TRADE MARK TOPICS 商標お役立ち情報
事例紹介
2024.05.15
説明的な語を組み合わせた商標の識別力 [弁理士 德永 弥生]
【審判番号】不服2022-15763
【本件商標】ノンフィクションゲーム(標準文字)
第41類「娯楽イベントの企画・運営」
【拒絶理由】商標法第3条第1項第3号
【結論】原査定を取り消す。本願商標は、登録すべきものとする。
【原査定の拒絶の理由の要点】
本願商標は、「ノンフィクションゲーム」の文字を標準文字で表してなるところ、その構成中「ノンフィクション」の文字は、「虚構を交えず、事実を伝えようとする作品・記録映画。」の意味を、「ゲーム」の文字は、「遊戯。」(同参照)等の意味をそれぞれ有し、本願の指定役務に関連する分野において、「ノンフィクション映画」や「ノンフィクション作品」のように称されている実情に加え、現実世界を舞台にしたゲームや実在する施設を舞台にしたゲーム、現実社会のニュースや経済用語を用いたゲームなど、事実に基づいたゲームが存在していることが確認できる。そうすると、本願商標は全体として「事実に基づいたゲーム」ほどの意味合いを容易に認識させるから、本願商標をその指定役務に使用しても、これに接する取引者又は需要者は、当該役務が、「事実に基づいたゲーム」に関する役務であることを認識するにとどまる。
【当審の判断】
本願商標は、「ノンフィクションゲーム」の文字を標準文字で表してなるところ、構成中の「ノンフィクション」の文字は、各辞書において、「虚構を交えず、事実を伝えようとする作品・記録映画。」(広辞苑第七版)、「虚構を用いずに事実をもとにして書いた文芸作品、例えば伝記、紀行、史実などの記録文学」(「コンサイスカタカナ語辞典第4版」株式会社三省堂発行)、「記録文学・紀行文・体験記など、つくり話・小説でないもの。」(「新明解国語辞典第八版」株式会社三省堂発行)と記載されているように、基本的には、記録文学などの書物や記録映画を指すものである。
他方で、本願商標構成中の「ゲーム」の文字は、基本的には、事実に基づく必要のない創作物であって、プレーヤーが様々な取捨選択等を行いながら遊ぶものであり、「虚構を交えず事実を伝えようとするもの」とはいい難い。
以上からすると、「ノンフィクション」と「ゲーム」とは、本来的に結びつきが弱い語同士であり、これらの語を組み合わせた「ノンフィクションゲーム」の文字自体から、直ちに具体的な役務の質(内容)を把握することは困難である。
また、当審において職権をもって調査するも、補正後の指定役務の分野において、「ノンフィクションゲーム」の文字が、例えばゲームの一ジャンルを表すものであるなど、特定の役務の質を表すものとして取引上一般に使用されている事実は発見できず、さらに、本願の補正後の指定役務の取引者、需要者が、当該文字を役務の質を表示したものと認識するとみるべき特段の事情も発見できなかった。
そうすると、本願商標は、その指定役務に使用をしても、役務の質を表示するものということはいえず、自他役務の識別標識としての機能を果たし得るものと判断するのが相当である。
識別力のない説明的な語を組み合わせた商標は、全体としても識別力がないという判断となる傾向が強い昨今ですが、本件は全体として識別力があるとの判断となりました。本件審決でも「本来的に結びつきが弱い語同士の結合」と述べられているように、普通はこの語同士を組み合わせて使わないというところがポイントとなりました。