざっとデータベースを調べて同じ商標が検出されなかったからといって、その商標が各国で使用・登録できるとは限りません。また、類似や混同といった概念は、国ごとに大きく異なります。そのため、重要なマーケットとなりそうな国や地域においては、事前に、詳細な商標調査を現地代理人に依頼することも一策となります。ただし、使用主義を採用する米国で本格的な調査をするとなると、市場における商標の使用までチェックする必要がでてきますので、非常に費用が嵩みます。また、欧州では、EUTMのみならずEU加盟国全てにおいて細かいフルサーチを行うとなると、これまた時間と費用が非常に嵩みます。そのため、一言で詳細な調査を行うといっても、どの国についてどのレベルで調査を行うのか、その商標の重要度や各国の重要度、予算などを考慮に入れながら、事案に応じた調査を行う必要があります。

 その結果、例えば「どうも英国では商標ILOHAが使えないようだ」となりますと、①英国も含めた欧州・北米・日本のすべての国や地域で使用・登録が可能な別の商標案を再検討する、②先に英国企業と交渉してダメなら別の商標案を再検討する、③ひとまず英国以外の各国で商標の権利化とブランドの展開を進めながら英国企業と交渉する、④英国だけは別商標で展開する…等々、さまざまなオプションを検討することとなります。

 ということで、今回は海外展開をする前に、その商標が諸外国で登録・使用可能かどうか、調査をするステージにおける留意点について簡単に説明させていただきました。「この製品をあの国で売りたいんだけど、商標、あの国で使っても大丈夫かなぁ…」といったご不安をお持ちの方、ぜひお気軽に弊所へご相談ください。事案に応じたご提案をさせていただきます!

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